カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

深読みし放題『イット・フォローズ』(2015)※ややネタバレあり

 

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監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル。主演:マイカ・モンロー。大学生のジェイ(マイカ・モンロー)はイケてる彼氏との仲も順調ですが近頃彼の様子がちょっと変。なにかに怯えているような彼氏を心配しながらも、ある夜のデートの終わりに車の中で初セックスをキメます。事後の幸福な余韻もそこそこに、突如豹変してジェイに薬をかがせ拉致する彼氏。目覚めるとジェイは廃屋で椅子に縛り付けられており、そこで彼氏は「ほんとゴメン」と謝りながら、これから彼女の身に何が起こるかを駆け足で説明します。曰く「これから人の形をした何かが追ってくる。姿形は都度変わる。スピードは遅いが意外に頭を使ってくる。できるだけ早くほかの誰かとヤッて呪いを感染させろ。そうすれば助かる」という突然の説明にナニソレと突っ込む間も無く、遠くからゆらりと現れてひたひた迫ってくる全裸の女が…。

 

 

古くは『13日の金曜日』の昔より、若者が一山いくらで出てくるホラーのお約束として「助平なことに及んだ男女は必ず殺される」というのがありましたが今もあるのかなこれ。それを推し進めて「助平をしたこと自体が狙われるトリガーになってしまう」というアイディアを父に持ち、「呪いが感染し伝播していく」という『リング』以来のジャパニーズ・ホラーのプロトコルを母に持つ、という趣の新世代ホラーです。アメリカンなホラーというと無分別な若者が廃墟探検などのわんぱくを敢行したあげく何かに狙われぎゃいぎゃい騒ぎながら殺される、という脳裏にポップコーンが飛び交うようなけたたましいものを想像しますが、そこはそれ陰湿なジャパニーズ・ホラーからの影響を受けているだけあり、黒沢清もかくやのヒタヒタした不穏さに溢れているのが新鮮です。登場人物も無闇矢鱈にわめき散らさず、抑えた演技なのがまたリアルでよろしい。また全てを見せず語らず、観客の想像力に訴えかけ、解釈を委ねる語り口がまた奥ゆかしい。

 

 

 

 

呪いにかかった者は、正体不明の何かにゆっくりと追いかけられ、捕まれば無残に殺される運命にあります。その「何か」は見知らぬの姿のこともあれば、身内の姿のこともありますが、いずれにせよ何を考えているか分からない表情で一直線にホトホトと迫ってくる様子は恐怖の仕掛けとして新しい。一見なにもない風景の片隅に、こちらに向かって歩いてくる人影を見つけただけで観ているこっちはドキリとしますし、突然目の前に現れたときは全裸だったり失禁してたりとギョッとする見た目でさらにドキリの度が増します。舞台が郊外なのがまたミソで、遠景にポツリと現れる人影が効果的なのはひとけの少ない郊外ならではの風景だからなんですね。しかも追いかけられるのがそこに住む中流階級の、多感な時期の若者で、セックスという快楽を齧ったものにだけ罰のように「何か」が追ってくる、というあたり、「何か」がなんの暗喩かということを受け手に深読みさせる余地があって面白いのです。キリスト教的な倫理観に基づくセックスへの罪悪感とか他罰感の暗喩なのかな~とか(ただしこの解釈は制作者が否定しています。でも最初はそう考えるよね)。あるいはもっとシンプルに死の暗喩なのか、とか。「何か」の正体とか呪いの原因とかは一切解明されないので、そこはもう想像力をフル回転させてあれこれイマジンしていただきたいところ。

 

 

映画内世界に電書リーダーや携帯はあるのにスマホやPCや薄型テレビが出てこないとか、また主人公たちの戦いに大人が不自然なほどコミットしてこないなど、どこか現実世界とはズレた寓話的な世界が、デトロイトの閑静な郊外風景と、寂れきった都市部の廃墟風景が交錯する美しい映像で描かれ、映画全体を不気味な静けさと浮遊感に包みます。ときおり挟み込まれるドストエフスキーの「白痴」の朗読シーンなども、ホラー映画らしからぬアートフィルム感。かと思えばいきなり屋根の上にフリちんジジイが仁王立ちになっているなどの見世物感も忘れておりません。

 

 

「何か」が不気味さの割に意外と怪力で殴ってくる派だったり、逆にこちらの物理攻撃も効くので銃で撃つと止められるというあたりにアメリカ~ンな匂いがありますが、こういう新しい作風で怖い映画を作ってくるアメリカ映画の懐の深さをみましたね。なにより解釈を観客にゆだね、観た後もじっくり深読みができるような仕掛けや構成をとりつつ、ホラーとしてきっちり怖い、という重層的なトコがすごくいい。この監督の近作『アンダー・ザ・シルバーレイク』も面白そう。

 

 

てんこ盛りサービスなれど『パシフィック・リム:アップライジング』(ネタバレあり)

パシフィック・リム アップライジング

 

監督:スティーブン・S・デナイト。主演:ジョン・ボイエガ。主に本邦の中年男性の血を沸騰させ、公開と同時にカルトになってしまった前作「パシフィック・リム』からはや5年。5年か!ついおととしくらいの感覚ですが5年って。その間、監督のギレルモ・デル・トロが降板したり、制作会社のレジェンダリー・ピクチャーズが中国資本に買収されたり、デル・トロがオスカー獲ったりといろいろありましたが、とうとう公開にこぎつけてまずは慶賀のいたり。私も公開直後に4DXのチケットをゲッツして親子で劇場に駆けつけた次第です。ではつらつら感想。ネタバレしてますのでご注意を。

 

 

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水増し部分をあえて味わってみる『ザ・カー』(1977)

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監督:エリオット・シルヴァースタイン。主演:ジェームズ・ブローリン。アメリカはユタ州、砂漠のど真ん中の田舎町サンタ・イネスにある日突然黒くてイカツい乗用車が出現。サイクリングを楽しむチャラいカップルやヒッチハイクで旅するボンクラ大学生を次々とはね飛ばして血祭りにあげます。そこの保安官ことジェームズ・ブローリンは道路封鎖をするなどして車を追いますが神出鬼没の奴は突如警察署の真ん前に出現。あろうことかまろび出た署長を華麗に轢き殺すのでした。怒り心頭の保安官たちは必死の捜査を始めますが、目撃者のネイティヴ・アメリカンの老婆いわく「その車には誰も乗っていなかったのじゃ…」はは。まさか。といぶかしむ間もなく車は保安官の恋人と娘に迫り…。

 


幼少のころから気になっていた映画ですが、ある日Huluの新着映画をチェックしていたら突然現れたのでビビりましたね。一体なぜ今?どういうわけで?さっぱり判りませんがこれは何かの間違いではと思うほどの唐突さだったので思わずピピッと再生してしまったわけです。

 


妙に画質がいい。いやそれはいいのですが、70年代アメリカ映画を強く感じさせる乾いた映像と風景、埃っぽさがいい感じです。映画の本筋としては正体不明の黒い乗用車が、何の説明も動機もなくぽんぽん人をはね殺していくという不条理ホラーで、次第に「運転者不在」「銃が通じない」「ドアに取っ手がない」などの異常スペックが判明していき、なおかつ「現れる時は不吉な風が吹く」「墓地にはなぜか入れない」などの事実から「こいつ実は悪霊なんじゃね?」と正体が推定されていくあたりのサスペンスがなかなかよろしい。

 


この手のホラー映画の特徴として「大して面白くもない人間ドラマでの尺水増し」が挙げられますが本作もその例に漏れず「娘二人をかかえて再婚を迷っている男やもめの保安官」「再婚後、連れ子と上手くやっていけるか自信がない女教師」「DV親父とそれに耐える母子」「それを傍から見守る警察所長(元カレ)」といったものすごくどうでもいい人間ドラマが展開され、手堅くフィルムの尺を稼いでいきます。ご本尊のカーについては出自も動機も全く描かれずブンブン人をはね殺すだけの殺人車としていっそいさぎよい説明の省略に反し、この人間ドラマ部分の果てしなき蛇足っぷりはどうだ。むしろここは敢えて味わっておくべきところではないのか。というわけで「ホラー映画の本筋に関係ない水増しドラマ部分をあえて愛でる」という新しい観方を思いつくなどしたわけですが虚しさもまた格別です。

 


この映画については、意外とこの水増し部分が見られるというか、キャストも実力派が揃えられていてなかなか味わい深い。主人公のジェームズ・ブローリンは髭面も男らしく、頼れるパパっぷりがステキ。関係ないですがこの人一時期ジェームズ・ボンド役の候補だったそうでマジですか。相棒のヘタレ保安官にロニー・コックス。『脱出』で冒頭のバンジョーバトルやってた人ですね。この人の保安官にあるまじきヘタレっぷり(恐怖のあまり隠れて酒を飲むなど)がまた順調にフィルムの尺を稼いでいきます。終盤意外なところで活躍するDV親父にR・G・アームストロング。またこの人が無駄にうまい。最後に協力を要請されたときの嬉しさと腹立ちが混ざった複雑な表情はなかなか並では出ません。その他、ネイティブ・アメリカンの保安官を演じたヘンリー・オブライエンも重厚な存在感です。

 


そんな水増しもなんのその、理由なき殺戮を繰り返すカーですが、逃げた女性を家ごと轢き殺したり(このシーンはなかなかの迫力)、保安官の家のガレージにそっと忍び込んで待ち伏せしたりと手口がエスカレートしていきます。決着を着けるべく、カーを断崖絶壁に追い込んで爆破しようと目論む保安官たち。このあたりも「微妙に起爆装置のケーブルが足りない」「DV親父がうっかり転ぶ」などの小技でサスペンスが積み上がっていきます。保安官の捨て身の活躍があって哀れカー君は崖下に落下、そこをダイナマイトでこっぱミジンコの憂き目に合うのですがこの爆発炎上シーンの迫力はちょっとすごい。この炎の中に一瞬悪魔のような顔が浮かび上がり、凄まじい断末魔の声がかぶさるのですが、CGなど無かった時代ゆえに逆にどう撮っているのか謎、という大迫力のビジュアルでした。このカットの存在だけで映画の格が2ランクぐらいアップしている感があります。

 


このような壮絶な決着ながら、はたして悲劇は本当に終わったのだろうか。むしろ本当の悲劇はここから…というこれまたホラー映画独特の後味を忘れておらず大変好感が持てます。いやーHuluにはええもん見せてもらった。この調子で70年代の微妙なホラー映画(『デアボリカ』とか『ザ・ショック』とか『ドッグ』とか『クラッシュ!』とか『家』とか『オードリー・ローズ』とか『スクワーム』とか)をバンバン配信して頂きたいものです。少なくとも俺得です。以上、よろしくお願い致します。

 

 

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絶妙な泥臭さ『ジョン・ウィック チャプター2』

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監督:チャド・スタエルスキ、主演:キアヌ・リーブス。完全に承前前提の映画なので前作のチェックは必須です。ご注意をば。さて前作でロシアンマフィアをヒイヒイゆわした殺し屋引退希望のジョン・ウィックさんですが、そんな逸材が復活したのをその筋の方々が見逃すはずもなく、今度はイタリアンマフィアからお仕事の発注です。しかしジョンさんはマジ引退したんですから勘弁してください。そんな昔の血判もってこられても困るんすよホント。と迷惑顔で辞退ですがそこは義理を重んじる裏社会。君ねえこの血判がまだ有効なんだからお仕事の発注は受けてもらわんと困るのよ。いやしかしそれは。なんだとしょうがねえな。というような問答の果にあの渡辺篤史も絶賛したというジョン邸はロケットランチャーを打ち込まれて大きめのキャンプファイヤーと化します。てめえ死んだ奥さんの思ひ出がつまったマイホームをよくもぅ!というわけで復讐に燃えるジョンさん。しかしその一方で血判の存在は無視できず、このまま仁義を通さず復讐した場合は全世界の裏社会を敵に回すのが確実。であればここは一つ冷静になって、一度は断った仕事を遂行して血判の縛りをクリアにし、その上でじっくり復讐させて頂きますぞ。という目論見で、煮えくり返るハラワタに蓋しつつイタリアンマフィアのお仕事を受注。ジョンさんは一路ローマに飛ぶのでしたが…というお話。

 

 


断った結果大変なことに。

 

 

前作は愛妻の遺した子犬を殺されて鬼神と化したジョンさんですが、今回はマイホームを廃墟にされて再び激おこ。休まりません。しかし前作がロシアンマフィアで次はイタリアンマフィアか。次は何だ、日本のヤクーザか。と言いたいところですがこのところブイブイゆわしている中国資本がこの映画にも入っている模様なのでチャイニーズマフィアが、ということになるかも知れません。前作から間を置かずに作られた続編ということもあり、アクションシーンは同等以上のテンションを維持しております。死体山の標高に関しては前作よりも格段に高まった感があり、ナイフみたいに尖っては触るものみな死んでいくという無双シーンがひたすら続きます。この流れるような殺人術シーンがよくて、一つ一つのアクションは痛くて鈍くて重く、かつジョンさんの攻撃は正確無比で、しかもそれが比較的長尺のカットで描かれているため、編集でごまかされている感じが全くないのが素晴らしい。これが序盤から終盤まで大盛りで詰まっていて、一体何人が劇中で死んだのか。カウントするのもアホらしいですが前作超えは確実。またジョン役のキアヌ・リーブスもあまり器用な感じではなく、スタイリッシュさとは一味ちがう泥臭さで群がる敵を確実に仕留めていくわけですが、その泥臭さがマンガっぽさとリアリティの間の絶妙な位置にあります。見ていて嘘くさくなく、かつアクションとして滅法カッコイイというギリギリのバランス。またとにかく一発一発が重くて痛そうなんですよ。ローマの町中で石段をゴロンゴロン転がり落ちながらの格闘とか、もう転がってる人たちもゴツンゴツンいろんなとこをぶつけてるんですよね。みてるこっちにタンコブ生えてきそうな。

 

 


アクションシーンなど。ナイ・フーってああた。

 

 

特に今回はジョンさんと互角の使い手が投入されたことと、ジョンさんが狩るものから狩られるものへと逆転することで、前作とは一味違ったアクションの展開が味わえます。なかなか工夫してきておる。敵役もキャラの立った方々が多く、手話で会話する女アサシンとか、屈強のハゲ大男とか、偽装ホームレスとか、珍しいところでは相撲取りとか(なんと元力士の山本山だそうです)、などなど世界殺し屋名鑑のごとき豊富なバラエティで迫ります。こいつらが至るところから湧いてくるのをいかに返り討ちにするかが見せ所。オカシイのが地下鉄の構内での銃撃で、歩く群衆に紛れたまま撃ち合うジョンさんと殺し屋ですが、群衆に気づかれないよう消音した銃をこっそりピッピッと撃ち合うのが授業中に紙つぶてを飛ばし合うヤンキーのようで微笑ましい。と思いきや次のシーンで所かまわず辺りを血まみれにしてますからさっきの気配りは何だったのか。ついでにいうとジョンさんは襲い来る殺し屋を死体の山に変えながら衆人環視の大都会を移動していく訳ですが、最後までパトカーのパの字やポリスのポの字も出てこない辺りに「邪魔なもんは出さん」という作り手のまごころを感じてホッコリします。

 

 

前作で気になってたタメとキメのなさですが、今回はそんなことやってる暇がないんだよ!という展開なのと、その中にも時折ハッとしたりウヒヒとなるようなシーンが入ってたりするので全然気になりませんでしたね。激しい戦いも殺し屋専用ホテルの中に入ってしまえば強制中止。さっきまで殺し合ってた二人がバーで肩を並べて気まずそうに飲んでたりするのがケンカして引き離された猫同士をみているようで妙におかしかったり、あと詳しくは書きませんが殺し屋組合の元締めが自分の恐るべき権力をちらっと見せるシーンがあって、そこはちょっとゾワっとしたり。そういうシーンが要所要所でキチッを展開を締めて来ます。あとタメるといえば今回ゲスト出演のローレンス・フィッシュバーン。タメにタメまくった大仰な演技が暴走気味でちょっと脇汗が出ますがやはり久しぶりのキアヌとの共演が嬉しかったか。とはいえこの『マトリックス』コンビが久々に拝めるのは感無量です。もう18年も前なの。嘘だろ。

 

 

前回特に面白かったのが独特の裏社会システムで、殺し屋通貨とか殺し屋専門ホテルとか、アメコミじゃないくせにアメコミ的なところが大変面白かったのですが、今回もその辺を増量してのお届けなので判ってるじゃねーかと大満足です。とくにローマの殺し屋専門ホテルでは凶器ソムリエが顧客の「重くて、ゴツそうなの」みたいなフワッとしたオーダーに応じてオススメの銃器をセレクトしてくれたり、テイラーに行けば実践用防弾スーツを仕立ててくれたりと至れり尽くせり。また殺し屋組合事務局では各自重すぎる人生を抱えていそうな姐さんがたが電話一本で賞金首口座の開設や殺し屋組合員への回状一斉送付を行ってくれるという殺しの事務処理っぷりを見せてくれて素晴らしい。他にも殺しの貸金庫や殺しのホームレス人材派遣などが登場。この調子では次回作で殺し屋専用SNSや殺し屋専用スマホ、殺しのキャッシュレス決済や殺しの民泊や殺しのメルカリなんかが出てくるのか。殺しのツイッターでジョンさんの呟きが炎上したりするのか。しませんね。

 

 

ここからややネタバレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

いろいろあって追うものから追われるものに立場が逆転したジョンさん。結末は一応ぼかしますが、最後にエエッ!?と思うような大タブーを犯し、犬以外は一切を失うという前作と正反対の状況に追い込まれて逃走を始めます。ジョンの本当の戦いはこれからだ!完!というわけでこれはもう明らかに三部作にしてやろうという魂胆。スター・ウォーズで言うと今作は「帝国の逆襲」ポジションで、となると次作はジョンさんが逃走と雄伏の果てに殺し屋組合全体を相手に大立ち回り、というような展開になるはずで、今回の快作っぷりのあとではこれはもう今からお腹を空かせて待つ他はなし。以上、よろしくお願い致します。

 

 

 

血管が詰まりそうな濃さ『柳生一族の陰謀』(1978)

監督:深作欣二。出演:萬屋錦之介千葉真一。徳川二代将軍秀忠が食あたりでぽっくり急逝。しかしあまりにぽっくりなため次期将軍の指名がまだなのでした。長男の家光(松方弘樹)は生まれついての痣と吃音のために人気も人望もなし。反して次男の忠長(西郷輝彦)は容姿端麗で器も大きく人望バチシ。実は秀忠の死は跡目争いに焦った家光派が先走った結果の毒殺だったのです。家光の剣の指南役であった柳生但馬守宗矩(萬屋錦之介)は彼らの陰謀にぬるっと加担。家光を将軍にし、自らは将軍の剣術指南役に収まって柳生家の安泰を得ようと暗躍を始めるのでした。

 

 

ヨロキンの台詞回しに注目

 


衝撃的な結末と、流行語にもなった「夢でござる〜ッ!」のセリフであまりにも有名なこの映画。そのためオチを知ってから観てしまったのですがそれでも十分過ぎるほど面白かったですねえ。もう出てくる役者が揃いも揃って濃い。主演の萬屋錦之介千葉真一のあまりにも濃すぎる親子役をはじめ、松方弘樹、高橋悦史、室田日出男夏八木勲芦田伸介山田五十鈴原田芳雄大原麗子金子信雄梅津栄成田三樹夫、トドメに三船敏郎丹波哲郎という二日目の鍋のような濃さ。なんですかこのミルフィーユみたいな層の厚さは。マニアックな焼肉屋のメニューの如きこの面々のぶつかり合いをみているだけでもう眼福という、あまりにも高役者力を誇る映画です。

 

 

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この眼光!

 


どの顔を取っても濃すぎる目張りとメイクのせいで目つきがギラギラしておりカロリー高いのですが、そんななか際立っているのはJACの面々を引き連れて右にジャンプ左にズバと立ち回る千葉真一柳生十兵衛と、白塗り・ポチ眉・おじゃる言葉の嫌味な公家のくせに実は剣豪という狂った設定がサイコーな成田三樹夫。とくに白塗りでまろまろ言いながら太刀をぶん回す三樹夫のインパクトは絶大で、従来の「公家=戦闘力ゼロ」という先入観をぶち壊してくるこのキャラの立ち具合。しれっと「隠れても獣は臭いでわかりまするぞ」などとイカす台詞を吐いて強烈な印象を残します。

 

 

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もう最高

 

 

こういうとき不利になりがちなのは初々しい若手ですが、柳生十兵衛の妹役の志穂美悦子はいつもどおりの可愛さにアクションのキレですし、まだ十代の真田広之はりゅうちぇるのような赤いほっぺから溢れ出すフレッシュ感でこれはこれで。マニアックなところではモブの中に若い頃の小林稔侍が混じっているのですが頭半分が傷でハゲている上に時折そのヅラが取れかかっていてガンバレ稔侍です。

 

 

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ういういC

 

 

(以下ちょっとネタバレ)あとはなんと言っても萬屋錦之介(以下ヨロキン)の力み返りっぷりで、周囲との芝居の調子が全くかみ合ってないにもかかわらず重厚な歌舞伎調を貫き通す姿は別の意味でスリリング。しかしそのような暴走芝居もヨロキン自身の重厚なたたずまいと目張りで出力アップした眼力で説得力を失っておりません。ラストシーンの「夢でござる〜ッ!」を見るにつけ、ああ、これまでの芝居がかった台詞回しは全部このシーンへの布石だったのだな、ということが判るとなお味わい深い。ここのヨロキンはもはや伝説の域でしょう。よく見るとあれだけのたっぷりとした演技をしながらも目の焦点をずらせての錯乱顔。それまでの岩のような威厳を自らガラガラと突き崩す壊れっぷりで、生首を抱きしめて絶叫という絵面のインパクトもあり、そのギャップに観客も呆然という凄いシーンでした。

 

 

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メイク濃いめのヨロキン

 


必ずしも役者の演技とは自然であるべきではなく、ときに暴走をしてまでも迫力や存在感で観客をねじ伏せに行くこともあると。我々観客も普段は青汁とか飲みつつたまには脂びっしりのラーメンを食べたくなることもあるわけで、そういう特濃の役者力を堪能したい方にはまさにうってつけの一本。いやーすごいもん観たね。

 

 

 

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