監督:ジョージ・A・ロメロ。ここはアメリカの片田舎。突如父ちゃんが錯乱して母ちゃんを殺し家に火を放ちます。現場に向かう消防士たちは街に集まってくる軍隊を目撃。防護服とガスマスク姿の異様な兵士は街への道路を封鎖し、住人たちを強制的に町の高校に隔離し始めます。どうも近所に墜落した軍の輸送機から生物兵器が漏れちゃったらしい。そんな。それに感染した方々はもれなく正気を失って暴れたりエヘエヘしたりするので大変です。混乱する村の衆、逃げようとする人々、感染拡大を抑え込もうとする軍、なんとか抗体を開発しようとする科学者たち、何かというとすぐ「核!」とか言い出す政府要人、それぞれの様子がカットバックされてゆくパニック映画です。
アイコニックないでたち
パンデミック、政府によるロックダウン、それによるパニック…というとつい近年までは映画の中の絵空事でしたが、コロナ禍を経験した我々からすればこれはもう結構なリアリティのあるネタですね。まさか現実が映画を追い越すとはね。その現実に意外にも肉薄していたのがこの映画です。現実に追い越された映画は陳腐なものに成り下がりがちですが、追い越されたことで実はリアルだった事がわかる、という珍しい例かも知れません。
混乱する指揮系統、不足するリソース、疲弊する現場、錯綜する情報、人々の自由意志によって広がっていく病魔、終わりが見えない感染拡大。…いや時代的にはコロナ禍の何十年も前に作られた映画ですし、規模だって村単位にスケールダウンされていますが、数年前に我々が経験したような先の見えない混乱が展開されていきます。村から逃げ出そうとしながらも、同行者が感染してるんじゃないか、と疑心暗鬼になりギスギスしてしまう心理は今の我々なら身に染みてわかってしまう。
これがメジャーな資本の映画なら、劇映画としてのセオリーが作用していろんなところがドラマチックになってしまい、かえって絵空事になっていたでしょうけど、インディペンデント映画なのでそういったセオリーから自由な分だけリアリティが増してしまいました。このあたりの妙な現実感は後年の『ゾンビ』にも通ずるものがあります。
結果的にとはいえ、実際にこういうことが起こったら現実問題としてこういう感じになるのでは、という所に図らずも着地してしまった映画と言えます。ロメロ御大はコロナ禍を見ずにこの世を去りましたが、もし元気だったら何を思ってたでしょうかね。イタコに降ろして聞いてみたい。
防護服にガスマスクの兵士、というとあの『カサンドラ・クロス』みたいに横暴な政府や冷酷な権力の象徴みたいな形で扱われがちですが、この映画では全然そうではなく、マスクを取れば普通の兄ちゃんだったり任務も適当でヘラヘラしてたりするのが平気で描かれていて、そのあたりも現実との地続きを強く感じさせます。冷酷なマシンでもなく、かといって優秀なヒーローでもない、そういう普通の人間集団としての軍組織が、この手のジャンル映画としては紋切り型ではなくて面白いですね。
防護服映画その2
インディペンデント系だけあって役者の皆さんはおなじみでない方ばかりですが、主人公たちに帯同する娘さんが『処刑軍団ザップ』や『シーバース』で一部マニアにおなじみのリン・ローリー。二本とも色々あって正気を失う系の役どころでしたがこの映画でもバッチリ発狂していて、監督に発狂させたいと思わせるなにかがこのかたにはあるのでしょうか。ある気がするなあ。
この手首お見つめおねえさんがリン・ローリー様

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