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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

戦慄の母ホラー『青春の殺人者』

青春の殺人者 デラックス版 [DVD]
監督:長谷川和彦。出演:水谷豊原田美枝子内田良平市原悦子いっや〜恐ろしいものを見ちまったぜ。並のホラー映画を遥かに凌駕するおぞましさ。人間オトコとして生まれたからには、実の母親がメスのオーラを発散させながら自分に挑みかかって来る事ほど恐ろしいことはありません。いやそれがいいとおっしゃる方もおられるかもしれませんがそれはレアケース。一説によれば人間が近親姦を忌避するのはそれが文化的なタブーだからだけではなく、それを忌み嫌うようにDNAがプログラミングされているから、といいます。とすれば、近親姦への嫌悪は本能に根ざした生理的嫌悪とも言うことができ、もしその嫌悪のツボを北斗神拳並に突いてくるものがあれば、それはどんなホラーよりもおぞましいモノになるはずです。


それを絶妙な具合で実現してしまったのがこの映画で、「シュミーズ姿の市原悦子が全身を脂汗でギットリさせながら実の息子に迫る」という世にも恐ろしすぎるシチュエーションを露悪的にねちこく描いており、世の男性ほぼすべての陰茎を深刻なED地獄に叩き込みます。が、一方で原田美枝子のムッチリヌードも折々に出てくるために妙な具合でバランスが取れてしまい、なんというか男性方面的に大変な感じの映画でした。


息子を愛してはいるものの、あくまで自分の所有物とみなしているフシのある父親(内田良平)。息子(水谷豊)はそれに対して反感を抱きながらも口では父親に負けてしまいます。が、外堀を埋めてくるようなスキのない父のやり口についカッとなり、スイカを切っていた包丁で父親の横っ腹もズバ。台所は血糊屋の大出血みたいな事態になり、父親は榎本俊二の漫画の死人みたいな顔色になって死にます。包丁を握り締め、据わった目で固まる水谷豊。そこへ仕事から上がった母親が戻って来ますが床の血溜まりでゴロッとしている父ちゃんの姿を見て気が動転。素直に警察に行くと言う息子にあろうことかダメを出し「これは家の中の問題なんだから、法律やら国家やらに口出しされてたまるもんですか」という鬼理論を展開。独特の母パワーで息子を丸め込んで事件をもみ消し、家と土地を売り払って遠くへ逐電し時効成立まで息子の嫁替わりにおさまろうというカッ飛んだプランをとくとくと語ります。この暴走する母パワーにドン引きする息子ですが今ひとつキッパリと拒絶できません。煮え切らない態度でいる息子に母はヒスを炸裂させ、ひとしきりキーとわめいたあと虚脱してシュミーズ一丁透け乳首の姿になり、息子の首に手を回してウットリしながら「ねえ、二人でアレしようよ…」と世にも恐ろしいセリフをささやきます。


このシーンのおぞましさは筆舌に尽くしがたく、これはこの役に市原悦子を配したキャスティングの妙と言ってよいかと。もしこれが黒木瞳だったらどうか。それではただうれしいだけでフランス書院の映画化になってしまう。あくまで市原悦子という女優の、体臭のように漂ってくる倦み疲れた女のオーラ、女である事を諦めかけている母のオーラが、このシーンにみなぎるべき生臭さと嫌悪感を充填しています。結局母は狂乱の挙句息子に拒絶され、それを曲解して嫉妬に狂い、果ては一家心中をはかろうと息子に包丁を向けます。必死で包丁の切っ先をかわす息子。ここの親子のぶつかり合いは凄まじく、まさに血みどろの争いですが、恐ろしいことに必死であればあるだけ滑稽にも映ってしまい黒い笑いに限り無く近づいた暗黒コントのような様相も呈してきます。結果、マウントポジションをとった息子が母の腹(子宮のあたり?)に包丁を突き立てるのですが、この直前に放つ母・市原悦子のセリフが想像を絶して恐ろしい。「痛くしないで…」ひいいいいー!そして後に引けなくなった息子は体重をかけて母の柔らかい腹に包丁を埋めます。「痛い!」ギャー!やーめーてー!。この母殺しのシーンを擬似セックスとして描いているあたりに作り手のどす黒すぎる意図を感じます。抜き差しして母をヒイヒイゆわす息子(包丁で)。行為が終わって事切れた母の顔がアップにされますが、この母の顔がまた異様に妖艶で、まあこの映画はいったいなんということをするのか!


この映画は開始40分にしてこのクライマックスを迎え、残り一時間を使って息子が事後どのように混乱するかを描くという、ド頭盛り上がりからのフェードアウト終わりという珍しい構成になっています。さてこの息子は両親を殺したもののどうしていいか解らなくなって、幼なじみと出奔するもののやはりどうしていいか解らない。死体を海に沈めてみたり、幼なじみを突き放してみたり、家に火を放って死のうとしたりするけれども、どうにも自分がどうしたいのかが解らない。途中、自分がいかに手厚い両親の庇護のもとにあったかに気づいてしまい、いまさらながら後悔したりする。この「どうしたらいいか解らない」というのが後半のミソで、親離れし切れず確固たる意志を持てない若者の姿を痛切に浮かび上がらせています。この息子を水谷豊がこれ以上無いくらいのハマリ度で好演。この人は捨てられて雨にぬれている子犬のような役が実にうまい。正直、アカデミー賞級の名演だと思います。ラストカットの長回し、こちらをうつろな目で見つめる彼の姿も実に忘れ難い。名作でした。前半の市原悦子といい、後半の水谷豊といい、これが監督第一作とは思えない長谷川和彦おそるべしです。