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ディストピアSFかと思ったら青春映画だったよ『ガタカ』

ガタカ [DVD]
監督:アンドリュー・ニコル。出演:イーサン・ホークユマ・サーマンジュード・ロウ。近未来のお話で、なんかこうキチッと管理が徹底した世界で、なにかしら事件が起こる。サスペンスもの。…ぐらいのうすらぼんやりした認識で観始めたのですがいい意味で期待とは違ってました。舞台はそう遠くない未来(合ってる)。遺伝子によって人間はアイデンティファイされ、産まれたときからその能力や寿命を測定され、それによって社会的地位が差別されるという遺伝子による管理社会(これもまあ合ってる)。主人公のイーサン・ホークは遺伝子操作を受けずに産まれたため、心臓が弱い、目が悪い、などの身体的ハンデを抱えていますが、宇宙飛行士になる夢をあきらめきれず、優秀な遺伝子を持ちながらも事故で半身不随になったアスリート(ジュード・ロウ)の遺伝子を彼の生活ごと買い上げてジュード・ロウになりすまし、宇宙開発会社「ガタカ」に入社するのでしたが、自分の正体を怪しみ始めた上司がある日突然他殺体で発見され…というサスペンスフルな展開(これも大体合ってる)。


しかし…ディストピアな設定、無機的な美術、シンメトリックな映像…というお決まりなSF要素にもかかわらずこの映画は青春映画でした。遺伝子という人類共通のスカウターによって、産まれた瞬間に疾病率や身体の欠陥や寿命まで測定される世界。当然それによって発生する差別と格差。主人公はその規定された可能性の柵を破り、夢を実現させようとあらゆる手を尽くします。また、彼に自分の遺伝子(というか、血とか尿とか体毛とかいった遺伝子検査に使われるサンプル)を提供するジュード・ロウは、動かなくなった自分の体と諦めてしまった自分の夢をイーサン・ホークに仮託しはじめ、二人に奇妙な友情が産まれます。


二人の屈折した心情と共生関係、イーサン・ホークの純粋に夢を追い求める姿が青春映画に特有のほんのり甘酸っぱい気持ちを喚起します。彼の夢の象徴としてたびたび出てくる、夜空に浮かぶロケットの発射の軌跡。それをうるうるした眼差しで見つめるイーサン・ホーク。遺伝子至上主義の価値観に抵抗し、人間の可能性を諦めないイーサン・ホーク。この映画は一見無機質なルックの奥にそうした青く人間臭い情熱を秘めているのでした。うーん、意外。「わあ、アイスコーヒーだ!」と思って飲んだら麺つゆだったので吹いたよ的な意外性。しかしこれが結構いいのです。これはストレートに遺伝子社会=資本主義社会と読み替えても、遺伝子社会=学歴社会と読み替えても成り立つ文明批評になってますし、それに抵抗する若者の姿は青春映画の王道でもあります。


あと、彼ら二人の共同生活ですが、微妙にモーホっぽい描写があるので腐女子及び貴腐人の皆様におかれましてはイーサン・ホーク×ジュード・ロウという美青年カップルに妄想がスパークするのではないかと思われます。さあ、御妄想あれ!あとユマ・サーマンはアンドロイドみたいな美貌でしたが、あまりに作り物っぽい顔の造作でフリーキーですらありましたよ。狙ったのか?