カジノロワイヤルの手帖

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「悪夢小劇場」花輪莞爾

悪夢小劇場 (新潮文庫)
この人は懐かしや「少年たんていブラウン」の訳者の方として小学生当時の自分にはおなじみの方だったのですが、こういう「奇妙な味」の小説もお書きになられておったのですね。というわけで最近この手のアンソロジーに目がない自分としてはついつい購入。全体にブラックユーモアが効いた悲喜劇が中心で、文明批判ありミステリあり怪奇譚あり実録小説ありのバラエティあふれる内容になっています。


その中でひときわ異彩を放つのが、雪山で遭難した大学生たちが目撃する怪異を描いた一編「白魔」。他の作品とは異なるドキュメンタリー風の語り口で学生の雪山遭難事件の顛末を描きますが(実録なのか、それともフェイクなのかは不明)、この話、雪山の怪談としてはちょっと他に並ぶものが思いつかない恐ろしさ。淡々とした報告書風の語り口がいつしか極限状態の幻覚描写にシフトしてゆき、さらに最後に現れる怪異の描写が想像するだに恐ろしい。怪談ファンはこの一編のためだけにもこの書を手に取る価値はあり!の傑作です。これは掘り出し物でしたよ。