カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

犬神家の一族(2006)

犬神家の一族 オリジナルサウンドトラック
という訳で観てきましたよ。個人的に76年版はオイラをして日本映画をLikeではなくLoveしていると言わしめる一本。この映画が無ければもしかしたら自分の映画への思い入れは現状と全く違ったものになっていたかも知れません。ですから今回のリメイクの一報を聞いた時には、たとえ監督と主演が旧作と同じとはいえ、自分のこよなく愛する映画が無惨な事になるのでは、という恐れがふつふつと。なにせ監督の市川崑は91歳ですよ。十年前の『八つ墓村』ですらその惨状には血涙が垂れる思いでしたから、今となってはさらにもう…。
しかしその恐れを乗りこえて、というか何もかもありのままを見届ける介錯人のような心境で劇場に臨んでまいりましたので以下感想。多少ネタバレてますので未見の方はご用心。





感想1)
というような心持ちで鑑賞に臨んだためか、激しく失望することはありませんでした。が、逆に堪能したかというとそういうわけでもない。ただ「見届けた」という義務完了感と、また血涙を流さずには済んだという妙な安堵感が。こういう父兄参観日みたいな心境で映画を観ることはなかなかないのでいやあ貴重な体験でしたと言えない事もない。ないですがしかし。


感想2)
27年ぶりの金田一耕助石坂浩二ですが、いくら石坂浩二が若く見えると言ってもやはり限度というものはありますよ。76年版と同じ役柄で出ているのは署長=加藤武と神官=大滝秀治ですが、加藤武のほうはやはりご高齢のためか、あの「よし!わかった」に往年のキレがなく、声からも張りが失われていて悲しゅうございました。大滝秀治はパッと見あまり変わっていない感じもしましたが、やはりスカウターを通して見た場合何らかのゲージが尽きかけているような感じは否めません。草笛光子、三条美紀は役柄が変わっての出演ですが、三条美紀のほうは最初誰だか判りませんでしたよ。やはり30年の年月というのは相当なものです。


感想3)
では選手交代した役柄のほうはどうか。正直、この部分のヤミ鍋状態がこの映画のつらいところかと。飄々と自然に演じている人、やたら力が入っちゃって芝居が大仰になっている人、演技力が追いついてない人、それ以前にミスキャストな人がごっちゃになっており、要するに芝居がかみ合ってないのでした。犬神三姉妹のうち、松子=富司純子はまだ熱演といっていい範疇ですが、竹子=松坂慶子、梅子=萬田久子が力みすぎててちとヤバい領域に突入しており、観てるこちらは別の意味で手に汗を握ります。珠世=松嶋菜々子は割と良かったですが、タッパがありすぎるので小夜子=奥菜恵との対決シーンが大人対子供みたいになってしまったのが難と言えば難かと。あ、奥菜恵も意外とよかったですね。お約束の台詞の数々をきっちりこなしたうえ、死体を見つけてショックで直立したまま卒倒するとこから、ガマガエルをわし掴んで湖畔で狂っているところまでキチっとやってくれてて好感がもてます。あと佐清尾上菊之助も良かったですね。面長で公家顔の佐清ってどうなのよう、と思ってましたが松子=富司純子との絡みで泣かせます。


感想4)
女中深田恭子は76年版における坂口良子の嫁に欲しい度に遠く及ばず。もっとトボケた感じの娘がよかったなあ。意外だったのが古館弁護士=中村敦夫で、76年版の小沢栄太郎の雰囲気を上手く再現していました。ただ基本的に落ち着いた声の人なので、小沢栄太郎のような小心者っぽさは再現できなくて残念。佐武=葛山信吾と佐智=池内万作はいずれもミスキャストかなあ。佐武は容貌に粗野さが足りず、佐智は小ズルさが足りません。


感想5)
市川崑といえば、モダンな画作りが持ち味の人で、そのモダンさと映画の内容の大時代さのマッチングがさらにモダンさを際立たせていたはずなのに、やはりお枯れになられてしまったのか、2006年版ではモダンさがあまり匂い立ってこないのが悲しかったですね。モダンさの一つである陰影に富んだ絵作りもなく、全体的に光が平板な感じ。これは96年版の『八つ墓村』にも同じ事が言えます。


感想6)
制作発表記者会見では「CGも使ってみようと思う」と発言してファンたちを心配地獄に叩き込んでいた監督ですが、そのCGはどうやら主に背景のために使われた模様。さすがに昭和22年の街並をロケで撮影するのは無理だったようで、写ってるとマズいものを消したり、逆に付け足したりするのに使われたようです。しかしそれをもってしても終戦後間もないころの空気は再現できていませんでした。76年版にはロケ撮影にそういう匂いを感じさせていただけに、残念です。


感想7)
全体的に、76年版を可能な限り再現するというコンセプトのもとで作られ、台詞からカット割りまで同じにするという徹底したリメイクながら、ディティールにおいては微妙に変更が入ったところもあり、そういう箇所を発見してフフ。と楽しむという観方も可能といえば可能です。改変されたといえばエピローグは大幅に変わってますが、古館弁護士が金田一耕助を指して「天使みたいな人だったなあ…」と述懐する部分は、これ、台詞で言わせちゃいかんだろ。確かに金田一耕助は天使か悪魔か、いずれにしても血の因縁にまつわる悲劇を陰ながら完成させる狂言回しである、というのは市川崑の金田一観ですが、それを台詞にして言ったとたんに映画が突然ポエムの園みたいになってしまう。そこは無言の画だけでそう感じさせないでどうするの!崑め!


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感想8)
とまあわたくしが76年版の信者であるがために感想が上記のごとく苦言に次ぐ苦言になってしまうのはご容赦願いたいところ。もし76年版を未見の人が2006年版を観た場合、きっとそれなりに面白いと思うであろう内容だったとは思います。でも、そのあとで、できれば76年版の方も見てほしい。というのを最後に付け加えておきたいところであります。