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日本の熱い日々 謀殺・下山事件

日本の熱い日々 謀殺・下山事件 [DVD]
監督:熊井啓。主演:仲代達矢仲代達矢仲代達矢。と三回書いても追いつかない主演パワーです。それはさておき三鷹事件松川事件と並んで戦後日本最大のミステリーと称される国鉄下山総裁変死事件。真相は現在も不明のままですが、この事件を執拗に追った新聞記者のルポルタージュを元に、重苦しい映画を撮らせたら日本屈指の映画監督、熊井啓と、また重苦しい演技をさせたらヘビー級王者仲代達矢が組んで映画化です。下山総裁は殺されたのか、自殺したのか。二つの見解が伯仲するなか、独自の捜査を進めて証拠を集め、他殺を確信する新聞記者の仲代達矢。そして捜査と取材を阻む権力からの圧力。というわけで事件の核心に迫ってゆくミステリアスな過程と、ときどき不気味に顔を出す直接ないし間接的な圧力、そしてモノクロの重厚な映像がサスペンスを醸し出します。


それにしても仲代達矢。もう眼光からして演技が濃い。かつてなくCO2排出量の多そうな演技です。ふつうここまで暑苦しい演技を放置しておくと映画そのものから浮いてしまいがちですが、なにせ監督が熊井啓ですし、脇を固める役者が揃いも揃って俳優座の面々なので(この映画、製作にも俳優座が噛んでます)、意外にも芝居のトーンは全編濃い口に統一されていて違和感がありません。ちなみに仲代達矢のフィルモグラフィをつらつら眺めているとサザエさん:磯野マスオ役」の文字が出てくるので驚きです。「あなた!」とサザエさんに怒られるたびに重厚な感じでウル目演技を敢行する仲代マスオ(想像)。「パパ〜」とタラちゃんが駆け寄ってくるたびに口を半開きにして眼をくわっと見開く仲代マスオ(想像)。「にいさん〜」と悪巧みを企みつつすり寄ってくるカツオに無言で鋭い眼光をスパークさせる仲代マスオ(想像)。うーむ、観たいな。胃もたれ起こしそうですが。


話がずれましたが、この映画、下山事件が戦後の日本の歴史をどのように変えたかという事にまでに言及しており、興味深いです。下山、三鷹、松川の事件がなかったら、日本はもしかしたら共産主義国家になっていたかも知れない。あるいは最悪の場合南北に分断されていたかもしれない。そういう左右の思想のパワーバランスが拮抗していた時代、左派勢力を突き崩すための謀略として下山、三鷹、松川の事件は仕組まれたのでは、という事件の奥の奥が垣間見えます。


ただし、平成に入ってからの研究で、この謀略は「結果的にたまたまそうなってしまった」ものであり、下山総裁変死の理由は別のところにあった、という説が浮上していますが、そこに至るまでの下山事件の経過を学ぶ上で、この映画はうってつけの入門編です。「謀略」「未解決事件」「迷宮入り」という単語にピンと来る方にはあまねくおススメしておきたい。


映画好きとしては、俳優座絡みの濃いい役者たちが豪華に共演しているのが観モノで、無名時代の役所広司(若っ!)が出てたりしてるので役所ファンは必見。大滝秀治やずや黒酢も腐るような地獄の黒幕っぷりで、いつもの好々爺っぷりからは想像もつかない悪人顔であり秀治ファンも必見。もちろん仲代達矢は最初から最後まで強過ぎる顔面力を全開にしており、ラストシーンの顔面演技は観る者の脂汗をしぼり取る迫力で迫ってくるので仲代ファンもマストの一本です。