カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

てんこ盛りサービスなれど『パシフィック・リム:アップライジング』(ネタバレあり)

パシフィック・リム アップライジング

 

監督:スティーブン・S・デナイト。主演:ジョン・ボイエガ。主に本邦の中年男性の血を沸騰させ、公開と同時にカルトになってしまった前作「パシフィック・リム』からはや5年。5年か!ついおととしくらいの感覚ですが5年って。その間、監督のギレルモ・デル・トロが降板したり、制作会社のレジェンダリー・ピクチャーズが中国資本に買収されたり、デル・トロがオスカー獲ったりといろいろありましたが、とうとう公開にこぎつけてまずは慶賀のいたり。私も公開直後に4DXのチケットをゲッツして親子で劇場に駆けつけた次第です。ではつらつら感想。ネタバレしてますのでご注意を。

 

 

 

 

・君らコレを見たかったんだろう。違うかね。といわんばかりの戦闘シーンがイクラの暴れ盛りみたいな勢いで次から次へと。冒頭の野良イェーガー捕物から中盤の悪のイェーガー登場、イェーガー同士北海の大決戦、無人の量産型イェーガー大暴走からの破壊アンド破壊、そして最終的に東京の街をリング代わりにイェーガー軍団がマシーンブラスターの如く怪獣軍団を迎え撃ち、無数の高層ビルを景気良く瓦礫に変えていくのでした。前作の「画面くらくて細かいトコ見えません」という消費者の皆様のご意見を尊重し、イェーガーの活躍シーンは雲一つないドピーカンの空のもと、健康的にあっちでズガンこっちでグシャリとバトルが繰り広げられ、、メカのあんなトコやこんなトコまでバッチリ丸見え。もうお腹いっぱい。満腹。

 

 

 

 

・とはいえあまりにしらじらと晴天過ぎて、なんかこう春の運動会でも眺めてるような行楽感に包まれてしまい、もうちょっとダークな雰囲気があってもいんじゃないか。という気も。ナイトシーンは前作で最高なのをやっちゃったので、やはりここは「帰ってきたウルトラマン」ばりの夕陽のシーンとかどうですか。遅いけど。

 

 

・というようなサービスてんこ盛りではありますが、存在そのものが「こんなの観たことねえ…」レベルだった前作に比べ、今回は新しい驚きに欠けるのが惜しい。イェーガー同士のバトルや、怪獣とイェーガーの複合体というアイディアは盛り込まれているものの驚きはなく、イェーガー自体もちょっと武器増えましたとか、動きが早くなったよといったマイナーチェンジにとどまっております。動きが早くなったのは痛し痒しで、スピード感は出たものの、巨大な鉄塊がきしみながら動いているという重量感が後退しており、迫力という面ではいまひとつ。イェーガーのデザインも全体に洗練されたせいで一体一体の個性に乏しいのが残念。前作のチェルノ・アルファみたいな異形なのが一体くらいいてもよろしかったかと。

 

 

・ドラマ部分にはそもそも全く期待していないので全く気になりませんでしたが、「薄い」「そもそもソコが見どころでないしどうでもいい」と言われていた前作ですらこれのあとで見返すと「なんだよ…めっちゃしっかりしてるじゃん」と思えてしまうのがちょっとどうなのかと。あと搭乗クルーが揃いも揃って10代のヤングメンたちなのはティーンの観客を狙ってのことでしょうか。おかげでエヴァパトレイバーかというアニメっぽい雰囲気がほんのり漂っております。キャラが国際色豊かなのはとてもよろしいですね。

 

 

・そういうドラマの薄さもあってか、前作ほど燃えるシーンがないのがちょっとさびしい。やはり燃え上がるための手順として、登場人物の葛藤とか、苦難とか、あるいは出撃前の準備、覚悟、決意を積み上げてこそ、ここ一番のカッコいいキメのシーンが輝くのであり、前作でいうと怪獣の顔面に拳のクリーンヒット一発とか、ロケットパンチ炸裂とか、タンカー引きずっての出入りシーンとかですが、今作はそのキメのシーンもそれに至るステップも印象が薄く、そこが食い足りなさの最大の理由かと。

 

 

・軍隊と産業の繋がり、その裏で動く思惑、といったあたりは漫画版パトレイバーを、生物化して暴走する白い量産機はエヴァを彷彿とさせます。そういや東京のシーンで突然巨大ガンダム像(あれはユニコーン?)がでてきてギョッとしましたがエンドロールみるとちゃんと許諾がとってある、というような目配せもあり。エンドタイトルは往年の円谷プロみたいなアブストラクト背景+影絵(っぽいシルエット)というデザインで心の親指がグッと立ちます。

 

 

・というような日本推しの内容はあるものの、日本スゲー系の内容では決してないところが当世風ですね。象徴的なのが森マコ(菊地凛子)の退場と、入れ替わるようにして活躍するシャオ産業社長のリーウェン(ジン・ティエン)の登場で、今や産業的にも経済的にもイケイケな中国の勢いと、先細るばかりの日本の衰退がこのキャラクターの交代という図式として映画内に体現されており、見ているこちらとしてはちょっと心が寒い。唯一の日系キャラとなってしまったリョウイチ(新田真剣佑)はあまり活躍の場がなくほとんどモブみたいですし…。

 

 

・その森マコの退場のほか、そもそも出てこないベケットチャーリー・ハナム)やハンニバル・チャウ(ロン・パールマン)、出てきたけれどあろうことか悪役になってしまったニュートンチャーリー・デイ)など、前作のキャラが好きだった方々にはちょっと辛いものが。

 

 

・最後の戦いの舞台が突然の富士山なのがなんかじわじわ来るのですが、大都会東京のすぐそばに富士山がニョッキリ生えているのもまた輪をかけてオカシイ。観ながら「これは東京じゃなくて、2035年までに何らかの理由で沼津かどこかが超開発されたんじゃないかな」「ここが東京だとしたら、あれはみんなの心のなかの富士山がみんなの思いで実体化したものじゃないかな。あの下には二子玉川あたりが」などとどうでもいい考えが去来します。あと暇なひとは東京の町並みをつぶさに観て珍妙だったり違和感あったりする看板をチェックするのもまた一興かと。しかしこの東京、どうにも東京に見えない。東京というよりは上海と言われた方がしっくりくる。なぜなのか。ちゃんとロケハンはしたのか。

 

 

・ひとつハッキリと文句をいいたいのは最後のシーンで、どうやら続編のための布石らしいのですが、ボイエガ君が「次はこっちからおまえらを滅ぼしにいってやる!」的な啖呵を切っちゃうんですね。何だそれは。まさか今度はこっちから敵の惑星に乗り込んでドンパチやろうってのか。いやそれはダメだろ!自分から戦火を広げてどうすんの!日本の特撮はそういうタカ派的行動を、皮肉に描くことはあっても肯定することはなかったはずで、それだけに日本の特撮を源泉として生まれたこの映画がそういう方向に走ってしまうのはちょっと納得できない。続編があるなら、どうかそういった方向には行かないよう願うばかりです。