カジノロワイヤルの手帖

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チャラそうでチャラくない、少しチャラい『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977)

サタデー・ナイト・フィーバー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

 意外に真似できないこの腰の入れ方

 

 

監督:ジョン・バダム。主演:ジョン・トラボルタ。NYの下町ブルックリンでペンキ屋勤めに精を出すトニーちゃん(ジョン・トラボルタ)。給料は安く親は固く彼女はおらぬ、というまことにボンクラな生活を送っています。ボンクラの証のごとく部屋にはブルース・リーのポスターも。しかし土曜の夜だけは髪とファッションをビシッと決め、ボンクラ友達と地元のディスコに繰り出し、得意のダンスでフロアのスターになっていたのでした。しかしそこで見かけたダンス上手な美女ステファニー。ひと目で参ってしまったトニーちゃんはこれまでの相方アネットちゃんを捨て、来るダンス大会に向けて猛烈なアタックを開始します。しかしステファニーは川向うのシャレオツ世界マンハッタンの住人。住む世界がまるで違うので会話もしぼんだゴム毬のように弾みません。しかしそこは格差を熱意でカバーし、ついに彼女を口説き落としてパートナーに迎えることに成功。ダンス大会の優勝をめざすトニーちゃんでしたが…。

 

 

ポスターのあのポーズはもうひとつのイコンと化していて、映画は観たことなくても「フィーバー」と聞けばあのギラギラのミラーボールにでかい襟のトラボルタ、そして腰の入った指差しポーズがビー・ジーズの「ステイン・アライブ」とともに脳内再生余裕という人は多いでしょう。華やかなりしディスコの時代。盛り場。風俗。軽薄。チャラい。というような連想が湧いてしまうのも無理からぬと言えます。特にこの映画のディスコは下町の有名店ということもあって絶妙に垢抜けてない濃厚な場末感。ダンスフロアの隣のバーではトップレスのチャンネーがやる気なくクネクネしているという有様で、つい画面に現場をレポートする山本晋也を探してしまいます。炸裂するトゥナイト感。

 

 

このように、題材も舞台も盛り場特有のチャラさにあふれているわけですが、意外にも映画自体はチャラくなく、トニーちゃんが人との出会いを通じて自分の至らなさを認め、成長しようとする姿をクソ真面目に描いているのでした。トニーちゃん自身も、本当のところは家族を愛し、職場でも愛され、給料もちゃんと実家に入れ、アネットちゃんとの初Hに及んでは避妊具がないことが判ると寸止めもできる、というにわかには信じ難いレベルのよいこです。このトニーが、自分とは全く違う世界に住む人間と触れ合って、自分の未熟さ、井の中の蛙さをだんだんと思い知らされていきます。

 

 


この大都会でなんとか生き残ってるんだ、という趣旨の主題歌

 

 

ダンス大会では自分の力を出し切り、高嶺の花だったステファニーちゃんと急接近したのも束の間、全然知らないプエルトリコカップルのダンスが自分よりはるかに凄くて打ちのめされ、にもかかわらず大会はホーム判定で自分の優勝。納得できないトニーは賞金を無理やりプエルトリコ人に渡し、怒った勢いでステファニーにも強引に迫ったあげく振られてしまいます。あーあ。

 

 

その後、いつものボンクラ友達と車を乗り回し、後部座席では自分に片思いしているアネットちゃんがヤケを起こした果に友達に処女を捧げてたり、うっかりカノジョを孕ませてしまった奴が「おれまだ結婚したくねえよう」などと泣き言を言っていたり、たどり着いたブルックリン橋で悪ふざけしているうちにそいつが橋から落ちて死んでしまったり、と若者特有のどーしよーもないチャラさが高濃度で炸裂。己と環境のダメさを思い知ったトニーちゃんは失意のまま地下鉄を放浪。自分が狭い世界しか知らなかったことに気づき、マンハッタンに出て独り立ちすることを決意するのでした。

 

 

どってことない話とも言えますが、トニーちゃんがボンクラながら心根の優しい超よいこであるのがこの映画の美点で、ボンクラであったのも視野の狭さや周囲の友人の影響のせいであり、そこから抜け出すべく決意するいう一つのささやかな成長物語であるのが好ましいですね。チャラいイメージとは裏腹に、市井の若者の地味な人生と、格差を決定づけている環境が描かれ、最後は主人公の失意で終わるという意外にもビターな映画でした。このへんアメリカン・ニューシネマの残り香がちょっと漂ってます。ただ、最後にそこから立ち上がり、前向きな希望を見せるのが来たる80年代へ向けての助走のようですね。

 

 

サタデー・ナイト・フィーバー40周年記念盤-オリジナル・ムービー・サウンドトラック-(Blu-ray Disc付)

バカ売れしたサントラ

 

 

個人的に印象深いのが、ジャイ子的なポジションで最後まで辛い目に会い続けるガールフレンドのアネットちゃん。顔は可愛いのですが絶妙な垢抜けなさにダンサーとは思えぬぽっちゃり体型。大好きなトニーとのパートナーは解消され、彼を繋ぎ止めるべく処女を捧げようとしてもゴムの用意がなく寸止め。ヤケをおこして当てつけにトニーのボンクラ友に処女を捧げてしくしく泣いても当のトニーは上の空です。不器用で純情なキャラだけにこの行く末はつらい。世界報われないキャラ大賞下町娘部門でのランクインは確実です。幸あれ!