カジノロワイヤルの手帖

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久々にドン引き『ブゴニア』(2025)

※いちおうネタバレは避けてます。

 

 

監督:ヨルゴス・ランティモス。主演:エマ・ストーン。養蜂家のテディとドンはいとこ同士。ミツバチの減少に心を痛めていた彼らはネットde真実に目覚めてバキバキの陰謀論者に成り果てます。地球を救うために立ち上がらないと!と彼らは製薬会社社長のミシェル(エマ・ストーン)を誘拐。「お前エイリアンだろ!白状しろ!」と拷問するのでした。

 

 

Bugonia : A Screenplay (English Edition)

まあ不穏

 

 

…という設定からしてどうかしていますが、その後の展開はもっとどうかしているので大丈夫です!(何が)。底辺陰謀論者vs大企業のいけ好かないCEO、という天敵同士の好カードは噛み合わない会話、それを導火線とした暴力の発露、それがエスカレートした果ての拷問、と大変スリリングというかサスペンスフルというか、ハッキリいうと居心地が悪いのですが、ブラックコメディとして笑えるトコと洒落にならず笑いが凍りつくトコのギリギリを攻める作りで、観ているこちらは肝が冷えっぱなしです。

 

 

彼らはなぜ陰謀論にすがるようになったのか、その過程が次第に透ける作りになっていて、社会での居場所のなさ、愛する母親(彼女も陰謀論者でした)の病、貧困と搾取、幼児期の体験、といったものに追い詰められた結果が今の彼ら、という辺りはいたたまれなさにもう全く笑えず、見ているこちらも社会の分断や搾取構造といった問題に真面目に向き合わざるを得ません。また彼らに対峙するCEOの態度がまた絶妙に腹立たしく、冷静に接していると見せかけてコントロールしようとするその魂胆がまた陰謀論者二人の心理を逆撫でします。噛み合わない。噛み合わなさ過ぎる。永遠に解りあえない2つの人格に見ているこちらも落ち着かない。

 

 

まだまだ全然おとなしい予告

 

 

というように、今の社会の病理を対象的な2つの立場の衝突を通して浮き彫りにする…のかと思ってたら、映画はそれにとどまらず人類全体をあざ笑うドン引きの結末に至ります。ここはちょっと伏せざるを得ませんが、久しぶりに映画館の暗がりで呆然とするという体験をしましたね。

 

 

CEOのようなエスタブリッシュメントのエゴと傲慢さを醜悪に描きつつ、陰謀論者には理解の目を向け…という映画に見せかけて、実はそのどちらをも揶揄している、という構造で、あっこれはアレだ。真っ正面から受け取っちゃいかんやつだ。陰謀論を心の拠り所にする人も、陰謀論を馬鹿にする人も、そしてそんな人々を搾取する奴らも、この映画は等しくおちょくりの対象にしているので、ややもすれば怒り出す人もいるかも知れない。だからこっちもウヒヒと黒い笑いで返してやるのが正しい向き合い方だと思いました。そういう意地の悪い計算が行き届いていて、ハッキリと傑作なんですが、素直にオススメできねぇという非常に扱いに困る映画です。

 


そもそもが2000年代の韓国映画のリメイクということですが、悪意ある嘘がデカい顔でまかり通る今の時代にリメイクする意味は十分すぎるほどあったと思います。いやーエライもんみたなぁ。