カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

二大怪優パラノイアまつり『殺人狂時代』

殺人狂時代 [DVD]
原作:都筑道夫、監督:岡本喜八、出演:仲代達矢天本英世。英世はある精神病院の院長。そこへやってきた怪しいドイツ人。どうやらこの人はナチの残党で、ある目的のために英世が育成した殺し屋を3人貸してくれといいます。快諾する英世。するとドイツ人はやおら電話帳を取り上げ、適当な名前3人分に印を付けて「そいつらの腕が見たい。ついては試しにその電話帳の3人を殺してみてくれ」と大雑把な事を言い張ります。これも快諾する英世。するとあれよあれよという間に殺し屋がいい仕事をして死体が二つ運ばれてきますが、三人目の死体が待てど暮らせど来ない。この三人目のターゲットが、大学で犯罪心理学を教えている仲代達矢で…。という発端。


いやあ仲代達矢のことはこのブログでも何度となく取り上げてきましたが、この仲代は凄い。最初見たとき誰だか判んなかったもの。無精髭ボーボー。ケント・デリカットユタ州へ泣いて帰る分厚いメガネ。この見てくれだけでもこみ上げるものがありますが、性格と行動がまた素晴らしく、マザコン。水虫。足がくさい。車は屁のような音を出して走り、サイドブレーキが効かないので下駄が車止め。マイペース過ぎるのっそりした性格と喋り方。という非モテ道独走は間違いないと思われるキャラ造形で、これがあの『天国と地獄』でカミソリのようだった刑事と同じ役者なのか…と愕然とします。しかしそのメガネはいいのか。そんな凸レンズみたいなメガネをかけさせたら、仲代の眼光がレーザービームのように増幅されてX-MENサイクロップスみたいに辺りを破壊しまくるのではないか。そのような妄想が頭脳を去来しますが関係なく映画は進み、気がついたらヒロインと弟分が出てきて混迷する話をさらにテンヤワンヤのデンスケ餅にしてしまいます。


そのうちヒロインが変装と称して仲代のメガネを取り(コンタクトか?)ヒゲを剃ってスーツに着替えさせたら、いつもの仲代の顔が出てきたのでホッとします。その後も湧いて来る殺し屋をちぎっては投げ、ワナがあれば自分から率先してっ引っかかり、合間合間に愛車が屁をこく、とやってたらついに黒幕の天本英世の病院に到着。この病院が『カリガリ博士』みたいなドイツ表現主義っぽい歪んだ内装のステキ病院で、患者も檻の中で好きずきに狂態を演じておられ(ワンナウト)天本英世死神博士もかくやの怪演で台詞に「キチガイ」を連発(ツーアウト)、さらにこの人自身もヒトラーに心酔していてナチ大好き(スリーアウト)。この時点でイニング的な何かが終了しますが、そもそも天本英世の目的が、無駄に増えた人口を抑制するために「大日本人口調節審議会」を設立して能力のない無駄な人間を殺す、という設定のためフォーアウト目が発生。処理的に矛盾が発生してエラーのため強制終了。封切り直前に東宝の判断で公開中止となり、半年後に公開されるも記録的な不入りとなって岡本喜八は酒浸りの生活を送るのでした。そのような理由のため長く幻の映画となっていたのですが、これこのようにHD化されてCSで鑑賞できるようになったのですから待てば海路の日和ありです。


そのような封印作品史観から観ても興味深い映画ですが、当時世界的に大流行していた007のごとき小道具がバシバシ出てくるアクション、あの手この手のイカレた手口で襲いかかってくる殺し屋、最初は冴えない教授の仲代が次第に研ぎすまされた殺し屋殺しに変貌してゆくさまと、その裏にある秘密。ところどころにサービスしてあるエロ要素。これらをブラックなギャグで包んで矢継ぎ早に畳み込んでくるという、アクションコメディとしても「ウヒヒ」と楽しめる一本です。この「ウヒヒ」と笑える感覚が重要。決して「アハハ」と明朗快活に笑える健全なギャグではないところがミソ。特に「あの天本英世マッドサイエンティストを演じる」というところにピンと来る方には無条件でおススメです。作りが荒っぽいので決して名作とは言えませんが、お好きな方にはタマラナイと思われる銘柄不明のウイスキーのような一本。