カジノロワイヤルの手帖

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仁義なさすぎる戦い『アウトレイジ』

アウトレイジ [Blu-ray]
監督:北野武。出演:ビートたけし椎名桔平加瀬亮。とあるヤクザのご一家内で内輪揉めが発生。最初はちょっとしたいさかいだったハズが、なぜか事が進むごとに炎上の度がヒートアップ。雪だるま式に暴力が加速して、ついには血で血を洗う内部抗争に発展、あちこちで思い切りの良すぎる残虐大会が勃発します。公開時の売り文句である「登場人物が全員悪人」というのはハッタリではなく、まあ出てくる人出てくる人がみな悪党かゲスか外道かというありさまで、この方々が謀略と暴力を適宜使い分けながら全力で人さま蹴落とし合戦にいそしむという、まことに心が洗われない映画です。


登場人物はほぼ全員一分のスキもない鉄壁の外道っぷりで、観客の感情移入をしっかりガード。観客は誰にも肩入れしようのない状況に置かれてことの成り行きを傍からヒトゴト風味で見守るしか無い状態におかれます。その状態で見せつけられる醜い抗争劇は悲劇を通り越して喜劇ですらあり、実際に観ていてこれはギャグなのかと錯覚することもしばしば。というかギャグでしょ?中華包丁で切り飛ばした指がラーメンに入って客が気づかずにそれを食うとか。ひどいわー。ウヒヒ。


ヤクザ映画とはいえ、『昭和残侠伝』のような任侠の道は影も形もなく、あの仁義なき戦い』すら人情味溢れる映画に思えてしまうほどで、義理と人情の渡世はすでに過去の遺物でしかなく、今のヤクザの行動原理は損得勘定のみ。殺るか殺られるかの世界であると言い切ってます。そんな中、一筋の隙間風のようなおぼろさで、唯一浪花節を感じさせるのがビートたけし演じるところのヤクザ、大友ですが、映画はそんな彼の人情味も真っ向からたたきつぶして嘲り笑っている風情なのでまったく潤いがありません。最後にはこの暴力と謀略の歴史がいずれまた繰り返されるんですよ的な虚無感MAXの境地に到達し「人間の営みなんて虚しいもんすなあ」とニヒルな笑いのひとつも出ます。


俳優陣は、現在の日本映画の濃いいところを抽出したような感じで、ギトギト方面で顔面偏差値の高い方ばかりが集まっており、映画の平均気温が2度ほど高まっている風情です。中でも英会話バッチリのインテリヤクザを演じた加瀬亮が出色。こいつとは絶対フレンドになりたくないと思わせる蛇のような存在感。ヤクザと癒着しているマル暴の刑事、小日向文世の飄々とした小悪党っぷりも良かったなあ。さらにヤクザの会長役の北村総一朗や、その右腕の三浦友和など、普段温厚な役柄がメインの俳優がこうした人間のダークサイドをゲスゲスに演じたとき、そこに奇妙なリアリティと生々しさが生まれ、味わい深いものがあります。こうした、一般人とヤクザの狭間にいるグレーゾーンの人間が意外な残虐性を発揮するとき、北野武の映画は一段と黒い輝きを増すのでした。初期北野映画のヒリヒリした暴力描写がお好きな方はぜひ。ただし、あのころの原石のような新鮮さは無く、むしろ手馴れた十八番を上演しているような印象です。