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意外にシュール「ルパン三世 念力珍作戦」

ルパン三世 念力珍作戦 [DVD]
監督:坪島孝。出演:目黒祐樹田中邦衛、江崎英子、伊東四朗やあ「ねんりき」まで入力したら「念力珍作戦」が変換候補に出たぞ。無駄にやるなGoogle日本語入力。いやそれはさておき、いまや国民的キャラクターになってしまったルパン三世の唯一の実写化作品として一部好事家には名高いのがこの映画です。次元が田中邦衛、銭形のとっつあんが伊東四朗という珍過ぎるキャスティングがよく語られますが、実際に映画を観た人は少ないのではないでしょうか。だって普通観ないですよこれは。観ようと思った人は重度のルパンマニアだったり幻の映画オタだったり深刻な田中邦衛フェチだったりするはずで、自らの嗜好に伴って発生する何らかの義務感が無いと進んで観ることはまずないでしょう。そのくらい映画史的にどうでもいい感じの映画といえます。


冒頭、車をかっぱらって道を流すザーキーな伊達男ひとり。横に並んだ車の窓から美人のチャンネーが見えたので合成を駆使した幽体離脱車を運転しながらナンパを敢行します。チャンネーが乗っているのはどう見ても護送車の後ろの方ですがそんなことは全く気にしない伊達男。「今夜君を迎えにいくぜ」「あたしがどこに行くか知ってて言ってるの?」「フッ…そんなことは気にしないさ」観ていると言いようのない感情が心にわだかまってきます。この後説明するのもタルい悶着が若干あったのち、チャンネーの護送車は走り去って伊達男は何故かダンプの荷台の土まんじゅうに頭から突っ込んで足をバタバタさせてタイトルがバーン!「ルパン三世/念力珍作戦」。ここまででこの映画のカラーはだいたい出てると言っても良く、70年代東宝喜劇のファンキーなコテコテ感、一体何に油断したら出るのか解らないユルユル感にあふれています。


この伊達男がルパン、チャンネーが峰不二子なわけですが、この後、ルパン一世、二世の築いたルパン帝国の残党である次元大介が登場。自分の出自をよく判ってないルパンに近づいてルパン帝国再興を狙います。かたやルパン帝国の殲滅を図る組織も登場。そのドタバタに毒にも薬にもならない方面から絡んでくる銭形警部。組織がルパンに送り込んでくる刺客たち。こうしたシチュエーションをよそに当のルパンは「帝国よりは共和国の方がいいんじゃない?」と軽口を叩くのでせっかくルパン帝国という単語に反応していた原作ファンは心をベッキリ折られます。こんな調子ですからストーリーは有って無きが如しで、話の後半にいたってはルパン帝国はどこへやら、というかルパン三世という名前すらどこへやらになってしまい、今観ているのが何の映画だったかすら忘れそうになるたいへん朦朧とした作りになっています。まあ一応、遮光器土偶をめぐる争奪戦というかドタバタというかそういうムニャムニャしたものはあるのですが、正直なところ話の説明をするのもちょうタルいので割愛させていただきます。割愛したところで誰も困りません。


まあそのようなハッパでもキメて観る分にはいい感じの話はさておき、問題にしたいのはこのキャスティングの妥当性です。目黒ルパン、邦衛次元といったこの珍配役はアリなのか否か。まずルパン=目黒祐樹ですが、これは意外にアリかも。ルパンにしてはちと顔が濃い上にふっとい眉毛のメイクですから止め絵だと顔面の部分だけが池上遼一の絵みたいになってしまいますが、しかしそれに反して劇中の軽すぎるノリはどうだ。この軽妙さは意外といけるんじゃないか。女優とのベッドシーンを軽妙にこなしつつ「いがったw」というセリフをナチュラルに言えるというのは実は凄いんじゃないか。そしてDVDのジャケを見ていただけるとわかりますが、この見事なアホ面!このツラはなかなかできるもんじゃありませんぜ。これ劇中もガチでこういう顔しますからね。この男前な顔面成分とバカ殿にタメを張る表情のギャップがすごい。ストーリーがしっかりしていたら、実は見事にルパンルパ〜ンしていたかも知れません。惜しい。


次元=田中邦衛ですが、見た目については再現度高し。まあ次元自体が帽子にヒゲ、スーツに拳銃という記号の多いキャラですから似せやすいのかも知れませんが…。しかし邦衛!おまえは喋っちゃだめだ!「俺ァようルパン」喋った瞬間大脳がこの生物を田中邦衛としか認識しなくなります。もう次元には見えない。恐るべしはすべての役を自分色に染める邦衛パワーです。峰不二子=江崎英子ですが、意外とノリノリで演じていて好感が持てるものの、これを不二子と言い張るにはなんというか、その、巨乳成分が不足しているというか、ボインパワーに乏しいというか、乳力が残念な感じというか、まあそういうことでご理解いただければと思います。そして銭形=伊東四朗問題はこいつだ。この当時の伊東四朗は伊東家の当主のような頼れるお父さん的キャラからは程遠いクレイジーな芸風で、伊東四朗というよりはベンジャミン伊東の名前のほうがイメージしやすいのですが、あの昭和ひとケタ、頑固、カタブツ、仕事一筋を絵に書いたようなキャラの銭形警部からは隔たりのありすぎるヒステリック銭形となっており、正直この配役は罪が深い。しかしこの人のハイテンションなコメディ演技がなかったらこの映画はパ・リーグ消化試合みたいなお通夜感につつまれていたかも知れず、痛し痒しです。


まあ伊東=銭形が体現しているように、この映画は昔のベタな東宝喜劇の泥くっさいところを凝縮したような雰囲気です。観てて思いましたが、このノリは実は現在のバラエティ番組のコントに非常に近いですね。ギャグの即物的なところとか、演技のベタさ、臆面の無さ、ナンセンスさ、有って無きが如しのストーリー。これは当時のプログラム・ピクチャーが現在のテレビを先取っていたのか、それとも今のテレビが昔のプログラム・ピクチャーの流れを組んでいるのか、ちょっと悩みますが、悩んだところでどうなるというものでもありません。


ただ、この映画のギャグにはちょっと面白いところがあって、実験的というか、実写映画という枠組みを逆手にとったようなギャグが散見され、興味深いです。ルパンと女優のカラミのシーンで、両者の体がおなじみの♂♀マークに置き換わったりとか、発射された弾丸がこちらに飛んでくるのを超スローモーションのアニメで見せたりとか(しかも画面の隅っこにストップウォッチまで表示される)、ものすごい早業の殺陣を単なるフィルムの編集で表現してたりとか、画面の目黒ルパンが観客に話しかけてきたりとか、一般的な喜劇映画の枠組みを破壊するようなシュール表現が各所にあってちょっと面白い。それもそのはずで、この映画の企画は何故か赤塚不二夫(しかも中山千夏と共同)。あの「天才バカボン」でギャグマンガの常識を破壊し続けていたころの赤塚不二夫で、なんだか妙に納得してしまうのでした。あ、あとギャグのテンポも意外といいです。ハイ。


なお、サブタイトルの「念力珍作戦」ですが、これにつきましては説明するだけ無駄という説明で説明に替えさせていただきたく思います。以上よろしくお願いいたします。