カジノロワイヤルの手帖

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完璧すぎるけど『カーズ』

カーズ [Blu-ray]
監督:ジョン・ラセター。レーシングカーのライトニング・マックィーンはデビュー直後ながら初優勝に手が届きそうな期待のルーキーですが、若い才気走った天才にありがちな俺様病に罹患しているため生意気の極みであり、傲慢な物言いが祟ってフレンドはゼロのロンリーガイでした。しかしひょんなことからラジエーター・スプリングスという寂れきった街に迷い込んでしまった彼は、そこの住民との衝突と和解を経て人間的に(車だけど)成長し、見失っていた大切なものを取り戻すのでした。完。


まあ書いちゃえば以上で終わってしまう話ではありますが、にもかかわらず細かいところまで行き届いた脚本・演出・美術・音楽が実に豊かな映画の時間を紡ぎ出しております。主人公の成長を、彼の経験を通して丁寧に描く脚本。主人公の心情をライティングや画面構成で細やかに醸成してゆく演出。それらを緻密に描き出し、また車を擬人化した世界を説得力をもって描き出す美術。…と、たっぷり金と時間のかかった良い仕事が展開され、一分のスキもなくデザインされた美しい新車をなで回しているような贅沢な満足感に浸れます。ブルーレイの精密な画質で見ると、画面の情報量の多さに圧倒され、美しいクロムのボディの質感やそれに反射する背景の表現にはフェティッシュさすら感じます。


実に手間暇のかかった映画ですが、万人に愛されるようにあらゆる方向から計算し、一分のスキもなく組み立てられた結果として、全方位的に落ち着きの良い、つまり非常に類型的な物語になってしまった感があります。脇を固める登場人物も、主人公の成長に欠かせないと思われる役割のキャラ(主人公と反目し合う老人、親友となるコメディリリーフ、戸惑いながらも惹かれてゆくヒロインなど)が一通り揃っており、まるで鋳型で作られたようなパターン通りの配置のされ方で、愛される映画を作るための方程式から導きだされた最適解をそのまま答案に乗せました的な、現在のハリウッドの手クセが良くも悪くも出てしまった感は否めません。


そういう巨大産業としての映画が持つ病理をやや感じるものの、完成度を高めるためのディティールへのこだわりがこの映画を一見の価値あるものに高めています。ソフトに同梱されているメイキング映像やオーディオコメンタリーを見ると、そのあたりのこだわりの深さ、細かさに慄然とすることうけあいで、この映画の見方がさらに変わってくることでしょう。これらも併せて観ることを強くおすすめします。


うちのボンズあらためクルマスキーがこの映画を繰り返し観るため、付き合わされる父ちゃんはもう通しで30回は観てます。これだけ見てもまだスキをみては「かーじゅ、みるー」と事あるごとに要求してくるので一体あと何回観ることになるやらです。しかし、これだけ繰り返し観てもまだウンザリを感じさせない点は凄い。製品めいているとはいえ、それが完璧を目指して作られたモノであれば確固たる魅力を放つという実例でしょう。これはこれで、やっぱり凄い。