カジノロワイヤルの手帖

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「ノラや」内田百間

ノラや (中公文庫)
内田百間の「間」の字はホントはモンガマエの中に月なんですが、これが変換で出ない。「内田百けん」と書くのも間が抜けてるので、戦前の筆名「内田百間」で書きます。
で本書。すでに老境に入った百間先生のところに迷い込み、そのまま居着いてしまった野良猫。百間先生は始めこそうるさがってましたが、次第に情がわいてきてかの猫に「ノラ」と名をつけ可愛がります。が、そうして一年半も経った頃、突如ノラが帰ってこなくなります。
心配のあまり狼狽し、毎日泣き暮らす百間先生。戸口で音がしたらば駆けつけてそこにノラがいないことに泣き、雨が降ればどこかでノラが寒くひもじい思いをしているのではないかと案じて泣き、明け方にノラが帰ってきた夢をみて目覚めてから泣き、新聞に広告まで出して「見つかった」と知らせがあれば持ち直すものの「やっぱり違ってた」と聞いて落胆して泣き…と、いい年した爺様がいなくなった猫一匹のためにホントに毎日しくしく泣いているのです。冷静に考えると滑稽かも知れませんけど、一度でも猫の失踪を経験している身ならば、きっと百間先生の深い悲しみに同調させられるでしょう。
ノラとは別に、クルツという名の猫の話も後日談として出てきますが、この猫の運命とそれを見守る百間先生の気持ちもまた猫好きには胸に迫るものがあります。このくだりはもう涙無くしては読めない。何度読み返しても条件反射のように泣いてしまう。百間先生のこの2匹の猫との生活が、まことに穏やかに愛情深く描かれていて、それだけに切ないものがあります。あ、もう思い出しても鼻の先がツーンとしてきた。さらにまずいことに実家のタマの顔がうかんでくる。いかんいかん。うっうっ…。とにかく猫に対して思い入れの深い人は必読の一冊。そしていま身近に愛情を注いでいる猫がいる人は、そこにその猫が元気に暮らしていることの幸せをですな、存分にですな、えーその、噛み締めていただきたいと。こう思わずにいられない訳であります。うっうっうっ…。