カジノロワイヤルの手帖

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『007 スペクター』雑感(ネタバレあり!)

007 スペクター (ムビチケオンライン券)

 

監督:サム・メンデス。主演:ダニエル・クレイグ前回のネタバレなしでの感想に続き、長年のファンの目から観たアレコレをシリーズのお約束事を踏まえながらつらつら書いてみたいと思います。ネタバレありありなので未見のかたは要注意。

 

 

 

 

アバンタイトル

お約束のガンバレル・シークエンスからスタート。ダニエル・クレイグ以降は、これがアクションシーンとシームレスだったり、エンディングに来たりとひねられてましたが、今回は素直にド頭からの登場です。すごい伝統感。そこからお約束のタイトル前アクションのお時間となります。


「死者の日」の祭りで盛大に盛り上がるメキシコ市内。街の群衆はみな骸骨のお面をつけてて『死ぬのは奴らだ』みたいですね。そこで白スーツの男をおもむろに追い始める黒スーツの骸骨。さながら死の使いの如し。その男は女を伴って建物の一室にしけこみ、さて一戦…と思ったら仮装を脱ぎ捨ててひらりと窓の外へ。これが実はボンドちゃん。屋根伝いに建物を移っていくボンドと、それを追うカメラ。ここまでシリーズでもかなり珍しい長回しで見せてきてお見事。しかも音楽がきちんと背景とシンクロしていて、同じリズム隊が途切れずに流れつつ、室内に入ればラウンジ風のウワモノが入ってきたりと、任天堂ゲーム音楽みたいなシームレスな情景描写を音楽で実現してます。やりおる。


ここからドンパチが始まって派手なアクションになるわけですね。最終的に追っていた白スーツの男は仲間を呼んでヘリで逃走。それを追うボンドもヘリに飛び乗って飛行しながらの大乱闘。勢い余ってパイロットもどつき回されヘリは何千人かはいるであろう大群衆の真上で急降下したり逆さになったりしますが、これが怖い。下の人早く逃げてー!その心配をよそにボンドは男の手から指輪を奪い取ります。白スーツの男をヘリから叩き落とし、ついでにパイロットも叩き落として、落ちそうなヘリを墜落寸前で立て直し「今日もええ仕事したわ」と一息ついたボンドちゃん。手にした指輪をよく見れば、そこにはタコの紋章が…とこれのクローズアップからメイン・タイトルへ。


・メインタイトル&主題歌

 


Sam Smith - Writing's On The Wall (from Spectre ...



主題歌はサム・スミスの"Writings On The Wall"。このフレーズは聖書からの引用らしく「定められた運命」と訳されてましたが、何が「壁に書かれて」いるかについてはずっと後のほうで出てきます。主題歌と映画の題を同じくするのがシリーズのかつてのお約束でしたが、これは近年あまり重視されてませんね。歌は今回も名曲です。『スカイフォール』もしっとり静かに歌い上げる系でしたが、今回はさらにその路線を押し進めて、サム・スミスの絞り上げるようなファルセットは007の主題歌としては先例のない繊細さ。

 


タイトルバックは…今回なんとタコ!なんか魚屋の軒先でのたくってそうなのがいる!いやーこれちょっとどうなんでしょうね。CGなんですがヌメっててリアルなんですよこのタコが。イキが良さそうで。活魚感あふれてて。ちょっと007のスタイリッシュさには合わんのじゃないか。まあスペクターがボンドの運命を触手で絡めとっていくみたいなイメージでしたが、それとサム・スミスの歌声はちょっと相性がよろしくないのではないか。というかタコがヌラヌラというのはいくらスペクターの紋章がタコとはいえちょっと安直に過ぎるのではないか。そりゃまあ欧米ではデビルフィッシュと言われてる不吉な生物かもしれませんが、日本人にとってはひょっとこ顔で頭に鉢巻しめてるようなイメージか、または刺身ですからねえ。ちょっとどうなんだと。


なお、タイトルバックの途中では過去の関係者たちの顔がフラッシュバックしていく、という『女王陛下の007』もかくやのシーンが展開。ル・シッフルやシルヴァ、ヴェスパーやMといった皆様のお顔が次々と現れる中、『慰めの報酬』の敵、グリーンちゃんの顔は華麗にスルーされてて『慰め』好きとしてはたいそう悲しゅうございました。なんでだよう。そりゃグリーンちゃんは「われら007ヴィランの中でも最弱の小物…」かも知れませんが、慈善家を装って水資源独占という手口はいかにも今風で悪辣だっただけにこの扱いは淋しい。とほほ。



・今回の事件

冒頭のメキシコ大暴れが世界じゅうに報道されてしまって怒り心頭の上司M。ただでさえMI6の00課は組織再編で立場がビミョーなのに何をしてくれるのか。とボンドに停職を命じます。その組織再編に暗躍しているのがMI5のほうの官僚、通称"C"(アンドリュー・スコット)。あらこの兄ちゃんどっかで、と思ったら「シャーロック」でモリアーティをやってた人でした。その御方なのでこの"C"のイケ好かなさはまたひとしお。この兄ちゃん「殺人許可証とかもう時代遅れっしょ」とグローバルな情報監視システムを世界各国と協力して作り上げ、00課を真っ先に廃止しようとしております。あらー。なおアンドリュー・スコットの顔を見た瞬間に「さては」と思いますが、当然のように敵と内通していたので一周回って逆に安堵すら覚えました。


そんな微妙な立場に立たされている当のボンドは涼しい顔して停職も何のその、独自に活動を続けます。実はボンドは前作で死んだ先代のM(ジュディ・デンチ)からビデオ・メッセージを受け取っており、その指令に従いマルコ・スキアラという男を追ってメキシコにいたのでした。スキアラを殺したボンドはしれっとその葬式に出席、未亡人を籠絡して彼が属していた組織の緊急会議に潜入します。


この組織がつまり「スペクター」なわけですね。初期シリーズに延々と出ていた悪の総合商社みたいな組織ですが、著作権トラブルのためシリーズ中盤からこの名称が使えなくなってしまいました。今回そのあたりを解決し、満を持しての再登場です。このスペクター、昔は核ジャックで国家から身代金をむしりとったりとか、衛星兵器を使って国家をゆすったりとかしてましたが、再登場の今回は世界中の情報を牛耳って自分たちの都合の良いように世界を動かす、というのをモットーにやっておりまして陰湿の度が上がってます。このスペクターが前述の情報監視システムを操って各国の情報を好き放題にしてやろう、と言うのが今回のプロジェクトの模様。なるほど当世風。



・今回の悪役

そのスペクターの首領が、フランツ・オーベルハウザー(クリストフ・ヴァルツ)。先のスペクターの会議シーンでようやく姿を現します。逆光で顔が見えない中、小声で側近に命令を出したりする様子から凄いカリスマ性を発揮しており、うわーなんか凄いのが出てきよった、と期待が高まります。スペクターの会議ではトチったり分不相応な発言をしたりするとその場で粛清実行、というたいへん明快な企業方針なのでみなさん緊張しておられますが、その静まり返った薄暗い会場で、透き通った口調で淡々と命令を述べるオーベルハウザーは大変凄みがある。クリストフ・ヴァルツ、さすがです。憎たらしい悪役をやらせたらほんと上手い。


しかしついにその顔をみたボンドはショックを受けます。「あれは!死んだはずのフランツ兄ちゃん!」そうです。ボンドが幼少時に父母と死に別れたあと、彼をひきとった家庭の息子がオーベルハウザーだったのです。ええっ!これはびっくり。ボンドとスペクターの戦いはつまるところ兄弟げんかであったという衝撃の事実。養子であるボンドと彼に入れ込む父に、嫉妬と憎しみを募らせたオーベルハウザーは復讐を誓い、影からル・シッフルやシルヴァちゃんを動かしてボンドを苦しめていたのでした。これはまた難儀なやつが…。前作は母の奪い合い、今作は父の奪い合いですか。というか片や凄腕の情報部員、片や悪の組織の首領、という両方を仕込んだこのボンドの養父が凄い。ひとり虎の穴かと。


いろいろあってオーベルハウザーはボンドを捉え、椅子に縛り付けてロボットアームとピンバイスで頭にキリキリ穴をあける、というギャースな拷問を楽しそうに行います。拷問シーンは久し振りですね。『カジノ・ロワイヤル』ではル・シッフルがボンドの股間を叩き上げるという全男性がキュッとなるやつをやってましたが、今回はそれにも増して残忍。実際に二箇所くらい頭に穴開けられてますからこれは痛い。先端恐怖の方は要注意です。


この拷問シーンの前あたりからオーベルハウザーはマオカラーの服を着てたり、白いペルシャ猫を撫でたりして「ああ、やはりこいつが…」という思わせぶりな行動を取るのでオールドファンはわくわくです。そしてついに曰く「名前を変えたんだ…今の名はエルンスト・スタブロ・ブロフェルド」


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『007は2度死ぬ』の初代ブロフェルド先生ご尊影

ドナルド・プレザンス



ブロフェルド先生キター!もう待ってましたですね。映画を観る前からもしや…と勘ぐってはいましたが、やはりこうして名乗られるとテンションが高まってしまう。なおブロフェルドは母ちゃんの旧姓だそうです。意外と普通の理由だ。この時のボンドはとっさの機転で危機を逃れるのですが、この時の爆発でブロフェルドは顔面に深い傷を負います。だんだんキャラが完成形に近づいてきました。ちなみにこの時点でまだ髪はあります。



・今回の秘密兵器

Qちゃん(ベン・ウィショー)大活躍の巻。シリーズでは毎度のお笑いタイムであったQの研究所が復活してますが、ジャンプの裏表紙の通販みたいなおもしろ武器の開発はまだやってないようで残念。しかしボンドカーの開発は鋭意行っていたようで、009向けにアストン・マーチンを改造しておりましたところ、ボンドはこれを勝手に持ちだして使うのでした。ひ、ひどい。機関銃、火炎放射器、運転席射出といった秘密兵器のほか、持ち主のお好みに合わせてBGMを奏でる無駄機能も搭載。他には「アラーム音がデカい」のが売りの高級腕時計などが登場します。


Qちゃんは今時のメガネ男子で可愛げ爆発。猫と暮らしているという私生活がチラと語られて萌えポイントがダブルアップです。仕事の腕も確かで後半はMやマネーペニーとともに珍しくお外で活躍。敵にも襲われかけるなど出番もたっぷりでお好きな方にはたまりません。

 

 

・今回のボンドガール

ローマでボンドに口説かれる未亡人を演じたモニカ・ベルッチ。51歳という年齢にもかかわらず色気がみなぎっており凄いなー。お肌の張りはみなぎってませんがそれもまた良し。ボンドも目的のためなら五十路も何のその、がんばって籠絡にいそしみます。モニカ・ベルッチはスペクターの幹部の妻で、組織を知りすぎていたためにいつ消されてもおかしくない存在というサスペンスフルな役どころですが、ボンドに秘密を喋って以降は出番がなく残念。もったいない。


もうひとり、後半ボンドに命を守られるお若い方担当、マドレーヌことレア・セドゥーちゃん。こちらは大変ピチピチしておりますが、ボンドの死んだ仇敵の娘という設定のせいかやたら幸薄そうなのと、なんかいつ見ても鼻がポロッと取れそうで不安になります。初めは雪山山頂の高級診療所という『女王陛下の007』もかくやの職場にお勤めされていましたが、オーベルハウザーの刺客に襲われてからはずっとボンドと行動をともにします。その間、スリップ一枚とか艶やかなドレス姿とか、色々とっかえひっかえ魅せてくれて大変よろしいですね。最初はボンドを忌み嫌っておりましたが、行動をともにするウチに本気で自分を守ってくれている様子にグッと来たらしく、殺し屋に襲われたあと激しく求め合うなど、人間やはり命の危機のあとは本能的に子孫を残そうとしてしまうのだなあ。と変なところで感心。



・今回の結末

拷問から逃げ出したボンドはオーベルハウザーことブロフェルドの基地を思いきり爆破。ここの爆発シーンはなかなか凄いです。ギネスで世界一認定されたらしい。マジか。しかしせっかくの基地なのに、ここでのドンパチが意外とあっさりしているのがもったいないな。ここで敵味方入り乱れて大乱戦しとくのが伝統だろう!違うかね!

 

それはともかくロンドンに戻ったボンドは、今夜に迫った情報監視システムの起動を阻止すべく、ついに解散されてしまった00課の仲間たちと隠密行動に入ります。いっぽう生き延びていたブロフェルドは顔面に大きな傷を追いながらも反逆を開始。まずマドレーヌを拉致してボンドを旧MI6の廃墟に誘い込みます。再度対峙するボンドとブロフェルド。いやあこのあたりまでのクリストフ・ヴァルツの憎々しさはさすがです。しかしボンドに精神的ゆさぶりを掛けるため、 MI6の殉職者碑にボンドの名前を書いておいたり(主題歌のタイトルがここに繋がる)、歴代の悪役の顔を壁に貼っておいたり、仕事が細かい。ボスの命令とはいえこうした嫌がらせを設置する部下の心境はいかばかりか。


ブロフェルドはMI6の廃墟ごとボンドとマドレーヌをふっ飛ばそうとしますが、そこは機転で辛くも突破。ヘリで逃走するブロフェルドをボンドはボートで追跡。ヘリを拳銃で狙撃するボンド。いやそれはちょっと離れてるし、無理なんじゃ…って当たった?!しかもなんだか具合の良いスキマに弾が入って火を噴くヘリ!ええっ?ヘリは墜落してブロフェルドちゃんはヨタヨタと這いずりながら橋の上に逃げてきます。包囲する警察。銃をつきつけるボンド。


さあどうすんのか。ブロフェルドちゃんは足をやられて立てないご様子。撃ちなはれ。とっととカタをつけなはれ。というブロフェルドの敗北宣言。が…ボンドの銃もすでに弾が尽きていたのでした。あえなく逮捕されるブロフェルドちゃん。地面に這いつくばりながら、手を繋いでその場を去るボンドとマドレーヌちゃんの姿をじっと見つめるのでした。悔しい。悔しいのう。おわり。


…いやちょっと、ブロフェルドちゃんの退場がこれってちょっとあっけなさすぎやしないか。カインとアベルもかくやの血で血を洗う骨肉の争いはもう終わり?という肩透かし感は正直否めません。


さて事件も解決し、落ち着いた日々が戻ってきました。研究に勤しむQの元へ突然ふらりと姿を見せるボンド。驚くQ。


Q「!?てっきり退職したかと…」
ボ「忘れ物を取りに来た」


え?ちょっと待って?退職しちゃったの?マジで?と思う間もなくボンドは修理が済んだアストン・マーチンに乗って何処かへ走り去るのでした。助手席にマドレーヌちゃんを乗せて…。


いやー個人的にはこの幕切れが一番びっくりでしたね。まずブロフェルドがあっさり捕まること。そして真相は不明ですがボンドが退職しているとおぼしきこと。そしてマドレーヌと仲睦まじく去ってゆくこと。いや確かにハッピーエンドには違いないですが、ちょっとこのままでは余りに幕切れとしての重みが足りなくないか。ホントはココから先にちょっと何かあるのじゃないか、と思わざるを得ない。


順当に考えれば、ブロフェルドは捕縛されたものの、残党の力によって逃走(その際に爆発に巻き込まれるか何かでハゲになる)。そしてスペクター再興とボンドへの復讐に燃える。一方のボンドはそれにたち向かい、骨肉の争いにとうとう最終決着が…というのが次回作の骨子になり、同時にそれがクレイグ版ボンドの完結編になるはずではないのか。


ダニエル・クレイグのボンドはあと一本の契約を残しておりますが、しかし当のダニエル・クレイグはボンド役を「辞めたい」とも言っており、次回作も続投するかはまだ怪しい模様。現時点ではプロデューサーのバーバラ・ブロッコリーも「ダニエルにやってもらいたい」と言っているのみで、シリーズの行き先は少なからず不透明な状態と言わざるを得ない。場合によっては『スペクター』がクレイグ版ボンドの最終作になる可能性だってある。


ホント言うと、アストン・マーチンで仲良くドライブにでかけた二人が、『女王陛下の007』のようにスペクター残党に襲撃され、マドレーヌちゃんが死んで映画は終了、ボンドは次回作で復職しリベンジの鬼と化す、という展開だって考えられてたと思うのです。しかしそれは次回作でダニエル・クレイグが続投しないことには成立しないし、その可能性はまだ未知数。ならば曖昧ながらも一応のハッピーエンドで今回は締めておいて、次回作がどのような路線にもなりえるよう可能性を繋げておいた、ということも考えられます。


…というのは穿った考え方ですが、しかしダニエル版ボンドのこれまでの路線を考えると、この結末は唐突なまでに甘いのも確か。せめて何か次回作への引きのひとつも見せておいて、観客の心に複雑な後味を残して欲しかった、というのがファンとしての私の正直な気持ちです。


次へ展開する余力を残しながら、一旦ココで終わっても良いような甘い結末にしたことが、この映画の一番弱い所となってしまって、これはいかにも惜しい。エンドクレジットには例によって"James Bond Will Retuen"の1行がありましたけども、長年のファンとして、クレイグ版ボンドのファンとして、次回作ではブロフェルドの逆襲、そして最終決着をもって、ダニエル・クレイグの花道としていただきたく思います。以上、よろしくお願い致します。