カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

「HUNTERXHUNTER」冨樫義博

HUNTER×HUNTER 30 (ジャンプコミックス)
ハンター×ハンター (No.1) (ジャンプ・コミックス)
ネットで盛んに話題になっているのを見て、今年のはじめ辺りから読みたいな〜どうしようかな〜と逡巡しておったのですが、意を決して単行本を買い集め始めたらこれがまあ怒涛のような面白さであれよあれよという間に既刊の30巻が揃ってしまいました。また貴重な本棚のスペースがこれで…というような後悔も全く起こらない充実の漫画体験。特に9〜12巻あたりの幻影旅団編、19巻以降のキメラアント編の盛り上がりが凄く、25巻以降はあまりの面白さにページを捲る手もぷるぷる震えます。週に2冊ずつというペースで読み進んでいましたが、最後のあたりは続きが余りにも気になり過ぎて我慢できずに立て続けに買って読んじゃったよ。もう。


この漫画の凄いトコは、徹底したゲーム性と、考えぬかれたストーリー展開、それに時々度肝を抜いてくる凄惨な描写です。主人公を始め、登場人物たちは常に様々なかたちで問いを投げかけられたり、一定のルール下での戦いを強いられたりしますが、それをどのように切り抜けていくか。与えられたルールからどのような最適解を導くか。というそのゲーム的な面白さが際立っています。さらに出題者が想定すらしていなかったような超回答が飛び出す意外性。これはこの漫画の真髄とも言ってよく、実際に物語は「問い」→「解答」、という繰り返しが手を変え品を変えしながら続く、その細かい連なりによって構成されています。しかもそのルールや問いの一つ一つが完成された競技のように作りこまれているという…。変態です(ホメてる)。


さらにそのストーリー展開は、「こういう性格と能力のキャラクターが」「こういう舞台で」「こういうルールの元に」放たれたという前提を条件とし、それを演繹して作られております。よく漫画家が言う「キャラが勝手に動き始める」というのは無意識的にこれを行なっている状態とも言えますが、この漫画はそれをむしろ意識的に、かつ厳密に行なっているフシがある。こういう性格のキャラがこういう条件をつきつけられた場合、こういう行動を取るだろう。さらに敵はそのことを先読みしてこういう戦略を取るだろう。それを察知してこっちはさらにこういう戦略を取り…というような知略あふれる理詰めの展開を基本にしつつ、さらに読者の予想を裏切るような展開を盛り込んでくるんですから、これで面白く無いわけがない。


端々にしれっと織り込まれてくる凄惨な描写もまた秀逸で、首チョンパなどの人体損壊は朝めし前、大量爆殺やら大量虐殺やらもポンポン飛び出します。このあたりを直球でごまかさずに描いており、巻が進めばごまかさない代わりに墨塗りで自主規制が入ってくるレベル。少年誌だからって容赦しないぜ!このくらい描かないと切実さが伝わらない!と言わんばかりの思い切りの良さでたいへんこわい。自分が感銘を受けたのはあるシーンで出てくる焼死体の描写で、あれをあそこまでリアルに描いてしまう事にこの作者が背負ってしまった「業」のようなものを感じて心の底から戦慄しました。いいんですかここまで描いちゃって。子供が見たらトラウマだよこれ。ウヒヒ。


このようなギチギチ、ギリギリを極める作劇なので、週刊連載が破綻して断続的に休載が続いておりますが、それもやむを得んよね。こんなん一人の人間が週刊で描くなんてそれこそ悪魔に魂を売らないと無理なレベルだよ。この魅力にあふれた物語を充実して完結させるためにも、週刊というペースにとらわれずに、ギチギチ、ギリギリを維持して書き進んでいただきたい。待ちますよわたしゃ!でもなるべく早く続きが読みたい!でも待つ!でも早く!このように読者はワガママです。