カジノロワイヤルの手帖

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実はカルトなのか?『血のバレンタイン』(1981)

血のバレンタイン [DVD]

 

監督:ジョージ・ミハルカ。主演:ポール・ケルマン、ロリー・ハリアー、ニール・アフレック。アメリカ東部のとある鉱山町。そこで20年前のバレンタインデーに起こった悲劇。早く帰ってバレンタインのパーティに行きたい鉱夫が安全確認を怠ったため爆発事故が発生、5人が坑内に生き埋めになってしまいます。6週間後、捜索隊は奇跡的に一人の生存者を発見しますが、彼は仲間の死体を食べて生きながらえたという地底版「生きてこそ」状態。救出された彼は事故の原因を作ったうっかり鉱夫をピッケルで惨殺して心臓をハート型の化粧箱に詰め「二度とバレンタインにパーティーするんじゃねえ!」と呪いのメッセージを残して精神病院にぶちこまれます。そして20年後。その事件もすっかり風化した今、ほとぼりも冷めたよネと町はバレンタインのパーティを企画。昔の悲劇を知る年寄は「最近の若いもんは…」と苦い顔ですが当の若者はステディといちゃいちゃしながら街中の飾り付けに余念がありません。そんななか、町長のところにハートの化粧箱でデコられたホカホカ心臓が送りつけられます。やつが…やつが帰ってきよった!20年前の呪いじゃ!パーティは中止じゃ!となるはずが血気盛んなヤングメンは若さゆえのバカを存分に発揚。独自にパーティをひらいて自ら標的に。かくてパーティに参加した若人は次々と血祭りに挙げられてゆき…。

 

 

13金に始まる80年代初頭のナイフスラッシャー・ムービー群の一つに数えられる映画ですね。『プロムナイト』とか『テラー・トレイン』とか『誕生日はもう来ない』とか『デビルスピーク』とか、当時はこのような荒みきった映画が毎月のように公開されており、いたいけな小学生だったわたしも親が購読していた「スクリーン」誌を貪るように読んでいたためこの手の映画の知識がピチピチした頭脳に吸い込まれていったのです。とはいえ映画の内容が内容ですし、四国の片田舎ではそもそも上映もままならぬため、知識だけは脳に残ったままの耳年増状態でこの歳になったところ、Huluが何を血迷ったのかオーパーツのようにこの映画をラインナップにぶっこんできたのでこれはもう観るしかないだろう!と妻や子供の目を盗んで鑑賞に至ったわけです。

 

 

予告編らしいが、すごくどうでもいいカットがサムネに

 

 

映画のキービジュアルは、ガスマスクをかぶった鉱夫姿の殺人鬼がピッケルを持って佇む姿で、13金のホッケーマスクやいけにえのレザーフェイスのようなアイコンを狙っており、これはこれでなかなか。冒頭、このガスマスクの鉱夫二人がコーホーコーホーとダースベイダーのような息遣いで廃坑の奥に潜っていき、何事ぞ、と思っていたら鉱夫の片方がマスクを外して出てきたのは微妙にトウの立った金髪美女。もろ肌ぬいでもう一方の鉱夫をうっとりと撫で回します。マスクから伸びた管をアハンウフンと怪しげな手付きでナデナデするあたり、おや冒頭からサービスシーンか。いいぞもっとやれ。と思っていると金髪美女は壁に押し付けられピッケルの先で串刺しになってしまいました。この手の映画の常として「スケベな行いに及ぶカップルは必ず死ぬ」という鉄の掟がありますが、及んだ本人が率先してそれを実行というのはなかなか珍しい。

 

 

また別の常としては、どうでもいい人間関係で尺の水増し、という様式美もありますがそれもきっちり守られ、主人公の鉱夫とそのライバル、間に挟まった娘との三角関係、という一周回って安らぎを覚えるレベルの水増しが図られており、ふるさとに帰ってきたときのような安堵感が味わえます。そのような常を踏まえつつ人が殺されていくいっぽう、町民の動揺を抑えるため事件を隠蔽して逆に被害を大きくするという警察の様式美を押さえたボンクラさも見逃せません。

 

 

その警察の隠蔽により事件の進行に全く気づかない若者たちは、パーティの中止に憤ってみなぎる若さを持て余した結果、そうじゃ鉱山事務所の娯楽室が空いとるがね、そこでパーティじゃ!おお騒ぎじゃ!と自主的につどい、飲めや歌えやつがえやの大騒ぎに。犯人氏がそれを見逃すわけもなく、こっそり抜け出してよろしくヤリ始めたカップルなどを真っ先に血祭りに上げるのでした。

 

 

さらに盛り上がったヤングメンは「ねえ~ちょっと~あたしぃ坑道って入ってみたコトないんだけど~」という娘っ子の飛んで火に入る発言を皮切りにぞろぞろと真夜中の坑道に入り込むというヒヤリハット事例を体現。この好機を犯人が見過ごすはずもなく、順調に減る若者の頭数。以後真っ暗な坑道のシーンがメインなので何が起こっているかよくわからず、暗い画面に反射する私の真顔とよくわからない画面内の出来事がオーバーラップし続けるという斬新な試練を体験しました。

 

 

そうこうしているうちに犯人の正体が発覚し、後味の悪さを残して映画はすっぱり幕切れを迎えますが、このあたりも様式美を守っており三周ぐらいした結果の安らぎを覚えます。そしてエンドクレジットにかぶさるバレンタインの呪いを歌いあげた主題歌。これがまた物悲しいカントリー風味のソフト・ロックでその泣きの曲調と結末とのギャップがすごい。ついでに言うと音楽もちょっと暴走気味で、サスペンス場面の音楽はまだしも、主人公と元カノの愁嘆場になると突然メロメロの大甘音楽が流れ、そこだけ急にフランス映画みたいになる居心地の悪さはまた格別です。

 

 

脚本、演出、演技による三位一体のゆるさは大目に見るとして、13金にあたりにくらべると殺人シーンまでゆるいのはジャンル映画としてどうなの、と思いますが、どうもこれゴアすぎ部分がかなりカットされたマイルド版らしく、当時本国で公開されたのもこのバージョンらしい。ひるがえって日本での公開時は逆にノーカットだったようで、当時の日本の興行界は今思うとかなりどうかしていたのではないでしょうか。なお現在完全版はブルーレイの特典映像でしか見られないらしく、そっちを観るとゆるゆるだった印象もいくぶん変わってくるようです。また原題の”My Bloody Valentine”をそのまま名前にした海外の著名バンドもあったりするので、もしかしたらカルトな一作なのかもしれませんが、だったところでどうなるというものでもない。以上、よろしくお願い致します。

 

 

血のバレンタイン (字幕版)

血のバレンタイン (字幕版)

  • 発売日: 2016/07/01
  • メディア: Prime Video