カジノロワイヤルの手帖

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野良犬

野良犬 [DVD]
監督・黒澤明、主演・三船敏郎志村喬の刑事ドラマ。名作の誉れやたら高し。でもこの年代の映画って台詞聞き取りづらいんだよなあ…と思いながら何となく観始めましたよ。終戦のわずか4年後に作られた現代劇なので、戦後のドヤ街や闇市の描写が作り物ではなくモノホンなのがまず凄い。いや当たり前ですが今の目から観るとその生々しさが伝わってきます。そして暑い!暑苦しい!もちろん冷房なんかあるわけないので、出てくる人々がみな汗だく。手にはハンカチと扇子が欠かせません。かろうじて扇風機があるくらいですが果たしてそれも役に立っているのかどうか。とにかくこの暑さが人心をじりじりと蒸し上げて苛立たしさが高まってゆく、という感じで、舞台装置として実に有効。もう画面から汗臭さと人いきれがにじみ出てくるのではないかと。ボディにくる暑さ描写。世界暑苦しい映画賞でノミネートは確実。


そんな感じで前半は映画の内容よりもそういう背景に圧倒されて観てたわけですが、後半、三船の若手刑事と志村のベテラン刑事コンビが犯人を追いつめ始めたあたりからサスペンスが俄然盛り上がってきます。ソファでゴロゴロしながら観てましたが、三船と志村が二手に分かれて別行動し始めると、三船側と志村側のカットバックについ起き上がって食い入るように画面を凝視。もう台詞の聞き取りにくさなんざ全く気になりません。


三船敏郎がまだ若くて芝居が堅い感じなんですが、逆に新米刑事の青い感じがよく出ててよろしい。志村喬のほうはこれはもう厳然と志村喬で老練な感じがまたよろしい。この「新米刑事とベテラン刑事のコンビ」のパターンは邦洋問わずに山ほどあると思いますが、もしかしたらこの映画がその元祖かもしれんな。しれんか。なんとなくブラビとモーガン・フリーマンの『セブン』を思い出しましたよ。ともかく確かに名作でした。台詞の聴き取りにくさを我慢してみる価値は多いにアリ。つかオススメです。