カジノロワイヤルの手帖

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高濃度男映画『トゥルー・グリット』

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制作・監督・脚本:コーエン兄弟。出演:ジェフ・ブリッジズ、マット・デイモンヘイリー・スタインフェルド。父親をしょうもない悪党に殺された娘一人。彼女は父の亡骸を引き取りに町にやってきますが、これがまた鼻っ柱の強い娘っ子で「父ちゃんの敵ば討たんと家へは帰れんばい!」と鼻息荒く、「まあまあ」と引き止める大人たちを持ち前の切れる頭と達者な口でキャンキャンゆわせ、街で一番腕の立つ保安官を雇って憎き父ちゃんの仇を追跡し始めます。が、この保安官が酒癖の悪いガハハ親父で、さらに別方面から仇を追ってきたイケ好かないテキサス野郎も合流して、3人の一筋縄ではいかない道行きが始まるのであった…というお話。


というと、擬似家族ロードムービーとか、世代や立場の異なる者同士が同じ目的の下に心の交流をとか、いろいろ類型的でスイートな物語を思い起こしてしまいますが、この映画はそういうポジションを指向していません。ことの顛末を、ときにユーモラスに、ときに残酷に描きつつも、視点は非常に客観的で淡々としております。描写が力んでない。ことさらに感動させようとしたり、見栄を切ったりしていない。なので観ている時の印象は意外なほどあっさり味です。少女の成長物語でもない。この娘、年は14歳ですが言動は置屋のやり手ババアのような抜け目無さなのでいきなり自立しちゃってます。あと保安官のジェフ・ブリッジズがダメ親父から更生して立派野郎になる、というわけでもないのでした。


そうした作劇上のクリシェをことごとく外してきているにも関わらず、最後は感動してしまうんだから不思議です。主人公の娘は二言目には「訴えてやる!」と可愛げがないことおびただしく、保安官も腕はたちますが口が悪く仕事も大雑把でピスピス人を撃ち殺しますし、テキサス野郎は何かというと自分の所属(レンジャーだそうです)を鼻にかけるという、3人ともどっちかというとあまり仲良くなりたくない類のキャラなのですが、しかしそうした個性の奥に根ざしているまっすぐで揺るぎない性根。これが垣間見えるため、彼らが彼らなりの方法で信義を貫く姿が最後には静かな感動を呼びます。そういう意味で、非常に「男」を感じさせる映画であります。


ジェフ・ブリッジズはこんな声だったっけ?と思わず耳を疑うダミダミのダミ声でやさぐれシェリフ酔いどれ派を好演。ダメおやじ味のなかにも頼もしさが光ります。マット・デイモンはテキサス野郎ですが、他の映画では尻がブルーな兄ちゃん風味のくせにこの映画ではやたらと男くさいキャラで、しかもそれがビシッとサマになってたので驚きです。主人公の少女はヘイリー・スタインフェルドちゃん。顔は可愛げがありますが言動がザッツ訴訟社会アメリカなので腹立つわーこのムスメーと思いがちですが、この自立っぷり、そして父への復讐を決して諦めないあたりは非常に男前であって、ラストの振る舞いに至っては背中で泣いてる男の美学がスパーク。こう考えると、この映画は西部劇というただでさえ男らしい映画ジャンルの中においても高濃度の「男映画」だと思います。アメリカで西部劇としては史上二位の大ヒット作となったのもうなずけるのでした。バイオレンスも男らしくハードな描写でビスビス人が死ぬのでそっち方面に感度が高い方にもおススメです。あと、『ノーカントリー』で超絶男らしかったジョシュ・ブローリンが今回は激しくしょうもない悪党を無双の馬鹿ヅラで演じていて笑えます。別人かと思ったよ!




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