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カジノロワイヤルの手帖

banのスットコドッコイ映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

良純の孤独な戦い『凶弾』

あの頃映画 「凶弾」 [DVD]
監督:村川透。主演:なんとこれがデビューの石原良純。私が高校生ぐらいの頃だったと思いますが、深夜にテレビでやってたのをふと目撃。なんだかモヤモヤした気分になり以後記憶の底にこびりついて離れなかったので、ちょっと前にCSでやってたのを録画して鑑賞。


良純はまだ19歳。少年院あがりの彼はそこで仲間になった古尾谷雅人山田辰夫とつるんで山中でライフルをぶっ放すなどの無軌道生活を送っていました。ある雨の夜、ずぶ濡れになりながら裸足でトボトボ歩いている訳あり娘(高樹澪)を冷やかし半分で拾ってドライブをキメていたところ、ちょっと車で追い越し違反をして張っていた警察に呼び止められますが、その時点ですでに飲酒運転、車は盗難車、ライフル所持、しかも座席にずぶ濡れの女という満貫状態でさすがの警察もスルーは不可。たまたま虫の居所が悪かった警官(阿藤快)は無抵抗の彼らを警棒でボコボコ打ちすえます。たまりかねた古尾谷は反撃して阿藤快の脳天に唐竹割りを決めその場から逃走。かくて良純たちの地獄の逃避行が始まるのであった…。というお話。



これ、題材は犯人が射殺されたことで有名な瀬戸内シージャック事件ですね。最終的に良純はいろいろあって銃砲店を襲い武器をたんまり強奪。そのまま観光船をジャックして立てこもり、空に海に銃弾をバカスカ撃っているところを遠くから勝野洋に狙撃されて死ぬ、という結末で、まかり間違えば日本版『トゥルー・ロマンス』か『俺たちに明日はない』といった趣の破滅型青春サスペンスですが、後世そういう評価にならなかったのはやはりデビューしたての良純の演技が何かこういろいろ無念な感じだったからではないかと。


実父が小説家&代議士、叔父が石原軍団のボスとあっては、良純が期待の若手として売りだされるのも故なしとは言いがたいのですが、やはりそれだけでは厳しいのがこの世界。圧倒的に経験が足りないためか、力みかえるばかりの演技は情感に欠け…というか、こんな坊ンにネンショー上がりの屈折したヤサグレをやらせるのがそもそもの無理かと。血筋はあっても鍛錬が足りぬまま主役に担ぎ出されてしまった良純は逆に気の毒とも言えます。


映画童貞を花と散らして頑張るそんな良純を、日本映画界の猛者共が演技力で圧迫していくという古今無双の追い込み漁映画です。良純を追う警察方面に、田中邦衛、滝田裕介、古谷一行平幹二朗、高橋悦史、勝野洋などの重すぎる面々。「良純〜!馬鹿な真似はやめて〜」と説得に当たるメンヘラ風味爆発の実姉に秋吉久美子。その祖父にいますぐこの場で死にそうな加藤嘉良純の保護司に煮ても焼いても食えなさそうな神山繁。そもそもが良純の仲間からして『丑三つの村』と『狂い咲きサンダーロード』という2大バイオレンス映画で主役を張ってる奴らです。そしてトドメは乗っ取られた船の船長に若山富三郎いいですか。仮にあなたが追い詰められた状態でやむなくシージャックに及んだとして(どんな仮定だ)、テンパッてプルプルしながらライフルを振り回している際に「船長は私だ」とドスの効いた声で言いながら出てきたのが若山富三郎だった場合、どうか。果たしてあなたは観念せずにいられるであろうか。わたしゃダメですたぶん。恐怖のあまり立ったまま漏らすか、器の違いに泣き崩れるかのどっちかです。


このような鉄壁の演技陣に孤立無援の棒読みで立ち向かう良純の姿が、劇中シージャックして孤独な戦いを続ける主人公の姿とついオーバーラップしてしまい、ああ慎太郎の息子として、裕次郎の甥として生まれることは想像以上に難儀なことなのかもしれんなあ、と映画の出来とは全く関係のないところで感慨が洩れてしまう一本。なお、公開当時映画は凄まじい不入りだったそうで、色々あったと思いますが良純が努力のすえ今の立ち位置を獲得できて本当に良かったと思います。以上、よろしくお願い致します。