カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

八甲田山

八甲田山 特別愛蔵版 [DVD]
言わずと知れた古今東西無双の雪山遭難ムービー。久しぶりに観てみました。北大路欣也率いる青森歩兵第五連隊が軍上層部の命令により、訓練として冬の八甲田山踏破にアタックするのですが、冬山をあなどり倒した薄い装備、無さ過ぎるノウハウ、重厚過ぎるがために機動力を欠いた隊の編成、平気で上から口を出して指揮系統を混乱の極みに叩き落とす上司、などなどの要因によって連隊は気象の暴力のような極寒の中で完全に道に迷い、無駄に移動を繰り返しては犠牲者を増やすのでした。極限状態に追いつめられた北大路欣也の「天は我々を見放した…」という台詞があまりにも有名ですが、これが出るのはまだ映画の中盤。そこでリーダーがこんなことを口走っちゃうもんだから部下はたまりません。残り少ない気力ゲージは一気にジリ貧に落ち込み、それまで立ってた者も脱力してついに倒れ伏します。あーあーあー…。


公開当時大ヒットを記録した映画ですが、単なるディザスター・ムービーとして観客に受けたのではないように思えます。うがった見方をすると、組織のトップ(=軍上層部)が末端(=連隊)に無理難題を押しつけ、全くないノウハウに苦しみながらも中間管理職(=欣也)はなんとかそれを忠実に全うしようとしますが、勝手にしゃしゃり出てきた上司に現場を引っ掻き回され状況を最悪にされたあげくに責任を全部押し付けられ、弱気になってつい部下の前で弱音を吐いちゃったら皆のモチベーションがみるみる下がって組織は壊滅状態に。という、まさにこれは日本のサラリーマン残酷物語とも言えます。劇中の欣也の無念さに自分がダブった方も多かったのではないかと。そういう暗喩を含んでいるが故に世のサラリーマンの皆様の共感を読んで大ヒット、という理由があったのではないでしょうか。なんてもっともらしいコトを言ってみた。それはともかく遭難のシーンがどうみてもホントに遭難しているようにしか見えないのが凄い。史上かつて無くロケが過酷だった映画として記憶されるべき映画です。ロケ現場からは脱走者も出たらしい。そら逃げたくもなるだろう。あとこれから冬山登山に挑戦してみようと言う方は心の準備としてぜひ鑑賞をオススメします。