カジノロワイヤルの手帖

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寿司屋のカツ丼は意外と美味かった『カーズ2』

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監督:ジョン・ラセター。前作で生意気野郎から一転してまごころガイとなったライトニング・マックイーンちゃんが今度はワールドシリーズで大暴れ。日本、イタリア、イギリスと世界を股にかけて大レース!しかしひょんなことから相棒であるレッカー車のメーターとの友情にヒビが…!果たしてレースの行方は?そして二人の友情は?


…という内容だけであれば真っ当な続編なのだなあといろんなモノが腑に落ちるのですが、実際はこれに「ガソリンに代わる新燃料をめぐる陰謀」「悪の組織と戦うスパイカーとその助手」という新要素が入ってきたため、『カーズ』とスパイ映画を足して2で割らなかったような混沌の度合い激しい内容になっています。そもそもなんで『カーズ』の続編でスパイ映画のパロディをやろうとしたのか。おそらく企画会議が紛糾し深夜から未明にまで及んだ結果、参加者全員が明け方特有の変なテンションにつつまれて「スパイ映画とかいんじゃね?」「ボンドカーやるか!」「うはwwwwwそれwwwwwワロス」などと盛り上がってしまった結果が何かのハズミで正式採用になってしまったのではないか。前作の人情路線からハチャメチャスパイギャグへのシフトにはそのような事情が…、と思い込まなければ納得できない不可解さですが、しかし誰も止める人、おらんかったんやろか。


このような路線変更のためかこの映画の評価はイマイチ低めで、2011年のアカデミー賞でもピクサーが初めてノミネートを逃したのが地味に話題になりましたが、観た者からすればそれも止むなし。例えて言うなら『英国王のスピーチ』の続編が『英国王のスピーチ2/カミカミ王子を愛したスパイは美人秘書!陰謀うずまく愛欲の湯けむり温泉は滑舌にもグー』になるような変貌具合ですから前作を愛しておられた方ほどアゴの外し具合は激しいと思われます。前作が好きすぎるあまり数十回にわたって鑑賞したウチのボンズもこの続編には納得が行かなかったようで、『2』のディスクを再生するとみるみる表情が曇ってゆくので泣き止ましなどの用途には使えませんでした。


まあ前作のハートウォーミン成長物語の続きを期待する向きにしてみれば、そのような反応になるのは致し方ないところですが、しかしちょっと待って欲しい。この映画を、ピクサーが作った60年代スパイ映画のパロディとして捉えた場合、どうなるか。…というと、結構いい出来なんですよ。これが。


映画は、海上に浮かぶ原油採掘プラントに一台のスパイカーが忍び込むところから始まります。潜入!スパイ!取引されている謎の武器!謎の教授!秘密兵器で隠し撮り!スパイカー敵にみつかる!激しいカーアクション!爆発!まんまと逃走成功!…と、これだけでもう007のアバンタイトルそのままのノリ。ここでねっとりした主題歌が始まりタイトルバックにセクシーな車のシルエットがくねくね、とまでは行かないのが惜しいくらい。車が擬人化された世界という設定を存分に活かし、車のボディに仕込まれた秘密兵器もバンバン使われます。このスパイカーの名前がフィン・マックミサイル、その助手の女の子(ボンドガールに相当)の名がホリー・シフトウェルと、全くもってイアン・フレミング風味なのも「判ってるな!」と高ポイントです。さらにフィン・マックミサイルのデザインは往年のボンドカー、アストン・マーチンDB5を彷彿とさせるクラシックなフォルム。いやー心にくい。


さらにこいつが日本の繁華街を舞台に激しいアクションを繰り広げるという007は二度死ぬ』もかくやのシーンがタップリと入っており007ファンのニヤニヤは止まりません。日本といえばスパイ映画においてはエキゾチックジャパーン極まる壮絶な勘違い描写の連発が常ですが、さすがに東京の街をロケハンしただけあってニンジャやゲイシャがピンピン襲いかかってくるようなキテレツな事態にはなっていません。デフォルメされつつもかなり真っ当に描かれております。まあその筋の愛好家にとっては少し物足りないかも知れませんが…。ただ、アメリカ人から見た今現在の日本のイメージ、日本人とは異なる位相でとらえた東京の街が描かれていて、面白いです。アメリカ人が見た東京の街とは、ネオンのジャングルであり、ハイテクとエキゾチシズムの共存であり、伝統文化とポップカルチャーの織り成すカオスである、ということがよく分かります。トイレがやたらハイテクに描かれてて大きなカルチャーギャップを生んでいるのも面白いですね。


舞台は東京からパリ、ロンドンへ。この世界旅行感もさることながら、ラストの舞台にロンドンを選んでいるあたりも007への目配せと言えましょう。特筆すべきはロンドンの曇天の空気感で、リアリティ溢れる絶妙なライティング。精緻な街並みの描写も相まって、擬人化された車のキャラがなければ実写かと見紛うような見事なシーンが展開されます。曇り空の光の感じ、湿った空気の感じが実によく出てる。ここはマジですげえ。


全体的にハンドルを斜め上方向に切ってしまったため、寿司屋に行ったら頼んでないカツ丼が出てきたようなミスマッチ感にあふれた映画ですが、このカツ丼が意外と美味かったという、スパイ映画好きにとってはウシシと楽しめるパロディでした。そっち方向から観てると逆に主人公と相棒の友情物語部分がなくてもいいよね、ということになりがちなのが痛し痒しというか、つまりファミリー映画としてはスパイ映画部分が余計だし、逆にスパイ映画としてはファミリー映画部分が余計だし、ということで、同じ映画の中に相性の悪い二本の本筋が入っているというのがこの映画の弱いところでしょう。この話、別にカーズのキャラでやらんでも全然いいよね、と思ってしまうのが続編としてつらい。果たして『3』はあるんでしょうかね。もしあった場合、いったいどのような路線になるのか、いろいろな意味で興味深いです。