カジノロワイヤルの手帖

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とにかく生き延びろ『吶喊』(1975)

監督:岡本喜八、主演:伊藤敏孝。戊辰戦争で新政府軍に攻められ、東北に戦線を移そうと北上している旧幕府軍。なんか面白そう!というアホなパワーだけで旧幕府軍に加わる精力持て余し男の千太(伊藤敏孝)と、新政府軍と旧幕府軍の間をコウモリのように行き来しながら金儲けを企むノンポリ男万次郎(岡田裕介)の珍道中。

 

 

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戊辰戦争の映画でありながら、いわゆる明治維新の英雄的な話は全く出てきません。むしろ歴史に名を残すこともなかった戦場の若者の物語ですが、ふたりとも決して政治にはコミットせず、かたや有り余るエネルギーを発散するために、かたや時流に乗じて大儲けをするために、という個人的な動機で戦場に身を投じていくという醒めた感覚が制作当時の雰囲気ですね。

 

 

とはいえ戦場なので人は容赦なく死ぬし、偉い人の思惑で捨て駒にもされます。残虐行為を目の当たりにしたり、味方の理不尽な命令で死にかけたりと散々な目にも遭います。やたら元気だった千太の顔は戦争の現場を目の当たりにして悲壮になっていきますし、危険をうまくすり抜けてきた万次郎の金儲けも最後は失敗におわるのでした。

 

 

岡本喜八の怒りは特に新政府軍に集中しています。薩長の反乱は結局のところ幕府への恨みつらみの産物で、天皇はその正当化のための神輿に過ぎないこと、そして戊辰戦争では錦の御旗のもとに残虐行為を行う非道な存在であったとストレートに描いています。

 

 

やっぱり、先の大戦で青春を無茶苦茶にされたバリバリの戦中派である監督としては、当時の政府の生みの親である明治政府にも怒りを向けてるんだろうなあ、となんとなく想像。

 

 

千太も万次郎も戦火に翻弄されつつも、むざむざとは殺されず、かたやみなぎる生命力、かたや時代の先を読む嗅覚をつかって、たくましくサバイブしようとしています。監督はこの二人に、未来を築いていくのはお前らみたいなしぶとい若者なんだよ。とにかく生き延びろ、死ぬな、そしてあとの世代につなげてくれ、というメッセージを託しています。それに応えるように、千太は砲撃が飛び交う戦場のど真ん中でせっせと子作りにはげみ(比喩でなく)、結果たくさんの子孫を残すのでした。元気すぎだろ。

 


生命力、というか精力の有り余る千太を伊藤敏孝が好演。馬鹿だけどどこか憎めない、どこにでもいる若者の無鉄砲なパワーが溢れていて、脇を固める高橋悦史、仲代達矢といった手練たちに引けを取っていません。同じ戦争への怒りを込めた『肉弾』と対になるような、庶民の視点から戦争をみた映画でした。巨匠の作にしても半ば忘れられている感がありますが、記憶に残しておきたい作品です。