カジノロワイヤルの手帖

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ハプニング

監督:M・ナイト・シャマラン。というわけで観てきましたが、いやあ凄い映画でした。以下感想ですが全力でネタを割っているので未見の方はご注意をば。しばし改行。























物語ですが、ある日突然公園で風に吹かれた人々が、意味不明なことを喋りながら自殺する。その現象はアッという間に広範囲に伝染して、主人公の理科教師(マーク・ウォルバーグ)は妻(ズーイー・デシャネル)、同僚の数学教師(ジョン・レグイザモ)とその娘の4人で逃避行にでるのですが…という内容。まずやたら怖いですよこの映画。突然隣に座っている人が自分の首に髪留めを突き刺したら?ビルの工事現場で人が次々と飛び降りて来たら?巨大な芝刈り機に人間が轢かれたらどうなるか?ライオンの檻に人が入ったら?という数々のイヤーなシチュエーションを直球で映してます。こうゴアな場面をシャマランは淡々と丁寧に描いててヒジョーに怖い。自動車で木にぶつかって死ぬとか、木から縊死した人たちが奇妙な果実のようにたわわにブラさがっているとか、双眼鏡で遠くを覗くとどうなっているのか判らないけどとにかく死体が折り重なって倒れているとか、そういう実に不吉で禍々しい映像が前半はズバンズバン出てくるのでこりゃあ子供には観せられんわ。トラウマだよ。とプルプルしながら観てたのですね。


後半は理科教師のマーク・ウォルバーグが持ち前の理科の知識を活かして原因を推定。どうも原因は植物が人を狂わす物質を放出してるためらしく、人がたくさん固まってると植物を刺激してダメらしいというので出来るだけ散り散りになり、しかも風に吹かれるとまずいので吹いてくる風を避けながら逃げ場所を探す展開になります。このへんも、吹いてくる風と風にそよぐ草木が意思をもってこちらに迫ってくる感じで非常に怖い。で、やっと見つけた民家で休ませてもらおうとしたらそこには住人が立てこもってて「おまえら入ってくんなや!」と突然ドア越しにショットガンをぶっ放し同行していたガキが死にます。さらにもう一人のガキも窓のスキマからヌッと出て来た銃口が火を噴いて頭をぶち抜かれて死にます。このあたりの恐怖の描写はずば抜けていて、窓から突き出た銃口が物凄く怖い。その奥にあるであろう強烈な悪意がただの銃口から匂い立ってきます。


で、ほうほうの体で逃げ出してついに妻と友人の娘と3人になってしまったマーク・ウォルバーグですが、世捨て人みたいに生きている偏屈ババアの家に駆け込んで一宿一飯の世話になり、さてこれからどうしよう…と思って翌朝起きてみると実はこのババアはガイキチで主人公に襲いかかってきて…とちょっと待てこれ別な映画になってきてないか?このババアとの対決が最後の盛り上がりなのか?それは新し過ぎるな。と思ってたらババアは外に出たとたん風に吹かれてしまい元々狂ってたのがもっと狂ってしまって窓ガラスを顔面でぶち破って死にます。植物はついに人間の多数に関わらず毒を放出しはじめたのか?もうダメだ。最後はせめて一緒に死のう。と生き残った3人は外に出ますがそのときはもう植物によるテロはピタリと止まっていたのでした。


最後に「これは植物による人類への報復だ」みたいな結論っぽいものが出てきますが、それは可能性の問題であって正解は出ません。しかしそれを裏付けるかのように、こんどはまたフランスでも同じ現象が始まって…で映画は完。えっ終わり?いやいやこの監督のことだからエンドロールの最後に…と思って粘ってましたが本当になにもありませんでした。


もう間違いなく賛否両論になるであろう映画で、実際にネットでも両論が出まくってますが、結末のあっけなさに関して言えば、これまで数々の脱力映画に精気を吸い取られて生きて来たオイラにとってはこのくらいの投げっぱなしは全然可愛いもんですよと言いたい。むしろ教訓くさい力説とかが入ってたら余計萎えそうな気が。この結末についてはマーク・ウォルバーグが冒頭の理科の授業中に言ってます。「科学では完全に解明できないこともある」この映画のスタンスは完全にこの一言に集約されていて、可能性の示唆はするけども結論は出さない。だって自然のすることですから。それが人間にとって不条理だろうとなかろうと関係ないのです。だって自然だから。自然がバランスを自ら保とうとした結果だから。つまりこれは環境問題にまで言及した映画だ、という見方もできますが、そこまで考えてしまうのはこのような投げっぱなしの結末にスレた人ぐらいで、そうでない人は「なにコレ?」「ワケ判らん」「カネ返せ!」となってしまうのも致し方ないかと。


あと考えられるのはシャマランはもうビックリオチ監督と言われるのにウンザリしちゃって、反動で最後になにもオチない映画をとってドンデン返しの看板を降ろしたかったのではないかという気もします。まあそのようなやけっぱちな部分はさておき、中途の細かいサスペンス描写はやはり確かなものがあるのでそこは凄いと思いますが、今回は毎回丁寧だった人物描写がちょっと噛み合ってない感じですね。特にズーイー・デシャネルの奥さん役が物凄く挙動不審な感じで「この非常時になにやってんだオマエ」「だからこの非常時にそういうワガママいってんじゃねーよ」と何か言動があるたびにイラッイラッと盛り上がる不快感。この人物のおかげでちょっと感動的になるハズのラストがなんとなく腑に落ちない感じになってしまいます。


まあ賛否両論であんたどっちよ、といわれたら、6:4で賛の方かなと。「どうよソレは」という部分はあるものの、やっぱり怖い映画ですよ。シャマラン監督のサスペンスの手腕はやはり侮れないと思います。