カジノロワイヤルの手帖

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「黒いトランク」鮎川哲也

黒いトランク (創元推理文庫)
高校の頃「名作だから」という理由だけで挑戦。しかし本書劈頭にあるように「まことにこの事件は、地味で退屈な上にテンポが遅」かったため、「論理に始まり論理に終わる」この物語の真価を全く分からないまま読了。というか斜め読み。という鮎川ファンの方が聞いたら正座させられて説教確定の行為に及び、以後20年間の長きにわたって「黒いトランク」はオイラの中で「良く判らないムニャムニャしているもの」箱の中に突っ込まれていたのですが、別の機会に鮎川哲也のアンソロジーを読んで、そういや昔読んだアレってどうだったっけ。尻のブルーな高校生当時ならいざ知らず、様々な読書体験を重ねてきた今であれば面白いんじゃないか。名作だし。というわけで再チャレンジしてみたわけですね。


結論から言うと、面白かった!ちょっとこの小説のアリバイトリックの緻密さは人智を越えかかっていますよ。丹念に読む事により、いかに容疑者のアリバイが強固であるかが判り、またそれがどういうところから崩されてゆくか、という論理の変遷がとても面白いです。幸いな事に事件の肝心な部分はすっこーんと自分の記憶の中から脱落していたのでほぼ未読の小説を読むのと変わらずに楽しめました。わはは。若い頃の自分のイイカゲンさに幸あれです。そして鮎川先生すみません。テキトーに読んでてホントすみません。高校の頃の自分もこれこのように反省しておりますので。マジサーセンした。コラもっとちゃんと謝れ。本当にすみませんでした。


しかし、正直言って色々読み返しても、トリックの全貌が完全に掴めないのです。それほどまでに複雑を極めた精密機械のようなトリックなので、webのどっかにトリックを詳述してくれてるところはないかなー、と思って探してみたのですがこれが全然ない。しかもその過程で光文社文庫版の方の解説に「トリック解剖チャート」なる親切なものが載っていることが判明し絶望した!自分のが創元推理文庫版であることに絶望した!ちくしょー光文社文庫版が欲しくなっちゃったじゃないか!なんてこった!しかし創元版は作者自身と、北村薫有栖川有栖戸川安宣による綿密な改訂による決定版なのでまあ、これはこれで良かったじゃないか。と納得しようと思いましたが、トリックの詳細を把握しようと読み返していたら誤植を発見。また絶望。