カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

「猫の舌に釘をうて」都筑道夫

最愛の女性を他の男に取られてしまった「おれ」。その鬱憤をはらすために「疑似殺人」を思い立ち、行きつけの喫茶店で憎いあんちくしょうに似た男に風邪薬をこっそり盛ってストレス発散!という梅雨どきの廃墟のように陰湿な行為を実行に移したところ、タダの風邪薬を盛ったはずの男が死んでしまってさあ大変。「おれ」は真犯人を探すべく真相を探りはじめるのであった。という「おれは、この事件の犯人であり、探偵であり、そして被害者にもなりそうだ」という一人三役探偵小説。とにかくアクロバティックな作品で、一人三役の設定のほか、文章を主人公の手記とし、「都筑道夫という作家」の「猫の舌に釘をうて」の束見本(本の厚みを計測するため、装丁以外は白紙の試作本)をノート代わりに、捜査の過程を逐一正確に書き続けてゆく…というメタ探偵小説でもあります。


また、昭和三十五年当時の東京の風景や風俗が活写されてたり、ラブロマンスの要素あり、と盛り沢山の一冊です。が、いかんせん本筋そのものが探偵小説としてちょっと弱いのが難点かと。しかし仕掛けの面白さとそれを活かした結末は不満を補って余りあるものがあります。けどいまこれ入手できるのかな。ちょっと前に再版されたみたいではありますが…まあ古書店で見かけたらミステリファンは即ゲットです。