カジノロワイヤルの手帖

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鉄コン筋クリート

鉄コン筋クリート (通常版) [DVD]
監督:マイケル・アリアス松本大洋の原作は読んでません。絵柄以外の情報はほぼゼロで観ました。以下感想。


感想1)
動く。絵が動く。そらアニメーションなので当然ですが、CGの背景がとても自然にできていてCGにありがちな嘘くささ、無機的な感じがなく、ごった煮的アジアン場末かつ昭和40年代的な意匠と相まって舞台である「宝町」の世界を強固に作り上げています。この背景の中を存分に動き回るキャラクターたち。ことに子供達は当たり前のように町の中を飛び回り、屋根から屋根へ。塔から塔へ。するすると自由闊達に動き回る描写は観ていて胸がすく思いです。このように「絵が動くから面白い」というアニメーションの根源的な面白さを感じさせる映画としては突出したものがあります。


感想2)
で、こういう場末をたくましくサバイバルしている子供達と大人達の話なので、バイオレントな描写が満載。徒手で鈍器で刃物で銃器で、出るわ出るわ。血が。子供のほうは加減を知らないから大人のドタマに容赦なく鉄パイプを叩き込んだりしますし、大人は大人でその筋のプロなので相手が子供だろうが何だろうが容赦なくぶん殴ります。さらに大人同士であればもう遠慮なく銃をビスバス撃ち合う仲のみなさんばかりなのでなおのことヒドい。後半は外道中の外道が出て来てさらに大変なことになり、子供相手にボウガン打ち込んだり腹に刀をブッ刺したりと映画のレーティングをガンガン上げてきますが、対する子供も子供でガソリンかけて大人を火だるまにしたりするのでドッコイドッコイです。


感想3)
そんな子供と大人の殺し合いを、映画は子供と大人両方の視点から描きます。子供の方はムキダシの無垢さを現実にこすられてヒリヒリしながらサバイバル。大人の方は大人の事情でがんじがらめになりながらこっちもサバイバル。生きてゆくにはあまりに辛すぎるけれども、子供はそれを乗りこえて強くなってゆき、大人はその結果として狡猾になったり残酷になったりペシミズムに行き着いたりすると。この映画の場合、大人の方はダンディズムが過ぎてちょっとそれおセンチ過ぎんじゃないかというキライもありますが、子供達(殊に主人公のクロとシロ)は打算無くひたすら「生きる」事ゆえのピュアネスをみなぎらせております。


感想4)
そんなピュアっぷりを増幅させているのがシロの声をアテた蒼井優の演技。ハマっているというのか、それとも上手いのか。いずれにしてもこの人の声の演技がシロのキャラクターに物凄く説得力を与えてます。正直全然ノーマークだった。すまんかった。クロ役の二宮和也ジャニーズを感じさせない上手さ。この人とっととジャニーズやめて役者一本に絞って活動した方がいいんじゃないかと。あと大人達はアニメ初登場組からベテランまで様々な方々が揃ってますが、やはりヘビ役の本木雅弘の怪演がイチオシです。モックン、顔色とファッションセンスが悪すぎる変態外道を楽しそうに演じておられます。そういやこの人もジャニーズやめて良かった組ですね


感想5)
物語は後半になって正直なとこ左脳では感じるが右脳では判らない世界に突入。いや判らんこともないが落としどころはこれでいいのか?という気もします。あのラストはつまるところ子供は子供らしく大自然のなかでワンパクでもいいから逞しく育ってほしいということなのでしょうか?じゃこの映画の真の主役としてこよない愛をもって描かれていたはずの「宝町」という場所は否定されちゃったということ?でもその解釈も腑に落ちないなあ。というワケでもう一回観て確かめたいと思います。というか観たい。オイラ気に入りましたですこの映画。