読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

マイケル・ジャクソン This Is It

マイケル・ジャクソン THIS IS IT デラックス・エディション(初回生産限定盤)
主演:マイコーロンドン公演の直前に逝去した彼の、そのリハーサル映像を編集した映画。いやあ改めて思いますがマイコーはパフォーマーとしてはやはり天才的です。リズム感、音感、歌のうまさ、ダンサーとしての身体のキレ。これが死の直前とは思えないポテンシャルで、また舞台裏での「最高のショーにするよ!」という意気込みも伝わってきて、もし彼が殺されずにいたら、ロンドン公演は伝説に残る神ステージになっていたかも知れない…と複雑な思いの溜め息が出ます。


その神公演になるはずだったショーのリハ映像が残されていたため、それをつなぎ合わせて映画にしてファンに届けるというその内容が、この映画の売りでもあり、同時に弱点ともなっています。やっぱりファンに届けるべきだったのは完成されたショーそのものであり、今回見た映画はその片鱗でしかないからです。ただしその片鱗は幻となったショーの全貌を想像させるに余りあるものがありますが、しかし片鱗の悲しさ。リハなのでステージもバックダンサーも完全装備ではなく、マイコー本人も私服で、なおかつリハであるために、本番なら120マイコー出しているはずのパフォーマンスを、温存のために30マイコーぐらいに抑制しております。なので120分を魅せ切る力には欠けており、中盤以降、正直言って退屈でした。しかしその30マイコーの出力でも彼のパフォーマンスの凄さはわかる。わかるだけに出力120マイコーで衣装も舞台も進行も完璧でキチンと完成されたものが見られないということの飢餓感がことさらに煽られるのです。これはいきなり映画館でかかるべき映画ではなかったのです。まず本番のショーがあって、それの映像ソフトが出て、それの映像特典として納められるべきものを、われわれはマイコーの死によって仕方なく劇場で見ざるを得なくなってしまったという、不幸な映画です。


ビーチ・ボーイズの「スマイリー・スマイル」というアルバムがありまして、オイラはこの映画を観ながらずっとそのアルバムのことが頭を離れませんでした。これはビーチ・ボーイズ、というかメンバーのブライアン・ウィルソンという天才が、その恐るべき才能を全面開花させて、「スマイル」というロック史に残る名盤を作るべく全精力を傾けて制作に打ち込み、周囲の期待もパンパンに膨れ上がっていたのですが、ブライアンがそのプレッシャーとドラッグのために精神に異常をきたし、ついに「スマイル」は発売中止に追い込まれ、窮地に追い込まれたビーチ・ボーイズは「スマイル」のために収録された膨大なテイクをツギハギにして、「スマイリー・スマイル」というアルバムをでっち上げました。これは「スマイル」の残骸としか言いようがない無惨なアルバムですが、しかしながら幻となった「スマイル」の美しさを想像する事ができてしまう、という余りに悲しいアルバムでした。


マイコーの今回の映画にも同じ悲しみを感じます。傑作になるはずだったショーの、その美しい残骸を見せる悲しい映画。ブライアン・ウィルソンが「スマイリー・スマイル」を忌み嫌ったように、マイコーもあの世でこの映画の存在を知ったら、「…やめてよ、そんなことするの…」と悲しい顔でつぶやきそうな気がします。しかしブライアン・ウィルソンはその後奇跡的にカムバックし、ついに「スマイル」を完成させましたが、マイコー本人が亡くなってしまった今、パーフェクトな形での"This Is It"は完全に幻と化してしまい、その意味でこの映画はひどく悲しい映画です。


にもかかわらず、この映画のマイケルのパフォーマンスはステキで、観客を魅了します。とても死の直前とは思えない。体力的にも精神的にも充実しているようにしか見えない。ミュージシャンとのセッションも、バックダンサーとの共演も、ただただレベルの高さに唖然とする他はない。それだけに公演が行われずに終わった事は残念で…と話がループしてしまうのでこの辺でやめときます。ファンの方は必見。何と言っても、ファンのために作られた映画ですから。


スマイリー・スマイル

スマイリー・スマイル

Smile

Smile