カジノロワイヤルの手帖

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中学生男子の童貞パワー『SUPER 8/スーパーエイト』

SUPER 8/スーパーエイト ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
監督:J・J・エイブラムス。出演:ジョエル・コートニー、エル・ファニング。1979年、アメリカの田舎町。8ミリで自主制作映画を撮っていた中学生グループが、撮影中に列車の脱線事故に遭遇。その状況を偶然カメラに収めてしまいますが、後日現像から上がってきたフィルムにはロクでもないモノが写りこんでいたのでした。事故の日を境に街では怪奇現象が頻発。いつの間にか軍がやってきて後ろ暗そうなことをコソコソやっておられる。一体列車は何を積んでいたのか?そしてあるモノが街を徘徊しはじめ…というお話。


えー大人になった今になって思い返すと、中学の頃の自分はなんてしょうもないことに全力を尽くしていたのかと呆れ果てることがあります。皆様も胸の奥に一つや二つは思い当たるふしがあるでしょう。いや隠さなくてもいい。あるはずだ!誰に読ませるわけでもない漫画をコツコツ書いてみたり。気に入った洋楽の歌詞を歌詞カードから書き写して訳してみたり。RPGのレベル上げを寝る間も惜しんでやってみたり。貰ったギターでFのコードを練習したり。こういうのが嵩じて、覚えたてのコードで作詞作曲を初めてみたり、ホームビデオで映画撮影の真似をしたり、同人誌をつくり始めたり、プログラミングを勉強し始めたりと、より深い世界へ足を踏み入れる人もいるでしょう。いずれにしても、大人になった今ではちょっと考えられないような情熱と集中力を注いでいたはずです。動機は何だってOK。「女子にモテたい」でも「好きな作家に憧れて」でもよい。そもそも動機とか深く考えずにのめりこんだ事のほうが多いかも知れません。


ひるがえって、大人になった自分がいまあれほどの情熱と根気と集中力をもって同じことが出来るだろうかというと、残念ながらちょっと無理っぽい。仕事が忙しい。時間がない。家事が大変。子供の相手もしなくちゃ。そうしてどんどん自分の時間は激減し、僅かに残った自分のための時間も、日常の雑事で磨り減った心がつい休養を求めてしまって酒とか飲んでしまう。中学生のころに比べれば、知恵もつき経験も重ね、経済的にも自由になった分、もっといろんなコトを楽しめそうなものなのに…。それにたとえ時間が有り余るほどあったとしても、あの頃の夢中になれる感覚はあの頃だけのモノなのではないでしょうか。


人生において、一番無鉄砲なパワーが発揮されるのが10代のころだと思うのです。大人並みの知恵は付いてきたけれど、社会的にはまだまだ未成年でいろいろな責任から自由でいられる年代。かつ、マグマのようにたぎる衝動がはけ口を求めて行動となり噴出する年代。オイラは個人的にこのパワーを「中学生男子の童貞パワー」と呼んでおります。下品ですまん。


この映画にはそういうパワーがみなぎっており、映画撮影に熱中する童貞男子たちを見ながら、必死だった10代のころの自分と、老獪になった今現在の自分とを比べてしまう自分がおりました。こういう情熱を自分はどこで無くしてしまったんだろうなあ…。そう思うと、いまスクリーンの上で不器用なりに情熱を燃やしている主人公達の姿に、つい胸が熱くなってしまうのです。


もう一つ。この映画は主人公の母親の死から幕を開けます。この死について、自分なりに決着を付けることができない人物が主人公も含めて複数出てきます。主人公は母の死をまだ実感として受け入れられず、父は息子を受け止め切れずに距離を置こうとする。同僚の男は母の死について責任を感じており、その娘も罪悪感を持ち続けている…。この四者四様の葛藤が、物語の進行にともなって解きほぐされてゆきます。その過程が胸にしみる。そして最後には彼らなりに決着をつけたことが暗示され、観ているこちらもまた安堵するのでした。


この映画は表向きには怪獣映画ですが、同時に甘酸っぱい青春ドラマでもあり、ほろ苦いホームドラマでもあります。怪獣映画が人間ドラマ部分を豊かにしようとした結果としてこうなったのではなく、むしろ、この映画はもともと青春ドラマでありホームドラマであって、怪獣部分はドラマを転がすためのシチュエーション、道具に過ぎないのではないか。そんなバランスの映画です。怪獣映画らしからぬ『SUPER 8』(8ミリフィルムの規格の名前)というタイトルもそのためではないかと。


なので、怪獣映画を期待して観るとちょっとスカされるかもしれませんが、演出はケレン味たっぷりで、ビックリして飛び上がりそうになる描写が続出なので心の臓がデリケートな方はご注意を。油断してるとドーンと来ますよドーンと。


なお、鑑賞の際はエンドタイトルが出てもしばらく座って待つこと。真のエンディングはエンドタイトルが出てからですわー。ご注意あれ!