カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

「ビーチ・ボーイズのすべて」中山康樹

ビーチ・ボーイズのすべて (エイ文庫)
良くあるアーティストの全曲解説本ですが、立ち読みしてみたら結構濃いい内容だったのでつい衝動買い。つらつら読み始めたら、うはは、妙に面白いなこれ。バイヤーズ・ガイドとして、あるいは資料として面白いのではなく、通して読むと著者自身のビーチ・ボーイズへの屈折した愛が感じられ、その屈折ぶりが暴走していて面白い。まず前書きで「『ビーチ・ボーイズが好きだ!』と言えずにきょうまできた自分が不憫でならない」「意中の異性(特に若い女性)にビーチ・ボーイズを聴かせることができないという深層心理はどこからくるものなのか」という屈折した感情を語るところからして大いに共感できます。

著者のスタンスとしてはブライアン・ウィルソン天才!天才!天才!それに引き換えマイク・ラヴ!おまえは何だ!真面目にやれ!なんだその鼻にかかった声は!ということで、とくにマイク・ラヴを罵倒寸前(というか罵倒)のフレーズで叩きまくっているあたりがやたらおかしい。「マイクの辞書に”反省”という言葉は絶対にない」「こいつが歌うとどんな深刻な歌でも能天気になってしまう」「何も考えていない」と散々な言いよう。たまに誉めていても「普段やる気のないだけに、たまに本気を出したときの有難さが身にしみる」などという言い様でそれはほんとに誉めているのかと。たまにマイク・ラヴ作の佳作があっても「ほんとうにマイクひとりで書いたのかという疑いは晴れない」という具合で、読み進めていくうちに読者の中では逆にマイク・ラヴの存在感が増してゆくのであった。ほんとは著者はマイク・ラヴのことが好きなのではないだろうか、という疑念すら。
まあマイク・ラヴが絡んでいなくても、グループ後期のどうしようもない時代の曲紹介になると、「メンバー全員何も考えていない」「カールの頑張りが目立つ。が無駄に終わっている」「レコードを叩き割りたくなる」と好きなだけに落胆も激しく「こんな曲があるから異性にビーチボーイズをオススメできないのだ」と心の叫びがつい漏れだします。そんなグダグダの曲の中に突発的にものすごい名曲が混じっていたりするので、そういうときの筆者は反動でブライアン万歳状態に突入。ブライアンがファルセットで「アアアア〜」と歌うだけで感きわまり、これ!ここ!このバックのコーラス!いいですか!ここが泣けるとこですよ!ほら!とひとしきり号泣したあげく「あの駄曲に耐えてからこれを聞くとすばらしさもまたひとしお」「そういう意味であの最悪の曲も飛ばして聴いてはいけない」といった屈折したコメントがポンポン飛び出すので読んでる方は思わず飲んでた焼酎をブホ。これはもはやひとつの紹介芸といってもいいかもしれない。いやあお陰で後期ビーチ・ボーイズにずいぶん詳しくなってしまった。というわけでビーチ・ボーイズ好きを素直にカミングアウトできないかたにはオススメです。(注:カッコ内の文章は引用ではなく大意です)