カジノロワイヤルの手帖

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「告白」町田康

告白 (中公文庫)
昨日は具合が悪くて一日じゅう沼に放り込んだツケモノ石みたいになってました。こういうときにやれるのは読書くらいなものなので、この分厚い文庫を手に床についてたのですが、町田康の文章は非常にテンポよくかつ独特の諧謔に溢れているのでこのようなダメな体調下においてもスラスラ読めるので重宝です。しかし内容はと言うと、現在も河内音頭のスタンダードとして歌い継がれる「河内十人斬り」を題材にしたもので、主人公の熊太郎がいかにしてこのような凶行に及んだかを彼の内面からモザイクを組み立てるように描いてゆくと言う心理小説でした。ただし語り口は三人称で、あくまで神の視点の町田康が熊太郎の複雑な内面をきわめて端正に筋道立てて解剖してゆきます。ただしその主たる内容が「自分は博打でなぜ負けるのか」「自分はなぜ百姓仕事ができぬのか」「なぜ自分は思った事をきちんと相手に伝えられないのか」といった実にニートっぽいシロモノなので結果的にギャグ寸前になっており、しかも町田康独特の面白過ぎる言語感覚がやはり炸裂してるため寸前を通り越してギャグになってしまうのでした。ただしそれは自己と他者との深い深い断絶、熊太郎の誰にも理解されない孤独も描いているので大きな哀しみをも秘めています。ことほど左様に一人の人間の内面を徹底的に解剖し尽くしたその内容は質量ともに文学作品と呼ぶに余りある内容。と同時に町田康の作家としての成熟も感じさせます。やるなぁ。