カジノロワイヤルの手帖

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哀愁の老人ホラー『ゴースト・ストーリー』

ゴースト・ストーリー [VHS]
監督:ジョン・アーヴィン。出演:フレッド・アステア。あの黄金期ハリウッド製ミュージカルを担ったフレッド・アステアの遺作ですが、それが腐乱死体もぬろぬろぬっちょんの心霊ホラーなのですから人生というものはわかりませんですね。いま現在頭上のHPメーターが残り少ないご高齢の俳優の皆様におかれましては「これが遺作になるかも知れぬ」という心構えでひとつ作品選びを慎重にしていただきたいと思う所以です。それはさておき物語ですが、ニューイングランドの片田舎で暮らす4人の年老いた男たち。「チャウダー会」という会を結成して、夜な夜な集まっては怪談を語り倒しているという因業じじいたちです。しかしこの4人、何か秘密を隠しておられるご様子で就寝のたびに悪夢にうなされており残り少ない寿命がピンチです。このうちのひとり、ネッド(ダグラス・フェアバンクスJr)の長男がビルから全裸で墜落して死にますが、何か心に思い当たるものがあったネッドは健在な次男を手許に呼び寄せて「気をつけるのだ…」と忠告するも、言われた次男はなんのことやら。そしてネッド自身も息子を失った悲しみで表をヨッタヨッタと歩いておりましたところ、女の亡霊を目撃してビックリ。橋から落ちて死にます。


身内の怪死が続いて身の危険を感じたのか次男のドン君(クレイグ・ワッスン)も鼻息荒くチャウダー会に入会、ジジイどもに話をさせて事の真相を確かめようとしますが、よほど気まずいのか貝のように口を閉ざすジジイたち。そうこうしているうちにジジイがもう一人変死の憂き目に会い、プレッシャーに耐えられなくなった残りのジジイは50年前の忌まわしい過去をコクるのでした。要するにジジイたちがまだピチピチの青少年だったころにアイドル的存在だったエヴァという女がおり、彼女の取り合いで争いとなるのですが揉めたハズミで転んだ彼女が頭を打ってポックリ死亡。「やっべえバレたら前途洋々のボクらの将来がピンチピンチ」と4人は彼女を車に乗せて近所の池に沈めますが、車が沈み始めた途端さっきまで脈が止まっていたはずの彼女が息を吹き返して車中で大暴れ。しかしもう手遅れで4人は気まずい思いを噛み締めながら沈みゆく車を見届けてなんとか事なきを得るのでした。


いやーこれはたたるでしょう。たたるよ普通!とドン君は残ったじじい二人を連れてエヴァの自宅だった廃墟に乗り込み、なんとか彼女のたたりを祓おうとするものの、階段を踏みぬいて足を骨折しピクリとも動けなくなります。残ったのは若い頃ダンスで常軌を逸した動きをしていたとはいえ今はヨボヨボのフレッド・アステア他一名なのでまったく頼りにならないうえに、こいつらが「アホらしいわい。わしゃ帰る」「やつが戻ってこんのう…ちょっと見てくる」とホラー映画における何らかのフラグをビンビン立たせながら次々とその場を立ち去るのでサスペンスが盛り上がるような気がします。さて取り残されたドン君の運命は!そしてたたりの結末は!


この映画、1981年の映画ですが日本未公開で、後年ビデオで発売されて一部ホラーファンから隠れた名作と呼ばれているらしいです。劇中エヴァちゃんがいい感じに発酵した姿で出現、画面をヘドロ臭溢れるズルズル状態に何度となくたたき落としますが、この腐れ描写がやたらリアルで臭イイ仕事をしておられるなあと思ったら特殊メイクがあのディック・スミスで納得。隠れ名作と言われる一端はこのあたりもあるのかと。雰囲気もアメリカの田舎阪ゴシック・ホラーという趣でなかなかよろしいですし、端々にあるビックリ描写も効果的です。惜しいのが筋運びの平坦さで、序盤は基本的にジジイどものうなされ場面が延々続くだけなので話がいっこも面白くありません。まあ後半、ジジイたちの過ちが明らかになる頃からようやく話が転がり始める感じで持ち直しますが…。また主演がフレッド・アステアとはいえ基本的にしわしわのジジイ4人ですから絵的な派手さにはどうしても欠けるものがあり、そのあたりが日本未公開となった一因ではないかと思われます。それにこの当時の日本は『13金』を筆頭とした血まみれ残虐ホラーが大人気でしたからこういう地味ーなホラーはどうしても埋もれがちだったのでしょうね。


しかしアチラの心霊映画を観ると、洋の東西で幽霊の描かれ方がまったく違うので面白いです。日本の幽霊は基本的に気配と雰囲気メインでターゲットを心理的にジワジワ追い詰めてゆくという奥ゆかしいタイプが多いのに対し、この映画も含め、アチラの幽霊はターゲットの首を直接締めてみたり椅子やお皿をブンブン飛ばしたり怖い姿をバンバン晒して怖がらせたりとアピールに積極的です。国民性の違いは幽霊譚にも現れているような気が。話が大きくなりそうなので終わります。