カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

夜九時以降はオトナの時間『悪魔のような美女』

江戸川乱歩「黒蜥蜴」より 悪魔のような美女 [DVD]
監督:井上梅次。主演:天知茂荒井注小川真由美。謎の女傑「黒蜥蜴」(小川真由美)は多分伊豆あたりの海岸にアジトを構え、そこで美男美女を剥製にしては飾ってウッフンとご満悦でした。今日も拉致ってきた美青年(なんと無名時代の宅麻伸)を黒いブーメランパンツいっちょに剥いてじっくりご鑑賞ののち、この美しさを永遠のものに…とのお考えから手下に銘じて美青年を剥製にします。剥製にした後もキチンとパンツは履かせているあたり、放送コードを熟知しているかのようなご配慮が行き届いていてブラボーですが、さても美青年が一人ぼっちでは可哀想。ちゃんと連れ合いを見つけてあげなくては!と世話好きな親戚のオバちゃんよろしく新たに美女の誘拐を企てるのでした。このハタ迷惑な犯罪計画を阻止せんと立ち上がるのが我らが名探偵の明智小五郎。かくて明智と黒蜥蜴の火花を散らす対決が幕を開けるのであった。というお話。


これはかつて土曜ワイド劇場で放映されていた「江戸川乱歩の美女シリーズ」の一篇ですね。明智小五郎天知茂、黒蜥蜴に小川真由美というカロリーの高い役者同士がオトナのイキフンを撒き散らしながら対決するのが見物で、特に熟女フェロモンを常時発散している小川真由美が素晴らしく、彼女が登場するだけで画面に紗がかかってエマニエル夫人みたいになってしまい、ムッチムチの胸元をさらしつつ脂の乗ったオトナの色気をスパークさせておられます。熟女ファン必見。


かたや天知茂濃厚な70年代の男感を漂わせ、背広・七三・タバコという昭和の男アイテムもバッチリ装備。常に丹頂チックの匂いを漂わせるダンディズムでコレに対抗。妙に夜の雰囲気が似合うベテランホストのような明智です。この二人が恋愛にも似たライバル意識をぶつけ合い、互いの腹を探り合いながら対決するという、いやあ昔のテレビの夜九時以降はホンマにオトナの時間だったんだなあと痛感せざるを得ないアダルト感が全編に炸裂しています。アダルトなので開巻、中盤、終盤と節目節目でパイオツ丸出しのシーンもあり、高まる子供は見ちゃダメ感。


そのような大人の雰囲気が充満する一方、伊東感丸出しのホテルロケや、全裸で棒立ちのため微かに身体がプルプルしている剥製役のみなさま、傍若無人なボケ演技で警視庁の無能感を100倍増しにする浪越警部役の荒井注、さらに変装を解くと同時に衣装も前後にバリッと割れて中からシワひとつないスーツ姿で現れる明智という濃厚なやり過ぎ感など、全編にテレビならではのチープな見世物魂が横溢しており、セットやプロップのシビレる安さも相まって、この当時でしか味わえないテイストが詰まっております。スパークする70年代テレビのいかがわしさ。他のエピソードも観たいぞ!

ここしばらくの事など

しばらく野ざらし状態だったこのブログ。ぼちぼち再開しようと思い、手始めに書き溜めていた映画の感想をぽつぽつとアップしたりしましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。私はといえば、年が開けてからは青色での申告を目標に慣れない帳簿付けや税務に取り組み、会計ソフトも導入して、各種資料とにらめっこをしながら確定申告の手続きを調べ、それから派生する感じでとっちらかっていた個人スタジオの財務状況も整理し、税理士さんにもアドバイスを頂いていろいろ体勢を整え…と個人事業主としてのレベル上げをコツコツを行っていましたよ。おかげで丸腰の状態からどうのつるぎくらいは装備できたような状態ですが、安心感としては微妙。まあしかし無事申告は終了したのであとは税務署からお叱りビームが飛んでこないことを祈るばかりです。


ボンズはといえば、最近はすっかりブーブー(車)が好きになってしまい、ピクサーの『カーズ』を何十回も繰り返して観たり、日がな一日ちっちゃいブーブー(ミニカー)で遊んだり、就寝の際は車の絵本の朗読を最低3回は求めてきたりというありさまで、とうとうコードネームをボンズからクルマスキーに変更する事態に。2歳を過ぎて言葉もどんどん覚えはじめ、たどたどしい言葉で会話も少しずつできるようになってきて、赤ん坊の頃からはまた違った可愛げがスパークし父母共にメロメロです。その反面強烈なイヤイヤ状態に陥ることもあって2歳児の容赦無いグズりっぷりに父母共にヘロヘロ、ということも多いですが。


映画の方ですが、劇場にはほとんど足を運べない状態なので、主にCSの映画チャンネルを録画してます。が、こちらも溜まっていく一方でなかなか消化できません。しかしスキマを縫って観たものがあれば、できるだけ感想をアップしたいと思います。最近のお気に入りは昔土ワイでやってた「江戸川乱歩の美女シリーズ」。めちゃくちゃいかがわしくてステキです。


あとダイエット!昨年末からレコーディングダイエットを取り入れた減量に励んでますが、2ヶ月で6キロほどの減量に成功しました。わはははは!ホントはまだまだ減らしたいところですが、これだけでも腹回りや顔が幾分スッキリし、肌の余分な脂ッ気も抜けて実にいい感じ。埋没していた腹筋ちゃんが厚い脂肪のあいだから少しずつ顔を出してきて、というたまさかの春気分も堪能しています。出来ればあと10キロ、それが無理でも5〜6キロはさらに減らしたいところです。まあ、ここからがキツイけどな!

完璧すぎるけど『カーズ』

カーズ [Blu-ray]
監督:ジョン・ラセター。レーシングカーのライトニング・マックィーンはデビュー直後ながら初優勝に手が届きそうな期待のルーキーですが、若い才気走った天才にありがちな俺様病に罹患しているため生意気の極みであり、傲慢な物言いが祟ってフレンドはゼロのロンリーガイでした。しかしひょんなことからラジエーター・スプリングスという寂れきった街に迷い込んでしまった彼は、そこの住民との衝突と和解を経て人間的に(車だけど)成長し、見失っていた大切なものを取り戻すのでした。完。


まあ書いちゃえば以上で終わってしまう話ではありますが、にもかかわらず細かいところまで行き届いた脚本・演出・美術・音楽が実に豊かな映画の時間を紡ぎ出しております。主人公の成長を、彼の経験を通して丁寧に描く脚本。主人公の心情をライティングや画面構成で細やかに醸成してゆく演出。それらを緻密に描き出し、また車を擬人化した世界を説得力をもって描き出す美術。…と、たっぷり金と時間のかかった良い仕事が展開され、一分のスキもなくデザインされた美しい新車をなで回しているような贅沢な満足感に浸れます。ブルーレイの精密な画質で見ると、画面の情報量の多さに圧倒され、美しいクロムのボディの質感やそれに反射する背景の表現にはフェティッシュさすら感じます。


実に手間暇のかかった映画ですが、万人に愛されるようにあらゆる方向から計算し、一分のスキもなく組み立てられた結果として、全方位的に落ち着きの良い、つまり非常に類型的な物語になってしまった感があります。脇を固める登場人物も、主人公の成長に欠かせないと思われる役割のキャラ(主人公と反目し合う老人、親友となるコメディリリーフ、戸惑いながらも惹かれてゆくヒロインなど)が一通り揃っており、まるで鋳型で作られたようなパターン通りの配置のされ方で、愛される映画を作るための方程式から導きだされた最適解をそのまま答案に乗せました的な、現在のハリウッドの手クセが良くも悪くも出てしまった感は否めません。


そういう巨大産業としての映画が持つ病理をやや感じるものの、完成度を高めるためのディティールへのこだわりがこの映画を一見の価値あるものに高めています。ソフトに同梱されているメイキング映像やオーディオコメンタリーを見ると、そのあたりのこだわりの深さ、細かさに慄然とすることうけあいで、この映画の見方がさらに変わってくることでしょう。これらも併せて観ることを強くおすすめします。


うちのボンズあらためクルマスキーがこの映画を繰り返し観るため、付き合わされる父ちゃんはもう通しで30回は観てます。これだけ見てもまだスキをみては「かーじゅ、みるー」と事あるごとに要求してくるので一体あと何回観ることになるやらです。しかし、これだけ繰り返し観てもまだウンザリを感じさせない点は凄い。製品めいているとはいえ、それが完璧を目指して作られたモノであれば確固たる魅力を放つという実例でしょう。これはこれで、やっぱり凄い。

パネェ『トム・ヤム・クン!』

トム・ヤム・クン! プレミアム・エディション [DVD]
監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ。主演:トニー・ジャー。タイの山奥の純朴ヤングであるトニー・ジャーは、今日も愛する象たちとともに日々の暮らしを営んでおられましたが、水かけ祭の日に街へ出てきたところ、悪者が大事な象の親子をさらってゲッタウェイオオオオラの象を返せ!その一念でトニーくんは追跡を開始。得意のムエタイ技を立ちはだかる悪者にぶちかますも、肝心の象がいつのまにか密輸されていたことが判明。それを追って彼は単身オーストラリアに乗り込みますが、そこには暗黒すぎる社会が待ち構えており…。というお話。


マッハ!!!!!』でタイ映画の凄さを日本に知らしめたプラッチャヤー・ピンゲーオトニー・ジャーのコンビですが、今回はそれに輪をかけて凄い。『マッハ!!!!!』の際に見られた、アクション好きが集まって好きな映画を再現しているような自主制作感は薄れ、アクション映画としてさらに完成度の高いものを作ろうとしている気迫が感じられます。トニー・ジャーの高い身体能力は前作で証明済みなので、今度はそれをどう見せればもっと凄いものになるのか?という点を追求した結果、我々の想像の斜め上をノーワイヤーで爆走するアクションになってしまいました。特に凄まじいのは中盤。螺旋状の通路を登りながら立ちふさがる敵を次々倒してゆくシーン。これをなんと数分に渡るノーカットの長回しで撮っております。いやこのアクション構築能力はただ事ではない。身体能力に加えて、一つ一つの殺陣をシャープに見せる技術、それらを一つの流れとして繋げてゆく構成力、それを一連のアクションとして破綻もNGもなく繰り広げてゆく綱渡りのような集中力。それらが見事に結実した名シーン中の名シーンです。これはもう世界アクション映画史に燦然と輝いてしまって差し支えないレベル。このシーンのためだけでも観る価値アリです。


その他のシーンも凄まじく、50人近い敵を次々と関節技で倒したり(手とかどう考えても折れてるようにしか見えない)、高層ビルの屋上からヘリコプターに向かって飛び膝蹴りをかましたりと、命がいくつあっても足りない感じのシーンが連発で、絶え間ない「うそだろ…」感が味わえます。まあストーリーに関してはアクションの邪魔にならない感じというか、余り多くを求めてはいけない感じということで大目に見ていただきたいですが、それでもタイという国を搾取する先進国への怒りが各所に垣間見えたり、平和を愛するけどそれを侵すものとは戦う、というタイ人の心意気が描かれていたりと色々熱いです。


象がこの映画の鍵なんですが、冒頭の象誘拐のシーンなど、普通に雑踏でパオーンがメキメキ暴れてるカットがあったりして、これホントに怪我人出てるよね?としか思えない迫力でさすがですタイ。あと象がけっこう上手に演技してて凄い。タイの方と象との信頼関係がこういうところにも現れていて、ああタイの人たちは本当に象を愛しておられるのだなあということが実感として分かり、それが象を奪われたトニー君の怒りに深い説得力をもたらしています。トニー君、今回は笑顔のほとんどない怒れる若者の役ですが、ちゃんと眼に怒りの感情がこもっていてエラいです。一緒に観ていた妻曰く「トニー君がだんだんイケメンに見えてきた」いやまあ確かに純朴な兄ちゃん顔かも知れませんが、それをカバーして余りある怒りの表情。その意味で彼は『マッハ!!!!!』の時からイケメンですよ!ムキャー!と力説しておきたい。以上、よろしくお願い致します。



腑に落ちない『ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ』

ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ [Blu-ray]
監督:ジョン・ボルソン。出演:ロバート・デ・ニーロダコタ・ファニング。ニューヨークに住む仲睦まじい一家。今日も優しい母ちゃんは愛娘(ダコタ・ファニング)をかくれんぼゴッコで優しく寝かしつけます。しかし父ちゃん(ロバート・デ・ニーロ)と母ちゃんの仲はなんだか穏やかじゃないのうと思ってたら次のシーンで母ちゃんは手首切ってバスタブでプッカプカしているので驚きです。母ちゃんの亡骸をバスタブから抱え上げる父ちゃんですがその様子を娘にバッチリ見られてしまい、娘はショックの余りナイーブなハートがブレイクしてセルフのシェルにロックインというか、まあ平たく言うとお心をお閉ざしになられます。心理学者でもある父ちゃんは娘の明るさを取り戻そうと郊外の一軒家に転地しますが、そこに引っ越してから娘の様子がますますおかしなことに。どうやら娘は「チャーリー」という空想の友人を作り上げ、それと一緒に日夜遊んでおられるご様子。父ちゃんは持ち前の心理学の知識でフフンこういうこともあるでしょうと冷静なフリしてしたり顔ですが娘の様子は一向に好転せず、むしろチャーリーが表れてからは偏屈の度合いが輪をかけてドイヒーです。さすがに冷静を装っていた父ちゃんもうろたえ始めます。さらに、どうやらチャーリーは空想の域を超えて実在しているようなフシがあり、チャーリーの行動は次第に父娘の生活を脅かし始めます。さて、チャーリーとは一体何者なのか…?というお話。


実はチャーリーの正体とは◯◯◯◯な訳ですが、正直にいうと、ちょっとビックリしました。いや決して上手いとは思わないし、一緒に観ていた妻は「…このオチ、まさかそれはないよな…と思ってたらホントにそうだったんでビックリした」と言ったぐらいにして、ある意味「予定調和的ドンデン返し」なのですが、いやーすっかり油断してました。ミステリ読みとしては不覚を取ったと言わざるを得ません。


まあそんな訳で個人的にはまんまと騙されてしまった訳ですが、しかしこのドンデン返しは今ひとつです。どうにもエレガントでない。大ドンデン返しがうまく決まる映画とは、えてして伏線の回収が巧妙だったり、あるいは再度鑑賞してオチにつながる伏線を発見できたりと、オチが決まった後に全てが腑に落ちる快感を兼ね備えているものが多いのですが、この映画はそこが弱い。オチが判明しても何も腑に落ちないというか、むしろオチに繋がらないミスリードばかり目立ち、「あの〇〇は結局なんだったの」と考えた結果、それが脚本上のミスリードのためだけに出てきたのだ、ということに気づいて何だか騙された気分になります(ダメな意味で)。


映画の前半は、ひたすら心を閉ざしっぱなしのダコタちゃんと、いまいち良い父親になりきれないデ・ニーロとの気詰まりな親子関係が延々展開され、冷え切った親子関係に付き合わされて観客の気まずいメーターは常時ハイレベルをマーク。なまじダコタちゃんの演技が上手いだけにこの娘の心の閉ざしっぷりは半端無い感じで可愛くないことおびただしく、かといってデ・ニーロの父ちゃんは本気で娘のことを考えているのかどうかイマイチ良くわからない振る舞いで娘の事は何一つ理解出来ないでいるご様子。心理学者のくせに。この噛み合ってない親子のギスギスが延々続くので何かの精神修養のようですが、それを耐えて耐えて耐えぬいてたどり着いた結末があの微妙さですからなんともモヤモヤが止まりません。まあこのギスギスがある意味非常に怖い(将来我が子との関係がこんな風になっちゃったらどうしようとか)のでホラー映画としてはある意味面目を保ったと言えなくもないというか、言えません。


ダコタちゃんとデ・ニーロが出てなければ、日本での劇場公開はなかったんだろうな…というどうでもいい思いが去来する映画ですね。なお、かつてのデ・ニーロの教え子役としてファムケ・ヤンセンが出ておられます。ファムケファンは要チェック。ファムケファンでない場合はスルーでも可。以上、よろしくお願い致します。