カジノロワイヤルの手帖

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「独白するユニバーサル横メルカトル」平山夢明

独白するユニバーサル横メルカトル (光文社文庫)
平山夢明の著作、デルモンテ平山名義のコラムは大好物で、この人の文章はある種の天才ではないかと常々思っておりましたが、まさか日本推理作家協会賞受賞、および「このミス」一位を獲得するとは、まさかまさかで尻から前立腺がはみ出すような驚きでした。その短編集がついに文庫化されたのでアマゾンで買い求めて早速よみよみ。


で、読み終わったのですが…。傑作です。話はどれも鬼畜テイスト炸裂のホラーがベースになっていますが、ブラックなおとぎ話あり、凄惨な暴力と残虐の世界あり、「華氏451」や『リベリオン』もかくやのデストピアSFあり、『地獄の黙示録』の凶悪なパロディあり、などなど題材や傾向が一作ごとに異なっており、特にいくつかの作品は、緻密な設定やペダントリーによって一つの世界を構築しつつも、最後は意外な結末でうならせるという、正統派ミステリーを向こうに張って一歩も引けを取らない完成度の高さで読むものをウンウン唸らせます。日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作はなんと語り手が「地図帳」という並みの頭脳では思いつかない(というか思いついてもやらない)仰天の内容ですが、語り口の慇懃さとそこから語られる物語のおぞましさのギャップ、さらにこれを語っているのが地図であるという設定はホラーやミステリーのジャンルを超えてブラックなギャグの世界すれすれのところまでカッ飛んでいます。


もちろん平山印のホラーなので残虐度は裏の鬼畜も裸足で逃げるような高スコアをマーク。容赦なく人体損壊の場面が手を変え品を変え繰り返し描かれますが、凶悪なのはそういう場面をことさらにグロく描きながら、作品によってはところどころに鼻からウドンがはみ出すような脱力ギャグを平気でインサートしてくるところで、「すまじき熱帯」は全編半端でなく残虐なホラーでありながら全編あまりにもくだらないギャグが連発されるという凶悪の極み。この作品は全編中でもデルモンテ度がかなり高い一編です。


その他、設定と結末が戦慄を呼ぶ「オペラントの肖像」「卵男」、悪趣味と高度な知性を同時に描いて強烈なインパクトの「Ωの聖餐」、日常に潜んでいる悪意と暴力を描いた「無垢の祈り」、拷問描写の凄惨さと厳粛さが恐ろし過ぎる「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」などなど、収録作は目を見張る傑作ぞろいです。平山ファンのみならず、全ホラー小説ファン必読の名作。あと未文庫化の処女小説「SINKER」が猛烈に読みたいので早く文庫化してくださいプリーズ。


Sinker―沈むもの (Tokuma novels)

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