カジノロワイヤルの手帖

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エレファント

エレファント デラックス版 [DVD]
監督:ガス・ヴァン・サント。あのコロンバイン高校の銃乱射事件を題材とした…これはなんてジャンルに入れればいいんだろう。青春映画とも学園映画とも言えます。日常映画と言ってもいい。アル中のオヤジの世話を焼く息子。写真に熱中する青年。たわいもない会話を交わすカップル。地味で大人しい女の子。彼女をダサいと笑うイケイケの女の子グループ。課外授業で真面目にディスカッションする生徒や先生たち。こうした登場人物がごく普通に描かれてゆきます。長廻しを多用したショットと、同じ場面を違う視点から何度も追いかけるカメラ。ドラマらしいドラマはなく、ただごく普通の日常の一部を切り取ったかのように映画は流れ続けます。平凡な日常、当たり前の風景、いつもと変わりない生活…そうした極々平凡な日常と同じように、乱射事件の犯人たちの行動が織り込まれてゆきます。まるでそれがいつものことのように、校舎内を調べ、銃器をネットで購入し、武装して出かける…。


映画はまるで心停止の心電図のような平坦さを保ったまま、銃撃のシーンに移行します。あまりにもあっけない銃撃シーン。いじめられっこが学校に復讐するような暗いカタルシスもなく、なぜこんな悲劇が起こったのだろうか?というような安いプロファイリングもなく、この事件の顛末がどうなったかも全く描かずに、銃撃のシーンの途中で唐突に映画は終わります。現実の事件はマスコミによって劇場化するけれども、本当の事件の現場はこんなふうに日常の中の出来事で、我々が報道というフィルタを通して知っている事件と、現実の事件には乖離があるんじゃないか?ということを、この映画はあえて饒舌に語らないことで浮き彫りにします。


この映画がコロンバイン高校の事件を扱った映画である、というのを知っていて観るのと、知らないで観るのとでは、そこに大きな感想の違いが出るように思います。前者の場合は、前半の日常のなかに、名状しがたい不安感が漂うのを感じるでしょうし、後者の場合は、後半起こる銃撃シーンの不可解さに居心地の悪さを覚えるでしょう。ただ、感想は違うにしても、事件はイベントでもなければ悪夢でもなく、ただの日常の中で起こった、これもまた日常の一部、という不気味な結論は残ります。