カジノロワイヤルの手帖

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30年ぶりの再会『メカニック』

メカニック [VHS]
監督:マイケル・ウイナー、主演:チャールズ・ブロンソン機械のような精密さで仕事を遂行する殺し屋のブロンソンついた渾名が「メカニック」。仕事とあれば古い馴染みの友人でもきっちり始末するまごころと信頼のヒットマン稼業ですが、ひょんなことから殺した友人のドラ息子に慕われることになり、色々思うところあってこのドラ息子を自らの右腕とすべくジェダイ方式のマンツーマンで殺しの心得を個人授業。しかしそのことを組織のボスに隠れてやってたため、イラッときたボスがピッと指示を飛ばしてブロンソンは味方の組織から狙われるハメになるというお話。


マイケル・ウイナーとブロンソンの組み合わせと言えば、かの『狼よさらば』が余りにも有名ですが、この映画はその陰に隠れて全く評価されていないので不憫のきわみです。いや、確かにむちゃくちゃ面白いかこれ?傑作か?と訊かれればしっぶーい顔で「ノォ…」と答える他は無いですけど、しかし駄作として捨てるには惜しいコクとウマミが溢れております。


例えば映画の冒頭、たれ込める街の空の下にゆらりと現れるブロンソンの姿と言ったらどうでしょう先生。この「ゆらり」ひとつのカットに、ブロンソンの渋さ色気哀愁その他もろもろのブロンソンが濃縮されており、このカットだけでウイスキー三杯はいける。決してハンサム顔ではない、というかそれからは程遠いフェイスですが、それがここまでの色気を放つとは一体この俳優は何者だと思わず背筋が伸びます。


ブロンソンと言えば、やはり「マンダム」のCMに代表されるような。男臭く汗臭く埃臭いの三臭をイメージしますけれど、この映画では決してそんな野卑な感じではないのですね。むしろ、山の手の豪邸に一人で住まい、贅を尽くしたインテリアに囲まれてワインを舐めながら次の仕事の計画を練る、といった小池一夫の劇画のような洒落者として描かれておりエレガントです。しかもそれが似合っちまってる上に、70年代的な男っぽさをプンプンさせてるんですから凄いですよ。ただ者ではない。


さらに、彼が「メカニック」たる所以であるところの緻密な暗殺描写が冒頭に描かれており、そのピタゴラ装置を組み立てるがごとき殺しのマエストロっぷりがネチネチと粘着質に描かれていてナイスです。このシークエンスだけでさらにウイスキー三杯は堅い。もう序盤が終わる頃にはヨイヨイです。


ブロンソンのパダワンとなるツーケのブルーな若造に、ジャン・マイケル・ビンセント。若っ。ビッグウェンズデーがこういう映画にでてたんですねえ。今見ると若さ故のアホヅラが炸裂しており、ブロンソンのとの対比では限りなく尻の青さが際立ちます。


ブロンソンとビンセント君がチームで仕事をこなしていると、ボスが糸を引いているのでしょうか、情報がダダ漏れていてターゲットが逃げ出したり、逆にワナにはめられて殺されそうになったりしますが、そこはそれテクと機転とブロンソンパワーと脚本の力で切り抜け、一仕事終えてやれやれ、といったあたりで映画は何重かのどんでん返し大会に突入します。このどんでん返しの鮮やかさ、印象深さがこの映画最大の魅力と言ってよいでしょう。最後、観客の意表をついてぶった切れるように終わるラストシーンは深い余韻を残します。


このラストシーン、どのくらい印象深いかといいますと、遥か昔、小学校二年生だったオイラが、特別に夜更かしを許された大晦日の夜にテレビでこれを見て、他のシーンはほとんど忘れているのにこのラストだけは今の今まで台詞の内容までも覚えている、というくらいですから、いかに当時のオイラの脳がインパクトを受けたかがうかがえます。この映画のお陰で、いまだに大晦日の夜には脳裏にブロンソンの苦みばしった顔がよぎるオイラでした。30余年ぶりに、しかも年の瀬に再び観る事ができて、たいそう感慨深かったであります。


おまけ。割と最近この映画がCSでかかってたので録画して観る事ができたわけですが、今ごろなんでこの映画が?と思ってたらどうやらジェイソン・ステイサム主演でリメイクされて2011年に日本公開となる模様。リメイクものに過度な期待をかけるのは経験上よしたほうが良いとは判っていますが、それはさて置いてもオリジナルのブロンソン版が再評価…とまでいかなくてもせめて再注目くらいはされてもいいんじゃないか、と思いました。おわり。