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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

突き刺さる魚の小骨『ダークナイト ライジング』(ネタバレ有り)

※ネタバレてるので未見の方はご注意ください。


ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)
監督:クリストファー・ノーラン。主演:クリスチャン・ベール。前作にてバットマンは検事殺しの汚名をあえて着るという苦渋の決断をし、その結果ゴッサム・シティからは犯罪が消えたものの、バットマンにしてみれば自分の出番がなくなった上に市民からは人殺し呼ばわりなので、あれから8年間お屋敷に引きこもり中。一方犯罪は無くなったように見えて地下に潜っており、ベインという不気味なマスクの大男が文字通り地下に一大帝国を築いて着々と準備を進め、ついに蜂起してゴッサムを占拠するのでした。ベインはゴッサムという街の矛盾や格差を精算しようとし、街をカオスに叩きこむべくこれを封鎖して無政府化。戦争状態にします。バットマンは引きこもり状態から立ち直るものの、ベインに負けてすべてを失い、穴蔵に幽閉されてしまいますが、不屈の精神で這いずり出て逆襲を…。


いやあ燃える話だ。実際、ベインがゴッサムを占拠してしまうあたりは『パトレイバー2』みたいでハラハラが止まりませんし、バットマンがヒーローとして最後に取る自己犠牲の精神には男泣きボムが炸裂でつい鼻の奥がツーンと…。


するにはするんですが、ほんのりと漂う釈然としない感じ。というのは、冒頭から「えっ」「えっ」「なんで?」という魚の小骨のような細かい突っ込みドコロが連発されてしまうためで、観ていてどうも落ち着かない。例えばしょっぱな、ベインが物理学者を拉致して飛行機の墜落で死んだように偽装するシーン。ベインは人質を装って、顔にズダ袋を被せられた状態で飛行機に乗り込みますが、離陸してから乗せた方は袋を取ってビックリ。「ベインじゃねえか!なんでお前が!」えっ。乗せる前に顔を確認しろよ!そしてベインは墜落する飛行機にわざわざ替え玉の死体を持ちこみ、学者から死体へ輸血して物理学者が死んだように見せかけようとするのですが、人間の身元ってあの程度ちょろっと輸血したくらいで誤魔化せるもんなのか。というかそもそも替え玉死体が学者とはあまり似てないので墜落したあと焼け残ったらどう考えてもバレるだろ。などといった細かいツッコミどころが波状攻撃で押し寄せてきますが、同時に激しいアクションも進行しているので見る方もとりあえず受け流しつつ、心のどこかに残るわずかな違和感。


このように、細かな違和感が映画全編を通して蓄積されていくのを、激しいアクションとキャットウーマンのコスプレ姿でウヤムヤにしてゆくという力技の作劇方針が功を奏し、鑑賞後の満足感のなかにも喉に小骨が刺さったような気分が残るという、タダの娯楽映画には無いフクザツな後味を実現しました。いや、実際に面白いんですよ。2時間45分という膀胱にやさしくない長尺ながら、一瞬も飽きない。バットマンとかゴッサムとか、こんな事態になっちゃってこの先どうなるの?ベインちゃんは一体何をしようとしているの?巨大な監獄と化したゴッサムの市民の運命は?先の展開が猛烈に気になります。


しかしそのようにドカンドカンと映画を盛り上げつつ、はしばしで見つかる小ネタのようなツッコミポイントがせっかくの盛り上げを片っ端から相殺してゆくため、映画のテンションに比して観客のそれは今ひとつ追いつかないという、アクセルベタ踏みでエンジンは焼き切れそうなのにスピードは「まあ、速いよね」くらいにしか出てないという奇妙な状況となります。特に今回のマクガフィンである核エネルギーの扱いの雑さがすごい。いま世界で一番核に敏感な国の観客を舐めんじゃないよ。まあ並のアクション映画なら笑って許せるトコかも知れませんが、しかしこれはあの『ダークナイト』の続編なのです。これ以上ないところまで上がりきってるハードル。


今回の悪役、ベインちゃんの目的もいまひとつよくわからない。「虐げられた者たちに光を!」なのか「バットマンに復讐を!」なのか「搾取を続けてきた者たちに罰を!」なのか。どれもこれもありそうなのですがどうもハッキリせず、最終的にゴッサムを核でふっ飛ばしたらもう俺はそれでええねん、という雑な手段の目的化を起こしてしまいます。それじゃ今までの行動は一体なんだったんだ!いや目的がよくわからないという点では前作のジョーカーも同じですが、向こうは滅茶苦茶な行動を取りつつも、逆にそのことで「人間を、バットマンを、試す」というポリシーが貫かれております。が、ベインにはそうした、人間やヒーローに対する疑問者/告発者たる面が弱い。そういう存在であろうとして刑務所を襲撃し囚人を開放したりしているものの、じゃそのことでお前は何をしたいんだ。結局ぜんぶ核で吹っ飛ばすくせに。今回、ここが最大の弱点かと。バットマンの影であるべき悪役の造形がぶれているために、影の本体であるバットマンの造形までもぶれてしまいかねないという…。さらに終盤、真の黒幕が出てきたことでベインの存在自体が空虚であったことが判明し、ベインはタダの雑魚に成り果ててテキトーな感じで倒れたまま以後出てこなくなりました。根性みせんか!


繰り返し言いますが面白いんですよ。でも、前作の突き詰めたヒーロー論を観たあとでは、やはり詰めの甘い映画だと言わざるを得ない。そうした意味でも、内容的にも、一作目の『バットマン・ビギンズ』の直接的な続編と考えれば非常に収まりのいい映画です。そして『ダークナイト』はやっぱり鬼っ子だったんだなあ、と。


おまけ。執事役のマイケル・ケインが今回凄くいいです。職を賭して主人を諌めるシーンが泣かせます。彼の優しさと男気に全世界のケインファンはもらい泣き必至。執事萌えの方は号泣です。



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