カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

あまりに引っかかりのない『プレーンズ』(ネタバレあり)

プレーンズ(2013)(Import) DVD
監督:クレイ・ホール。農薬散布機のダスティ君は、来る日も来る日も農薬を畑にまいて暮らしておりましたが、一念発起して老軍用機の訓練を受け、世界一周飛行機レースの予選に出てみたところ、なんか予選突破してしまったので本戦に出れるぜ!イエッフー!しかし彼はなんと高所恐怖症という弱点を抱えていたのでした。飛行機のくせに。はたしてダスティ君の首尾やいかに…。というお話。


車をはじめ、飛行機や船といった乗り物が、そのまま擬人化されて人間の代わりに社会を形成しているという『カーズ』の世界からのスピンオフ飛行機版で、タイトルも『プレーンズ』。直球です。『カーズ』一作目は類型的な作りながら、若者の成長を丁寧に描いた傑作で、続く『カーズ2』は一転してスパイアクションコメディになったという怪作でしたが、じゃこの『プレーンズ』はどうだったのか。正月の帰省先で『カーズ』大好きな息子(3歳)を引き連れて観てまいりました。ちなみに2D版を鑑賞。


感想:おもしくなかったです。


とにかく話が凡庸にすぎる。才能を秘めた若者がイージーなノリでレースに出て、ラッキーで予選を突破し、ライバルと友情その他をなんとなく育みつつなんとなく飛んでたらなんとなく上位に食い込んできて脚光を浴び、ライバルに妬まれ妨害を受けて窮地に陥るも、それまでの友情のおかげでみんなが助けてくれて無事優勝しました。終わり。というおでんの中の煮玉子のようなまことに引っかかりの無い話で、やっぱり主人公が試練を努力で切り抜けたり逆境に耐え忍んで光明を見出したり、というような明確な葛藤がないと物語というのはこんなに詰まらないのだな、ということをまざまざと体現しておりました。


作り手としても一応「飛行機のくせに高所恐怖症」という葛藤ポイントを設けてはおりますが、それによっていかに主人公が逆境を強いられるか、苦悩するか、つらい目に遭うか。といった描写が甘いまま、終盤に思い切って高く飛んでみたら意外に平気だったよ!ついでににジェット気流に乗って一番になったんだ!イエーィアハハハ!と言う感じで葛藤装置としての高所恐怖設定は見事に水の泡へ。おいコラ。


このあたり『カーズ』が類型的と言いながらもいかにうまく葛藤を脚本に盛り込んでいたかを思い起こすとよろしい。主人公のライトニング・マックィーンはイケイケの若手ですが、天狗になったために人望ゼロで内心満たされない思いを抱えておりました。コレが葛藤その1。さらに彼がある田舎町で罪を犯して勾留され、レースの前の大事な時間を全く望んでいない奉仕活動に費やさねばなりません。コレが葛藤その2。さらにそこでポンコツ老レースカーにコテンパンにやりこめられ、プライドを傷つけられていつか見返してやると闘志を燃やします。これが葛藤その3。これら複数の葛藤が、ドラマの展開につれて次第に解きほぐされ、新しい友情の誕生や、信頼の獲得や、逆転の勝利へと昇華されて解消し、観客はスッキリすると共に感動を覚える、という仕掛けになっているのでした。


『プレーンズ』はそこが決定的に弱い。若者が引退した老人に鍛えられてレースで勝つ、というドラマの大枠は『カーズ』とよく似ているものの、『カーズ』における両者の関係が「生意気な若者と老練のベテランの対立」という関係性から、度重なる衝突を経て互いに認め合い、葛藤を解消して最後には無二の信頼関係を結ぶ、という展開に至る重厚さにくらべ、『プレーンズ』においては二人の関係性が単なる生徒と先生の域を出ず、用意されている両者の衝突も師匠の経歴詐称をめぐるものでレースという主たるストーリーにあまり関係していません。なんでえこのジジイ偉そうな口をきいといて実は…という展開に主人公のダスティ君はおろか観客まで失望します。そこから師匠の名誉をいかに回復するかがドラマの見せ所ではあるのですが、この映画はそこに至る過程をすっ飛ばしていきなり師匠にええカッコをさせ強引に葛藤を解消しようとします。が、観客としては唐突に過ぎていまひとつわだかまりが解けない。というかそれだけでいいの?とすら思う。よってスッキリしない。


主人公は最初に訓練を積んで初めてのレースに挑みますが、それ以降は特に努力とか根性とかの結果で成長を感じさせることもなくレースに順応していきます。途中二度ほど大きく性能を伸ばす場面があるものの、一度目は農薬散布用のタンクを外して身軽になったことによるものでそんなもん最初からはずしとかんかい!二度目は友人たちが彼の人柄に惚れ込んで凄いパーツを一杯貸してくれたよ!という大変他力本願なもので、まあ善根を施しておけばそれは廻り廻って自分に帰ってくるものですよ的なドラマ性はありますが、ある逆境を乗り越えたとするには安易な感じは否めず、葛藤の解消としてはかなり苦しい。


物語のテーマとして「人は定められた役割以上のことができる。与えられた仕事に縛られなくてもいいんだ」というものがあり、それ自体は良いとしてもこのテーマを劇中人物がハッキリと台詞として言ってしまう時点で、それは脚本の敗北だと思います。台詞としてハッキリ言わせるのではなく、主人公の心意気や頑張りや逆境を乗り越える様をしっかりと見せることで、それを言外のうちに感じさせるのが優れた物語ではないのか。それができていないから、やむなく台詞で説明せざるを得ないのではないのか。


というわけで物語としては面白みがなく、予定調和的にダスティ君はレースに優勝してメデタシメデタシで映画は幕となるのでした。いかにもディズニー的なコメディリリーフや悪役はいたものの、魅力に薄く、ヒロインに至ってはむしろいなくても良かったよねというレベルで大変残念な感じ。子供もそんな状態を感じ取ったのか、開始後30分で「もう帰りたい」と言い放って保護者としては大変トホホでございました。ただ、細かいストーリーはさておき一個一個の場面は迫力たっぷりにできており、途中出てくる第二次大戦の回想シーンはオオッと思う壮絶なものがあって、そういう面では子供も一応満足していたようではあります。が、やっぱりこの話の引っかかりのなさはちょっとないわ。というわけで以上よろしくお願い致します。



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シンプルゆえに力強い『ゼロ・グラビティ』(ややネタバレ気味)

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監督:アルフォンソ・キュアロン。主演:サンドラ・ブロックジョージ・クルーニー。不慮の事故で宇宙空間に投げ出された二人の宇宙飛行士…彼らは無事生還できるのか?とストーリーをまとめたら一行で終わってしまった。何というシンプルさ。しかしたったこれだけの内容ながら、映画は90分間全くダレない濃密なジェットコースターの様相を呈し、映像的にも映画史に残るイノベーションを実現して、なおかつ結末ではドドーンとソウルに来る感動がという大三元映画。


まず大三元の「白」であるところのジェットコースター要素。サンドラ・ブロックジョージ・クルーニーの二人がシャトルでの船外活動中、銃弾のように襲ってくる大量のスペースデブリに遭遇し、シャトルが大破して宇宙空間に投げ出されるところが発端です。もうこのシチュエーションからして人生終わった。詰んだ。グッバイ地球。グッバイ酸素。この状況からどうやって生き残るのか、考えただけでも既に無理ゲーですがこのへんの絶望感は予告編映像を観たほうがおわかりいただけるかと。



どうすんのこれ。いやまあここで二人が投げ出されっぱなしだと映画は自動的にエンドになってしまうのでこのあと気合でなんとかしてしまう訳ですが、窮地を乗り切ったらまた窮地、ピンチにつぐピンチで観客が退屈するヒマ一個もなし。かといってむやみにドッカンドッカン爆発が続いたりアクションが続くというわけでもなく、じわじわと張り詰めた感じが次第に緊張の度合いを増して、それが突然暴力的な破局に至る、という緩急の付け方が実に巧妙です。後述しますがこの映画は極端な長回し映像が多用されており、カットの切れ間がないまま場面が持続することで息苦しいほどの緊張感が生まれています。その状態のまま成すすべもなく訪れる圧倒的な破壊のシーン。ゴミくずのように翻弄される人間。しかし人間の方も何とかして生き残りたいわけですが、そうは言ってもここは宇宙。酸素が切れたら死。命綱が切れたら死。デブリ(金属片とかが音速で飛んできます)が当たったらただちに死。宇宙服が破れたら死。しかも重力と空気抵抗が無いもんですから、慣性の法則が無制限に働いて自由に動くことすらままならない。という過酷すぎる状況でのサバイバルですから観てる方のハラハラも半端ないわけです。


続きまして大三元の「発」である映像面。ポイントは3Dにおける臨場感と、驚異の長回しです。臨場感については、特にIMAX 3Dで観た場合、自分も宇宙空間に浮いているかのような浮遊感が味わえ、こちらに飛んでくるデブリの表現に思わず目を閉じちゃったり身をかわしちゃったりします。この浮遊感がほぼ全編を通して維持される状態で、なおかつ尋常じゃない長さの長回しが敢行されて膀胱がプルプルします。特に冒頭の十数分、穏やかな船外作業の状態から、デブリが来襲してシャトルが木っ端微塵に破壊され、サンドラ・ブロックが投げ出されてくるくる回転しながら宇宙の果てに向かって飛んで行く、この一連のシーン(上掲の動画参照のこと)があまりにも凄い。こうやって書き連ねただけでもミラクルな感じがしますが、長回しの間カメラは縦横無尽に動くだけでなく、客観の視点からサンドラ・ブロックの主観にスムーズに移行し、また自然に客観に戻るといったアクロバットを繰り返します。なんとカメラが宇宙服のヘルメットを平気で通り抜けるんですから凄い。もうどうやって撮ったの?とか聞くのもムダな気がするレベル。


映像の質感も判ってるなオマエ!という感じで、むかしのアポロ計画の記録映像みたいな、光と影が明確なコントラストを描く質感をバッチリ再現しており、往年の宇宙開発の雰囲気をバッチリ再現しつつ、デブリのいっこいっこまでがバッチリ見える高解像度。この鮮明な映像でシャトルやら何やらがバラッバラに破壊されていくのを全くごまかしなく見せてしまう。もう観ていてアニメーターの労力とか予算とかマンパワーとか人月とか工程管理とかそういうところにも気が回ってしまい別の意味でも気が遠くなります。すげえ。


この映画の凄いところは、このようなビックリ見世物映像が炸裂しているにもかかわらず、内容が感動的であるということで、いわば最後の「中」がポンできて大三元が確定しちゃったというか、実際に麻雀で白と発をポンしたらだれも中を切らなくてまず上がれないのと同様これはまことに稀有なことです。ここでシンプルな物語が生きてきます。生命維持を全く許さない宇宙空間で、生き残ることを希求する。このシンプルな行動が、シンプルすぎるが故に哲学的なところにまで斬り込んでいます。こういう環境下でなぜなおも生きようとするのか。なぜそれが観ている我々に感動を呼び起こすのか。それを考える事自体が取りも直さず哲学そのものです。そして、映画の方も観客にそれをさせるべく周到にディティールを仕込んできます。あまり細かくは書けませんが、あるところで突然流れてくる赤ん坊の声!ここで人間の源泉、人間の素晴らしさを思い起こさせるこの声を入れてくる脚本の巧妙さが凄い。この時の状況とこの後の展開を考えれば、コレ以上の選択肢はないと思われる黄金の一手と言えます。


登場人物がごく少なく、しかも顔を出して演技しているのがサンドラ・ブロックジョージ・クルーニーの二人だけというきわめてソリッドな映画です。サンドラ・ブロックの方は追い込まれて幾度と無く絶望しかけますが、それを乗り越えて生存に向かっていく様をほぼ一人芝居に近い形できっちり演じており、その説得力が映画の感動に深く寄与しています。正直サンドラ・ブロックをイイと思ったのはこれが初めて。ジョージ・クルーニーはベテラン船長の役どころですが、しじゅう軽口が止まらないという実際にいたら面倒臭そうな役柄ながら、いざというときの沈着冷静っぷり、落ち着きと行動力、頼りになる感じが素晴らしく、途中2度ほどこの人がサンドラ・ブロックの命を救う描写がありますが、それがいずれも「いよっ!ジョージちゃん!」と大向こうから声を掛けたくなる男前っぷりで、なんというかもうこの人にだったら正直抱かれてもいいと思った。


このようにシンプルでありつつも、それがシンプルであるために根源的で、それゆえに感動的で、なおかつそうあらしめるための演出、演技がこの上なく力強い。なおかつ映像が驚異的で、あまつさえ面白すぎる、という稀有な役満映画でした。観るなら絶対3Dで!可能ならIMAXで!

真の恐怖映像『この子の七つのお祝いに』(ネタバレ有り)

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監督:増村保造。出演:岩下志麻根津甚八岸田今日子杉浦直樹いやーこれはマジで怖いもん観ちまったぜ!こんなん観たらもう布団かぶって寝るしか…。ルポライターの杉浦直樹は、怪しげな手相占いで政界を裏から操ると言われる謎の女「青蛾」の謎を追っておりましたが、情報提供者が惨殺されたため「これは久々にデカいヤマにぶち当たったか?」と大ハッスル。後輩の根津甚八を巻き込んだり、バーのママの岩下志麻とねんごろになったりしながら事件の核心に迫っていきますが、真相にぶち当たった直後に変死。根津は杉浦の仇を討つべく調査を引き継ぐものの、浮かび上がって来たのはなんと岩下ママでマジっすか。というお話。


原作は斎藤澪の第一回横溝正史賞受賞作で、出版当時は映画化の話題もあって随分評判になってた気がします。童謡を引用したタイトル、ビジュアルのキーイメージが日本人形、と日本的なオドロオドロしさがスパークしており、角川書店金田一耕助シリーズ終了後の後釜を創ろうとしていたのが判りますが、うまくいきませんでした。まあミステリーとしては岩下志麻が最初から犯人にしか見えないのはどうなのかとか、余りにも救いのない真相と結末とか、金田一シリーズのようなユーモア味もなくて実に潤いがないとか、いろいろ理由はありそうなのですが、一番の原因は「ガチで怖すぎた」というところではないかと。


ここから先はネタバレますが、いやー何が怖いって岩下志麻の母役の岸田今日子ですよ!この話は夫に捨てられた岸田今日子が、その恨みを娘の岩下志麻に子供の頃から吹き込みつづけ、長じた岩下が父への復讐のために邪魔する人間をザックザック殺してゆくというものなのですが、その回想シーンでの岸田今日子があまりにもガチ。夫が自分から離れそうになり、夜中に暗がりで「殺してやる…」とぶつぶつ言いながら豆腐や大根にみっしり縫い針を突き刺すサイコ今日子。夫が隠れて他の女に会っているのを「知ってるのよ…」と病んだ眼でクスクス笑うストーカー今日子。娘に父親への憎しみを刷り込むため、本当は金を持っているくせに貧乏のフリをして娘を飢えさせる虐待今日子。夜な夜な寝物語として娘に父への恨み事を聞かせ、話が佳境に入ると発作的に針で父の写真の顔のところをププププププと針で突く今日子地獄突き。最終的に娘の布団の中で手首を切りトラウマを完成させて果てる今日子メガンテなど、各種取り揃えたスキのないフォーメーションで迫り来る今日子の恐怖!五十路とはいえまだまだ女の色気が残っている頃の岸田今日子が、艶然というか、妖艶というか、妖怪というか、そういうノリでネッチョリと演じており、その恐ろしさは筆舌に尽くしがたい。あまたのトラウマ映像が束になってもかなわない、真の恐怖映像ここにありです。


さらに、娘の岩下志麻もそのような英才教育のたまもので鉄壁のメンヘラに育ち、残っていた正気も脳裏に蘇る母の声でかき消されズンバラズンバラ人を殺すのでした。正気を失って「おかーさーん!」と極妻ボイスで叫びながら刃物をふるう姿は余りにも恐ろしい。さらに最後、すべて自分は母の妄執に動かされていたことを悟った岩下はドスの効いたボイスで「この子の七つのお祝いにぃ〜…暗いよ、さむいよ、おかーさーん!」と歌いながら壊れきるのでしたが、これがまたつい目を背けたくなるいたたまれなさで観客の心象風景はお通夜です。語り草なのが事件の手がかりとして出てくるセーラー服姿の岩下志麻の写真ですが、こんなイメクラみたいな高校生がおるか!同様にこの時既に五十路を超えていた岸田今日子がピチピチ若妻の役を物の怪のように演じているのも怖い。この二大女優の面妖演技があの増村保造のコッテコテやりすぎ演出でブーストされ、下手なスプラッターよりも激しい血しぶきとか、役者の息止めがつらそうな血まみれ死体の長写しとか、血のように真っ赤な夕焼けの部屋で不気味に佇む日本人形とか、この時期の日本映画としてもかなりどうかしてる感じにあふれています。長らく忘れられていた映画ですが、この怖さはひょっとしてこれからカルト化するんじゃないのか。今後の再評価に期待したいところです。

圧!倒!的!力!技!『パシフィック・リム』(ネタバレ有り)

Pacific Rim Original Motion Picture Soundtrack
監督:ギレルモ・デル・トロ。主演:チャーリー・ハナム菊地凛子。気がついたらこのブログも半年以上放置の刑でしたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。昨年末以来実に久しぶりに映画館に赴きましたのでここに謹んでご報告です。お題は各所で評判の『パシフィック・リム』。半年ほど前から動画サイトで予告編を見ては盛り上がり、公開後はツイッターのタイムラインに並んでくる絶賛絶賛また絶賛のコメントにこれは大変な事になっておる!と期待玉がむくむく膨張していたわけでございますが、ようやく行けた。観に行けた。


や、予告の段階で、凄まじい内容であることはもう判り切っておったわけです。巨大ロボットVS大怪獣!操縦方法はジャンボーグA!発進時はパイルダーオン!必殺技はロケットパンチ!といった80年代に少年時代を過ごした元ガキンチョの琴線にビンビンくる内容が、実写で、しかも思い付く限り最高のビジュアルで展開されようとしておる!なんということか!予告を何度も何度も何度も繰り返し見て盛り上がった元ガキンチョ。もうすぐ42歳です。


で、これはもう最高の環境で観ないと申し訳が立たん!と思い、IMAX 3Dの劇場を選択。じつはこれ初体験だったので、画面に集中するためにもあえて吹き替え版で。普段は吹き替え版を極力避ける私でしたが、今回は客寄せを狙ったキテレツなキャスティングも無く、むしろ私のような元ガキの琴線を狙い撃ちして池田秀一林原めぐみ玄田哲章といったその筋の方々を集めているため、そちら方面での抵抗は皆無でした。良かった。本当に良かった。


内容に触れる前に言うと、IMAX 3Dにおけるこの映画の鑑賞体験は最強の臨場感で、画質、立体感、音響、どれをとっても凄まじいものがあり、迫力の点ではもはや何かが極まってしまったと言っても過言ではないかと。なので以下の感想もそのつもりでお読み下さい。





感想:迫力超ド級!圧倒的力技!


とにかくこの迫力は尋常ではない。身長100m近い巨大ロボと大怪獣が格闘するというだけでも迫力満点なのに、それがまた動きや重量感、構図や音響で更に迫力倍増するよう全力でブーストされてるもんですから、冒頭のアラスカ沖の戦いが始まった途端にもう心の膀胱が失禁です。巨大な鉄の塊がギシギシ軋みながら、その重さをヒシヒシと感じさせつつ、圧倒的なパワーとキレキレの動きで凶悪な怪獣をどつき倒す!この、巨大さ&重さを感じさせつつ動きがベラボーにカッコイイというのがミソで、その暴力的なまでの迫力に、観客も打ちのめされ圧倒されます。映画に翻弄され制圧されると言ってもいい。


序盤からこの調子なので、中盤の香港防衛戦に至ってはもう終始脳からアドレナリンとドーパミンが出っぱなし。巨大ロボチームと怪獣チームの団体戦、しかも夜の大都市で、立ち並ぶ高層ビルをなぎ倒しながらの肉弾戦。思う存分どつき合うロボと怪獣。殴っても殴ってもビンビン向かってくる怪獣と、心をへし折りに来るようなえげつなさ満点の攻撃。それにさらされボロボロになりながらもなお戦いを止めないロボの勇姿。暴れる怪獣を成敗するため、鉄パイプの代わりにタンカーを引きずって立ち向かうロボの後ろ姿にはヤクザ映画もかくやの男気すら感じます。武器にしても、鎖状から一瞬で剣状に固まるチェーンソードとか、胸のハッチが開いてロケットランチャーがバババババシュンとか、もう字面にしてみると超絶に小5感が溢れてますがこれがえらいことカッコイイ。見せ方にケレンがある。いちいち見栄を切りまくり。こうした武器をどう見せれば一番カッコよく見えるのか、作ってるヤツがちゃんと判ってます。もうビンビンです。


この2つのシーンは本当に素晴らしく、感動の余り本気で目頭が熱くなるレベルで、こういう夢の様な映像をまさか拝める日が来ようとは…と感無量。ガキの頃の自分に観せたら人生踏み外しそうな凄さ。ただこれに続く最終バトルは、怪獣の巣窟に乗り込んでいってバルサン炊くが如く核で一掃、という話なので、やっぱり最後の頼みは核かよ!という残念感と、それに伴いロボが防護服に見えてくるガッカリ感が漂ってきます。やっぱり観てて燃えるのは最後に立っているのはどっちだというロボと怪獣の肉弾戦なわけで、何もかも吹っ飛ばす相打ち覚悟の自爆戦法はストーリーとしては燃えるかも知れませんが、我々が本当に観たいものからは少し外れていると言う気も。ラストシーンはボロボロでもいいから何とか立っているロボの勇姿でお願いしたかった。いやホント。


ストーリーもドラマ部分も、ハリウッドのメジャー級作品として必要な程度には一応入ってます。一応。確かにそこだけ取り出せばこれは薄いし、並の映画なら突っ込みどころとして叩きの標的になる部分かも知れません。しかしそんなことは全く問題にならないのがこの映画の凄いところで、そんな弱点は圧倒的な格闘シーンの前に吹き飛んでしまう。どうだこれカッコイイだろ?スゲーだろ?おまえらだってこういうの観たかっただろ?と言いながら作り手が全力で出してきた映像がこれで、それが余りに凄すぎるためになまじ弱点のことなんかもうどうでも良くなってしまう。というかむしろそんなまだるっこしいシーンは要らん!もっとバトル見せろ!とすら思っちゃうという。こんな豪快な力技見たことない。できる限り劇場で、でかい画面とでかい音で、可能ならばIMAX 3Dで、この迫力をご堪能されたし。こういうのが好きなオッサンは何を置いても必見です。




以下落ち穂拾い的にコメント。


・数あるロボのうち、個人的に方に二発の大砲を背負った日本製の「コヨーテ・タンゴ」がガンキャノンみたいでお気に入りだったのですが、いつ出るかいつ出るかと登場を楽しみに待っていたところ、回想シーンでチラッと出てくるだけの扱いでガッカリでした。あの肩のキャノンをズンバカズンバカ撃ちまくる姿はそれは燃え燃えのハズだったのですが、無念です。


菊地凛子は良かったですね。初登場時の黒衣で傘持って佇んでる姿がイイんですが、なんだか見覚えがある。何へのオマージュだろう?あと耳の下にチョロっと入った青いメッシュが気になって気になってしょうがなかった。


・音楽、音響共に良し。エンドタイトルの曲が印象的な主題で燃えます。これはサントラ欲しい。


・国内マスコミで話題となった芦田愛菜ちゃんですが、泣きの演技が余りにガチで、お、恐ろしい子…と思った。

かつてない異色作『007 スカイフォール』(ネタバレ無し)

007/スカイフォール オリジナル・サウンドトラック
監督:サム・メンデス。ミッション遂行中に撃たれ、生死不明となってしまったボンド(ダニエル・クレイグ)。MI6を爆破され「己の罪を思い出せ」と謎のテロリストに追い詰められるM(ジュディ・デンチ)。シルヴァという名のそのテロリスト(ハビエル・バルデム)は実は元MI6のエージェントで復讐心グツグツ。ヨッレヨレになりつつも復活したボンドはMを護ってシルヴァと対決するのであった…。というお話。


この映画、007としてはかつてない異色作です。Mと007とシルヴァという、Mを頂点とした三角関係&擬似親子関係を軸に、そこを掘り下げて深みのあるドラマを目指していますが、まさか007でガチの人間ドラマを追求してくるとは…。監督がアクションとは違う畑のサム・メンデスなのもそこを狙ってのことだと思われます。その試みはある程度成功していると思いますし、新鮮でもあるのですが、しかし007でそれやるってよう…という間違えて女子トイレに入ってしまったかのような場違い感。


ボンドとMの擬似親子関係は後半になってさらに強調され、なんと父親代わりの男まで出てきて、敵を迎え撃つ準備をしながら3人の間に親子のごとき関係性がにじみ出てくるという、感動の名作風味のしっとり描写が展開されます。いや映画としては良いかも知れん。ですがこれ、007なのです。スパイ!アクション!美女!秘密兵器!英国紳士ジョーク!というかつての方向性からは人が違ったような重厚な人間ドラマっぷり。どうしちゃったのボンドちゃん!


人間ドラマといえば、今回ボンド自身もやたらと人間臭く、死にかかったために上司不信になるわアル中になるわ腕は落ちるわで、かつてのスーパースパイっぷりはどこへやら。もちろん数多の映画ならこれらは全部キャラのコク味を増すための周到な仕込みになるのですが、でもこれって007なんですよ。繰り返しますが。ここまでボンドの人間臭い部分を赤裸々に描いたことは今まで無かったのです。ダニエル・クレイグ主演となってから多少なりともその傾向はありましたが、ここまで突っ込んでやってるのは初めて。かつてない容赦無さで描かれるダメボンド。確かに人間ドラマとしてのコクは深まったものの、そのためにヒーローとしてのボンド像は少なからずトレードオフされておりまして…。むむむ。


そのあたりをさり気なく映画の彩りとして描いたのであれば、あまり気にならなかったかも知れませんが、今回はむしろそこが映画の根幹を成しています。ここが過去作との決定的な違いで、ファンであれば感じるであろう大きな違和感、異質感の原因でしょう。


これアカデミー賞を狙ってるんじゃないでしょうかね。これまで007は技術部門を除いて受賞とほぼ無縁でしたから、シリーズ開始から50周年の節目に当たる今作で主要部門への食い込みを狙っているんじゃないか。そのために掘り下げられた人間ドラマであり、アカデミー賞監督と俳優の起用ではないか。作家性の結果こうなったのではなく、最初から戦略的に企まれた賞レースへの目配せではないのか?そういうスケベ心の介在を感じます。そのためにますますブーストされるかつてない異質感。


とにかく、これは本家007としては史上最大レベルの異色作といえます。終盤に向かう展開といい、衝撃的な結末といい、異色の一言。しかも因果なことにこれがまた結構面白かったりして、ファンの心情は複雑です。特に特筆しておきたいのはシルヴァを演じたハビエル・バルデムの怪演!『ノーカントリー』の時とはまた違った方向性でガイキチな悪役をこれまた実っつに楽しそうに演じてて、ここ20年では007の悪役として最高のインパクト。逆に今回ちょっと弱いのはアクション方面で、歴代のシリーズに比べてやや見せ場とスケール感に欠けます。まあ人間ドラマ方面に重きを置いたせいもあるでしょうが実はMGMの財政難のせいなんじゃね?予算ケチった?


とりあえず今回は概観としてここまで。次回はネタバレしつつ作品のディティールについて細かく書いてみたいと思います。乞うご期待。





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