カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

「野火」大岡昇平

なんでまた急に?と言われそうですが自分でも良くわかりません。本屋でたまたま文庫本を目にしたらつい買ってしまいましたよ。まあ高校の国語の教科書に一部が載ってて印象深かったとか、市川崑監督の映画版を観たいなあと思ってたとか、いろいろ動機としてはあるのですが。
中身について。主人公が戦地を放浪しながら自己省察にふける前半はひたすら眠いんですが、中盤に比島人を殺してしまったのをきっかけとして、流れに呑まれる木の葉のように極限状況に陥ってゆく後半は一気に読ませます。「野火」といえば人肉食、人肉食といえば「野火」くらいにしてこの本は戦場のカニバリズムが有名なわけですが、そんな絶望的な状況に晒されながらも冷徹に自己を分析し続けるこの主人公と、その醒めた目線が怖い。怖い怖いと思ってたら結末で怖い理由が解ってしまってまた怖い。これ、映画版が非常に観たいであります。