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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

あまりに引っかかりのない『プレーンズ』(ネタバレあり)

プレーンズ(2013)(Import) DVD
監督:クレイ・ホール。農薬散布機のダスティ君は、来る日も来る日も農薬を畑にまいて暮らしておりましたが、一念発起して老軍用機の訓練を受け、世界一周飛行機レースの予選に出てみたところ、なんか予選突破してしまったので本戦に出れるぜ!イエッフー!しかし彼はなんと高所恐怖症という弱点を抱えていたのでした。飛行機のくせに。はたしてダスティ君の首尾やいかに…。というお話。


車をはじめ、飛行機や船といった乗り物が、そのまま擬人化されて人間の代わりに社会を形成しているという『カーズ』の世界からのスピンオフ飛行機版で、タイトルも『プレーンズ』。直球です。『カーズ』一作目は類型的な作りながら、若者の成長を丁寧に描いた傑作で、続く『カーズ2』は一転してスパイアクションコメディになったという怪作でしたが、じゃこの『プレーンズ』はどうだったのか。正月の帰省先で『カーズ』大好きな息子(3歳)を引き連れて観てまいりました。ちなみに2D版を鑑賞。


感想:おもしくなかったです。


とにかく話が凡庸にすぎる。才能を秘めた若者がイージーなノリでレースに出て、ラッキーで予選を突破し、ライバルと友情その他をなんとなく育みつつなんとなく飛んでたらなんとなく上位に食い込んできて脚光を浴び、ライバルに妬まれ妨害を受けて窮地に陥るも、それまでの友情のおかげでみんなが助けてくれて無事優勝しました。終わり。というおでんの中の煮玉子のようなまことに引っかかりの無い話で、やっぱり主人公が試練を努力で切り抜けたり逆境に耐え忍んで光明を見出したり、というような明確な葛藤がないと物語というのはこんなに詰まらないのだな、ということをまざまざと体現しておりました。


作り手としても一応「飛行機のくせに高所恐怖症」という葛藤ポイントを設けてはおりますが、それによっていかに主人公が逆境を強いられるか、苦悩するか、つらい目に遭うか。といった描写が甘いまま、終盤に思い切って高く飛んでみたら意外に平気だったよ!ついでににジェット気流に乗って一番になったんだ!イエーィアハハハ!と言う感じで葛藤装置としての高所恐怖設定は見事に水の泡へ。おいコラ。


このあたり『カーズ』が類型的と言いながらもいかにうまく葛藤を脚本に盛り込んでいたかを思い起こすとよろしい。主人公のライトニング・マックィーンはイケイケの若手ですが、天狗になったために人望ゼロで内心満たされない思いを抱えておりました。コレが葛藤その1。さらに彼がある田舎町で罪を犯して勾留され、レースの前の大事な時間を全く望んでいない奉仕活動に費やさねばなりません。コレが葛藤その2。さらにそこでポンコツ老レースカーにコテンパンにやりこめられ、プライドを傷つけられていつか見返してやると闘志を燃やします。これが葛藤その3。これら複数の葛藤が、ドラマの展開につれて次第に解きほぐされ、新しい友情の誕生や、信頼の獲得や、逆転の勝利へと昇華されて解消し、観客はスッキリすると共に感動を覚える、という仕掛けになっているのでした。


『プレーンズ』はそこが決定的に弱い。若者が引退した老人に鍛えられてレースで勝つ、というドラマの大枠は『カーズ』とよく似ているものの、『カーズ』における両者の関係が「生意気な若者と老練のベテランの対立」という関係性から、度重なる衝突を経て互いに認め合い、葛藤を解消して最後には無二の信頼関係を結ぶ、という展開に至る重厚さにくらべ、『プレーンズ』においては二人の関係性が単なる生徒と先生の域を出ず、用意されている両者の衝突も師匠の経歴詐称をめぐるものでレースという主たるストーリーにあまり関係していません。なんでえこのジジイ偉そうな口をきいといて実は…という展開に主人公のダスティ君はおろか観客まで失望します。そこから師匠の名誉をいかに回復するかがドラマの見せ所ではあるのですが、この映画はそこに至る過程をすっ飛ばしていきなり師匠にええカッコをさせ強引に葛藤を解消しようとします。が、観客としては唐突に過ぎていまひとつわだかまりが解けない。というかそれだけでいいの?とすら思う。よってスッキリしない。


主人公は最初に訓練を積んで初めてのレースに挑みますが、それ以降は特に努力とか根性とかの結果で成長を感じさせることもなくレースに順応していきます。途中二度ほど大きく性能を伸ばす場面があるものの、一度目は農薬散布用のタンクを外して身軽になったことによるものでそんなもん最初からはずしとかんかい!二度目は友人たちが彼の人柄に惚れ込んで凄いパーツを一杯貸してくれたよ!という大変他力本願なもので、まあ善根を施しておけばそれは廻り廻って自分に帰ってくるものですよ的なドラマ性はありますが、ある逆境を乗り越えたとするには安易な感じは否めず、葛藤の解消としてはかなり苦しい。


物語のテーマとして「人は定められた役割以上のことができる。与えられた仕事に縛られなくてもいいんだ」というものがあり、それ自体は良いとしてもこのテーマを劇中人物がハッキリと台詞として言ってしまう時点で、それは脚本の敗北だと思います。台詞としてハッキリ言わせるのではなく、主人公の心意気や頑張りや逆境を乗り越える様をしっかりと見せることで、それを言外のうちに感じさせるのが優れた物語ではないのか。それができていないから、やむなく台詞で説明せざるを得ないのではないのか。


というわけで物語としては面白みがなく、予定調和的にダスティ君はレースに優勝してメデタシメデタシで映画は幕となるのでした。いかにもディズニー的なコメディリリーフや悪役はいたものの、魅力に薄く、ヒロインに至ってはむしろいなくても良かったよねというレベルで大変残念な感じ。子供もそんな状態を感じ取ったのか、開始後30分で「もう帰りたい」と言い放って保護者としては大変トホホでございました。ただ、細かいストーリーはさておき一個一個の場面は迫力たっぷりにできており、途中出てくる第二次大戦の回想シーンはオオッと思う壮絶なものがあって、そういう面では子供も一応満足していたようではあります。が、やっぱりこの話の引っかかりのなさはちょっとないわ。というわけで以上よろしくお願い致します。



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