カジノロワイヤルの手帖

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江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 (日本カルト映画全集)
監督:石井輝男。えー日本国内ではもはやソフトとしての発売が全方位的に絶望視されていたこの映画ですが、海外のレーベルが何故か突然DVD化!(画像は書籍版)おまけにリージョンフリーときた!いよっ太っ腹!というわけで逆輸入によりようやく日本でも手軽に視聴できるようになった訳です。いいなこの手。この方法なら今や国内ではアングラでしか流通していない映像を大っぴらに観られるようになるかも知れません。『ノストラダムスの大予言』とか。『獣人雪男』とか。頑張れSynapse films!(発売元)。できれば『センチネル』の日本語字幕版もお願いしたい。おわり。


いや終わってどうすんだ。本編見ないと。と思ってibookでDVDを再生しながらコレを書いてるんですが、映像特典の劇場版予告編を観ただけでもう危険な単語がバンバンでてきて素晴らしい。「奇形」「片輪」「キチガイ」「裏日本」と予告編の次点で倍満クラスの翻数は確定。これはもう本編は数え役満の世界なのでは…。というわけで本編再生しましたが、ダブル役満くらいの破壊力はありましたよ。


力強いいつもの東映三角マークのあと、おもむろにタイトルです。タイトルバックはたいそう毒々しい色彩の女郎蜘蛛が群れでウジャウジャしているという蜘蛛アレルギーの人は泡吹いて卒倒しそうな映像でいきなり飛ばしてます。この時代のカラー映画なんで色彩が独特の質感でして、それが毒々しさを倍増させてます。いまこの味は出したくても出せないですね。


お話は江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」と「孤島の鬼」を足して、割らずにエログロ要素をさらにてんこ盛りにしたというサービス精神あふれる内容。冒頭のシーンからして主人公の人見広介(吉田輝雄)が精神病院の女性房になぜか迷いこんでおり、周りでは半裸の狂女たちがナイフで斬りつけてきたり(持たすなそんなもん)鐘をちりんちりん鳴らしてたり鉄格子に顔をスリスリしてたりと楽しそうですが、人見は「なんでオレがこんな所に」と状況を判っていません。その周囲で半裸のまま創作ダンスのように踊り狂う女たち。冒頭からこの調子です。変な汗をかきます。


人見広介は自分の過去の謎を解くため精神病院を脱走。自分の故郷とおぼしき地で自分と顔が瓜二つの大富豪が死んだのを知り、その墓を暴いて死体と入れ替わり富豪が蘇ったように周囲を欺きつつ富豪の身辺をさぐるのですが(このへんがおおむね「パノラマ島」)、その富豪の父が手に水掻きのある男(土方巽)で、有り余る財産を使って奇形だらけの奇形パラダイスを造るべく日夜奇形人間の製造に励んでいた(このへんが「孤島の鬼」)、というディープな乱歩ファンほど頭がごっちゃになるストーリー。しかも父の作ったシャム双生児を人見が外科手術で切り離してあげたら、片割れの方が美しい娘だったので、思わず人見は恋に落ちてその娘とねんごろに。と思ってたら自分は実は富豪の弟で、娘の方は父の子でつまりは実の妹であり、そこへきて突然明智小五郎大木実)が出現。「あなたホントは替え玉でしょう」とズバリ核心を突いた発言をかますのでニッチもサッチも行かなくなった人見は妹と一緒に花火に乗って自決。「おかーさーん!」という叫びが彗星のように夜空を飛ぶ人見の顔の映像とともにパノラマ島に響き渡るのであった。というひたすら救われない結末はただでさえアンニュイな日曜の夕方を激烈な鬱状態へとたたき落とします。


それにしても「パノラマ島」と「孤島の鬼」という乱歩の作品中でも高い変態値をマークする話をあろう事かミックスしてしまうという発想にはツムジの毛根も死滅する思いです。そこへきて水掻きの父を暗黒舞踏で名高い土方巽に演じさせ、エキストラのキチガイさんとか奇形さんに土方巽暗黒舞踊塾のみなさんをキャスティングするというトドメの一撃。これのおかげで変態度が通常の三倍の威力に高まっています。序盤、土方巽が白い布をまとって海岸をゆらーりゆらりと暗黒舞踏しながらこちらに迫ってくる図はまさに戦慄のひとこと。夢に出そうです。撮影現場で土方巽は見物人に向かって石投げたりしてたらしいですが。


その他、脇に小池朝雄高英男由利徹大泉滉お好きな方にはたまらない面子が集結。特に小池朝雄乱歩作品のダークサイドを一身に背負ったような変態外道として描かれており、人間椅子になったり女装して娘たちを痛めつけたりと実に楽しそうです。


暗黒舞踏塾のみなさんが出てくると、とたんに画面がATGっぽい前衛風味になってしまいますが、そこはそれ、東映なのでエログロ度の方はサービス満点。見世物風味が全開になっており、お子様の情操教育には大変よろしくないという判断からか成人映画指定になってます。裸の娘さんが山ほど出てくるので成人の方はそっち方面でも「ほほう」と堪能できるかと思いますが、あんまり凝視してると裸の娘のなかに裸の老婆も混じってるのが発見できてしまうので要注意です。


いやあ、この文章書くために再度飛ばし見してたんですが、やはりこの変態度は危な過ぎです。危険危険。なんかこう、見世物のもついかがわしさ、後ろめたさ、その魅力と妖しさをこの映画は十分すぎるほど体現しています。どうにも惹き付けられるものがある。もっかい観よ。