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絶妙な泥臭さ『ジョン・ウィック チャプター2』

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監督:チャド・スタエルスキ、主演:キアヌ・リーブス。完全に承前前提の映画なので前作のチェックは必須です。ご注意をば。さて前作でロシアンマフィアをヒイヒイゆわした殺し屋引退希望のジョン・ウィックさんですが、そんな逸材が復活したのをその筋の方々が見逃すはずもなく、今度はイタリアンマフィアからお仕事の発注です。しかしジョンさんはマジ引退したんですから勘弁してください。そんな昔の血判もってこられても困るんすよホント。と迷惑顔で辞退ですがそこは義理を重んじる裏社会。君ねえこの血判がまだ有効なんだからお仕事の発注は受けてもらわんと困るのよ。いやしかしそれは。なんだとしょうがねえな。というような問答の果にあの渡辺篤史も絶賛したというジョン邸はロケットランチャーを打ち込まれて大きめのキャンプファイヤーと化します。てめえ死んだ奥さんの思ひ出がつまったマイホームをよくもぅ!というわけで復讐に燃えるジョンさん。しかしその一方で血判の存在は無視できず、このまま仁義を通さず復讐した場合は全世界の裏社会を敵に回すのが確実。であればここは一つ冷静になって、一度は断った仕事を遂行して血判の縛りをクリアにし、その上でじっくり復讐させて頂きますぞ。という目論見で、煮えくり返るハラワタに蓋しつつイタリアンマフィアのお仕事を受注。ジョンさんは一路ローマに飛ぶのでしたが…というお話。

 

 


断った結果大変なことに。

 

 

前作は愛妻の遺した子犬を殺されて鬼神と化したジョンさんですが、今回はマイホームを廃墟にされて再び激おこ。休まりません。しかし前作がロシアンマフィアで次はイタリアンマフィアか。次は何だ、日本のヤクーザか。と言いたいところですがこのところブイブイゆわしている中国資本がこの映画にも入っている模様なのでチャイニーズマフィアが、ということになるかも知れません。前作から間を置かずに作られた続編ということもあり、アクションシーンは同等以上のテンションを維持しております。死体山の標高に関しては前作よりも格段に高まった感があり、ナイフみたいに尖っては触るものみな死んでいくという無双シーンがひたすら続きます。この流れるような殺人術シーンがよくて、一つ一つのアクションは痛くて鈍くて重く、かつジョンさんの攻撃は正確無比で、しかもそれが比較的長尺のカットで描かれているため、編集でごまかされている感じが全くないのが素晴らしい。これが序盤から終盤まで大盛りで詰まっていて、一体何人が劇中で死んだのか。カウントするのもアホらしいですが前作超えは確実。またジョン役のキアヌ・リーブスもあまり器用な感じではなく、スタイリッシュさとは一味ちがう泥臭さで群がる敵を確実に仕留めていくわけですが、その泥臭さがマンガっぽさとリアリティの間の絶妙な位置にあります。見ていて嘘くさくなく、かつアクションとして滅法カッコイイというギリギリのバランス。またとにかく一発一発が重くて痛そうなんですよ。ローマの町中で石段をゴロンゴロン転がり落ちながらの格闘とか、もう転がってる人たちもゴツンゴツンいろんなとこをぶつけてるんですよね。みてるこっちにタンコブ生えてきそうな。

 

 


アクションシーンなど。ナイ・フーってああた。

 

 

特に今回はジョンさんと互角の使い手が投入されたことと、ジョンさんが狩るものから狩られるものへと逆転することで、前作とは一味違ったアクションの展開が味わえます。なかなか工夫してきておる。敵役もキャラの立った方々が多く、手話で会話する女アサシンとか、屈強のハゲ大男とか、偽装ホームレスとか、珍しいところでは相撲取りとか(なんと元力士の山本山だそうです)、などなど世界殺し屋名鑑のごとき豊富なバラエティで迫ります。こいつらが至るところから湧いてくるのをいかに返り討ちにするかが見せ所。オカシイのが地下鉄の構内での銃撃で、歩く群衆に紛れたまま撃ち合うジョンさんと殺し屋ですが、群衆に気づかれないよう消音した銃をこっそりピッピッと撃ち合うのが授業中に紙つぶてを飛ばし合うヤンキーのようで微笑ましい。と思いきや次のシーンで所かまわず辺りを血まみれにしてますからさっきの気配りは何だったのか。ついでにいうとジョンさんは襲い来る殺し屋を死体の山に変えながら衆人環視の大都会を移動していく訳ですが、最後までパトカーのパの字やポリスのポの字も出てこない辺りに「邪魔なもんは出さん」という作り手のまごころを感じてホッコリします。

 

 

前作で気になってたタメとキメのなさですが、今回はそんなことやってる暇がないんだよ!という展開なのと、その中にも時折ハッとしたりウヒヒとなるようなシーンが入ってたりするので全然気になりませんでしたね。激しい戦いも殺し屋専用ホテルの中に入ってしまえば強制中止。さっきまで殺し合ってた二人がバーで肩を並べて気まずそうに飲んでたりするのがケンカして引き離された猫同士をみているようで妙におかしかったり、あと詳しくは書きませんが殺し屋組合の元締めが自分の恐るべき権力をちらっと見せるシーンがあって、そこはちょっとゾワっとしたり。そういうシーンが要所要所でキチッを展開を締めて来ます。あとタメるといえば今回ゲスト出演のローレンス・フィッシュバーン。タメにタメまくった大仰な演技が暴走気味でちょっと脇汗が出ますがやはり久しぶりのキアヌとの共演が嬉しかったか。とはいえこの『マトリックス』コンビが久々に拝めるのは感無量です。もう18年も前なの。嘘だろ。

 

 

前回特に面白かったのが独特の裏社会システムで、殺し屋通貨とか殺し屋専門ホテルとか、アメコミじゃないくせにアメコミ的なところが大変面白かったのですが、今回もその辺を増量してのお届けなので判ってるじゃねーかと大満足です。とくにローマの殺し屋専門ホテルでは凶器ソムリエが顧客の「重くて、ゴツそうなの」みたいなフワッとしたオーダーに応じてオススメの銃器をセレクトしてくれたり、テイラーに行けば実践用防弾スーツを仕立ててくれたりと至れり尽くせり。また殺し屋組合事務局では各自重すぎる人生を抱えていそうな姐さんがたが電話一本で賞金首口座の開設や殺し屋組合員への回状一斉送付を行ってくれるという殺しの事務処理っぷりを見せてくれて素晴らしい。他にも殺しの貸金庫や殺しのホームレス人材派遣などが登場。この調子では次回作で殺し屋専用SNSや殺し屋専用スマホ、殺しのキャッシュレス決済や殺しの民泊や殺しのメルカリなんかが出てくるのか。殺しのツイッターでジョンさんの呟きが炎上したりするのか。しませんね。

 

 

ここからややネタバレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあって追うものから追われるものに立場が逆転したジョンさん。結末は一応ぼかしますが、最後にエエッ!?と思うような大タブーを犯し、犬以外は一切を失うという前作と正反対の状況に追い込まれて逃走を始めます。ジョンの本当の戦いはこれからだ!完!というわけでこれはもう明らかに三部作にしてやろうという魂胆。スター・ウォーズで言うと今作は「帝国の逆襲」ポジションで、となると次作はジョンさんが逃走と雄伏の果てに殺し屋組合全体を相手に大立ち回り、というような展開になるはずで、今回の快作っぷりのあとではこれはもう今からお腹を空かせて待つ他はなし。以上、よろしくお願い致します。