原作:アガサ・クリスティー、監督:シドニー・ルメット、出演:アルバート・フィニー、リチャード・ウィドマーク、アンソニー・パーキンス、ジョン・ギールグッド、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ウェンディ・ヒラー、レイチェル・ロバーツ、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、マーティン・バルサム。…と、書いているだけで膀胱がパンパンになる前代未聞の超オールスター・キャスト。ここに書いてある人たちが獲ったオスカーの数を数えてみるのも一興であろう。と思ったので数えてみました
名前(受賞数/ノミネート数)
アルバート・フィニー(0/5)
リチャード・ウィドマーク(0/1)
アンソニー・パーキンス(0/1)
ジョン・ギールグッド(1/2)
ショーン・コネリー(1/1)
ヴァネッサ・レッドグレーヴ(1/6)
ウェンディ・ヒラー(1/3)
レイチェル・ロバーツ(0/1)
ローレン・バコール(0/1)
イングリッド・バーグマン(3/7)
マーティン・バルサム(1/1)
というわけで、受賞数だけで8。ノミネートまでカウントすると28回。ちなみに監督はというと、
シドニー・ルメット(1/5)
…かつてこれまでオスカー偏差値の高い映画があったでしょうか。ちなみにこの映画自体も、主演男優賞(アルバート・フィニー)、助演女優賞(イングリッド・バーグマン)、脚色、撮影、作曲、衣装の6部門でノミネート。うちイングリッド・バーグマンが見事受賞しております。
もうね、ここまで贅沢な映画はなかなかないですよ。いやオスカーの数はその一面に過ぎません。よくぞここまでのスターを集めたもんだと。しかもこのメンツが一堂に会するシーンがけっこう長かったりするもんですからスケジュール管理はさぞかしパンチの効いた事態であったろうと想像するだに胃が痛みます。また男優も女優もそれぞれ気位の高そうな方々がずらりと並んでおり、監督の気苦労を想像するだけで全身の体毛が枯れゆく思いです。
映画のほうもその贅沢さを十二分に生かすべく、古きよき時代の優雅な雰囲気とのんびりとしたテンポで進んでゆきます。昨今のテンション上げまくりなハイテンションギチギチ演出に比べると相当なおおらかさ。オリエント急行という舞台と、1930年代という時代設定ともあいまって、観ているとなんとなく豊かで豪勢な気分になれるかと。この雰囲気が味ですので「とろいー」とか言わずに心して味わっていただきたい。
時代がかっているのは意図的にそうしていると思われるところもあって、例えば演劇的な要素が多分にあるところ。登場人物の顔色がえらい悪いなと思ったらドーランがこってこてに塗られていたりとか。舞台が列車の中だけに限定されていたりとか。冒頭、乗客が順番に登場するシークエンスはオールスター・キャストの顔見せだなあとか。どうでもいいですがこのシーンは『シベリア超特急』にオマージュを捧げられていて思わず顔面が半笑いになります。
とはいえこの映画のオールスターっぷりはちょっと尋常ではない。常軌を逸している気がします。というのもどの顔も主役級の存在感であって、料理で言うならフルコースの最初にドカンとステーキが出てきてその後は出る皿出る皿全部ステーキ。最後のデザートもステーキ。という倒錯した状態か、寿司をおまかせで握ってもらったらトロトロトロトロトロトロイクラウニトロトロトロカッパトロと出てきて最後は脂っこくて胃もたれ。という状態と思われ、これでは一体バランスってものが…。
しかしこの映画に限ってはそのバランスの悪さがミソ、というかそれを狙っているとさえ思われる理由があります。これ以上はネタをバラすことになってしまうので言えませんが、この過剰なまでのオールスター・キャストは単なる豪華さのためだけではなく、原作であるクリスティの小説を大いに尊重した結果であるとも言えるのです。ミステリ映画にありがちな「探偵役以外で一番有名どころの役者が犯人」というロジックでの犯人当てを完全に封じているという一面もありますが、さらに一歩踏み込んで、『オリエント急行の殺人』の映画化だからこそ、容疑者は全てスターでなくてはならない…というわけで、ミステリ的な観点からもたいへん贅を尽くした豪華な映画であると言えます。クリスティファンは観ずに死ねない必見の一本です。
- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,中村能三
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/10
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