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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

反撃のゴスッ娘『ドラゴン・タトゥーの女』

映画

ドラゴン・タトゥーの女 [DVD]
監督:デビッド・フィンチャー。主演:ダニエル・クレイグルーニー・マーラ。雑誌編集者のミカエル(ダニエル・クレイグ)は名誉毀損の訴訟に負けて仕事も貯金も大ピンチでしたが、突然大企業の元会長から調査の依頼が舞い込みます。「40年前に孫娘のハリエットを殺した犯人を探して欲しい」えっいやいやいやちょっとそれは。「受けてくれたら訴訟相手の弱みを教えるよ」「やります」という訳で犬神家もかくやのギスギス極まる一族相手に昔のことを根掘り葉掘り尋ねるというミッションの開始です。しかしこの一族、元ナチ党員がゴロゴロしているなど一筋縄ではいかないヤツらばっかりで調査は難航します。困った。助手がほしい。というわけで送り込まれてきたのが全身のピアスとブリーチした眉毛と余計なことは喋らない口がチャームポイントのゴスッ娘、リスベットちゃんでした。…というお話。


二時間半を超える長尺の映画で、観る前はケツが痛くならんかしら、などと心配でしたがそんな事は全く気にならず、一瞬もダレないまま映画はずんずんと進んでゆきます。この映画には3本の軸があって、ひとつは40年前ハリエットに何があったのか、というミステリー的な興味。もうひとつはミカエル自身が抱える問題(訴訟、雑誌社の命運、不倫)。そして最後の一本はリスベットという特異なキャラ自身。この全てが三つ編みのように絡み合って物語のうねりを生み出していき、緊張感を絶やさない演出や編集も相まって、猛烈に先の展開が気になる映画になっています。


3本の軸のうち、ミステリー部分については、ミカエルが過去の調査資料を丹念に洗って新事実をつかむあたりの展開が面白く、ミステリーの醍醐味がたっぷり。ミカエルの問題についてはそれほど比重が大きくないですが、演じているのがダニエル・クレイグで、しかもところどころに007を彷彿とさせるシーンがあり、007と本作のギャップにニヤリとできるという通な観方が可能です。途中ミカエルが狙撃されて走ったり、怪我を手当てするシーンが入ったりしてますが、007なら眉毛一つ動かさず機敏かつスタイリッシュに演じるところを、本作ではじつに情けなくヘタレに演じており、まあこうやってちゃんと差別化しとかないと何の映画観てるのか判らなくなっちゃうからなあ、と演技プランに感心するか、もしくは「ああっボンドがダサメガネを!」「VAIOじゃなくてMacを!」「ボンドが黒いブーメランパンツを!」「ボンドがこんなへっぴり腰な走り方を!」といった数々のギャップに倒錯した面白味を感じるか、まあ楽しみ方はあなた次第です。


最も重きを置かれているのが、この映画のタイトルロールであるリスベットちゃん。この娘が舐める数々の辛酸と、それを彼女がどのように跳ね返してゆくか、という点がじっくりと描かれます。前半、社会的弱者でもある彼女はその境遇を利用されてたいそう酷い目に合わされます。この映画がR-15であるのもこのシーンが理由で、ということでお察し頂けると思いますが、とにかくこのシーンが徹底的に観客を不快にするよう計算されており、そういう仕打ちを受けるリスベットの苦しみ、無念を彼女と同化して観客も受ける、というような構造となっていて、胸のムカつき具合は筆舌に尽くしがたいものがあります。私の友人の女性はこのシーンのためにこの映画を最後まで観られなかったといいますからハンパではない。


ただ、そこでしくしく泣いてばかりではなく、きっちり自分の流儀で反撃に出るのがリスベットちゃん。彼女がもっているキレキレの知能をフル回転させ、自分を辱めた相手に復讐し、大の男がさめざめ泣いてしまうドイヒーな目に遭わせます。そんな彼女ですから、女を踏みにじる者、例えばハリエットを殺した者…にはこの上ない追い込み甲斐を感じるのでしょう。ミカエルからの依頼をあっさり引き受けます。ここから彼女が発揮する調査能力の凄まじさも見どころです。


そして、リスベットという特異なキャラクターが、この映画を単なるミステリーから一歩踏み出たものにしています。他者から踏みにじられてきた女が、外敵から身を守るハリネズミのように自分を武装し、全身にピアスやタトゥーを纏って他者を寄せ付けないようにしている。が、そんな彼女が次第に心をひらいていったとき、そこには普通の娘と変わらない彼女なりの魅力があるのだ、ということが描かれます。調査が進むに連れて、ミカエルとリスベットの間にいい雰囲気が流れ始めますが、そのときゴスゴスの異貌の奥に垣間見える一抹のいじらしさ。そして、なぜ美しく聡明な娘がこうした凶暴な外見をまとわなくてはいけなかったのか、という理由。これらが丁寧に描かれ、映画は単なるミステリーにとどまらない深みを得ました。こうした複雑な役を演じきったルーニー・マーラがすごくいい。序盤の警戒心まるだしのキョドっぷり、中盤ひどい目に遭って傷つけられる姿、反撃に出た時の凶暴性、捜査に没頭しているときの凄まじい頭の回りっぷり、いざというときに見せる行動力と度胸、そして次第に見えてくるいじらしさ。これを全部演じ切ってます。アカデミー主演女優賞ノミネートも大納得。オスカー取れるといいなあ!