カジノロワイヤルの手帖

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「犬神博士」夢野久作

犬神博士 (角川文庫)
長らく角川文庫で絶版となっていた本作が突然の改版発行!なんで?なんで?書店でこれを見つけたときは目が点になりました。夢野久作の文庫で入手できる作品は現行本古本ともにだいたい読んでいるつもりですが、「ドグラ・マグラ」に次ぐ代表長編の本作は未だに読んだ事が無かったのです。それが米倉斉加年の装丁(これがまた素晴らしい)もそのままに復刻!これはうれしい。というわけで即購入。あっという間に読了。


話は、キチガイ博士こと犬神博士が新聞記者に対して語る物語の記録という体裁で、「ドグラ・マグラ」にも全く同じくだりがあったなあと久作ファンはここでまず掴まれます。その犬神博士がまだ幼少のころに体験した、天衣無縫、波瀾万丈の痛快冒険譚です。


読者をねじ伏せるような力強い文体と、濃厚な土俗性が豪快に暴れ回る作品で、新聞連載ということもあって一章一章が短く、しかも次回へのヒキを何らかの形で工夫してあるので読み始めると止まらなくなります。主人公の犬神博士(幼名チイ)の神話性や、最も俗なるものが最も聖であるという物語全体を貫くテーマなど、そのへんの読み解きは巻末の解説に任せるとして、なにより娯楽小説としてのジェットコースターっぷりがタマラナイ。結末に関してはジャンプの打ち切りみたいな唐突さですがその豪快なブツ切りっぷりもまたオカシイ。


しかし…読んでみてつくづく思いましたが、過去30年間近く絶版だったというのは読んでみて納得。20年前だったら絶対に出版不可能じゃないの?という語句がコレでもかコレでもかと出てくる。「キチガイ」なんてのはまだ可愛いほうで、あとは実際に読んでみて確かめてください。ちくま文庫の全集の方はそのへんどうなってるんだろう。ちょっと確かめてみたいと思います。