だいたいにおいて、深夜から明け方に掛けて鳴る電話のベル(特に家電の)は、あまり気持ちのいいものではありません。というよりは怖いと言ってもいいでしょう。
そんな時間にかかってくる電話は大抵緊急の用事で、ベルが鳴ってから受話器を取るまでのたった数秒の間に身内や知人の不幸をつい心配してしまうからです。
今朝の五時。
突然鳴り響く電話のベル。
その音でいきなり叩き起こされ、一瞬であらゆる心配が意識の上に装填されるのを感じながら受話器を手に。
…取るのが遅れたせいか、留守電が起動してしまいましたが、かまわず受話器を耳に当てました。
「もしもし?」
「……」
「もしもし?もしもし?」
「……」
かすかに聞こえるのはサーッという暗騒音のみ。
「もしもし?」
しばし沈黙があって、
「…デンワ ノリコ」
…切れる電話。
一瞬何が起こったか分からず、留守電を再生してみても、やはり沈黙のあとに呟くような低い女の声で
「…デンワ ノリコ」
…さっきまで感じていた心配は引っ込み、代わりになんとも言えない薄気味の悪さを感じてゾッとしながら再生を止めました。私にはノリコという名の知り合いはいないのですが…(あとで聞きましたが、同居人にも心当たりはないそうです)。やはり明け方の電話はちょっと怖い。
その声はまだ留守電に残っています。