カジノロワイヤルの手帖

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最近観た映画のメモ(2024年3月 その2)

アカデミー賞は毎年楽しみですけど、いらん騒動抜きでみたいですね

 

 

 

『内海の輪』(1971)監督:斎藤耕一

 

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初見。松山で呉服屋の女将をやっている岩下志麻。東京で考古学者をやり義父の力で将来も安泰な中尾彬。二人は互いに配偶者がいながらダブル不倫生活を満喫していました。今度岡山で発掘調査があるから出てこないか。あらじゃあ尾道あたりでしっぽりと。二人はウキウキしながらそれぞれの家庭を欺いて密会旅行を楽しみますが、出先で嫉妬深いお手伝いさんに不倫現場を激写されたあたりから関係に暗雲が垂れこめます。楽しいはずの旅行が砂を飲んだみたいな重苦しい雰囲気に変わり、男愛しさのあまり「家庭も将来も捨てて自分と一緒になって!あとついでにお腹には赤ちゃんが」とベトついてくる岩下に中尾はうざい指数がデンジャーゾーンに突入。自分の将来を守るために岩下の殺害を決意して…というお話。

 

岩下志麻中尾彬という日本映画界でも屈指の顔圧を誇る二大俳優が、ゴジラVSコングもかくやの目力対決を繰り広げるこの映画。原作が松本清張の不倫サスペンスだけあって結末はハッピーになろうはずもなく、最初は毛ほどもなかったほころびが、展開につれて次第に取り返しのつかない亀裂に広がってゆくその過程を存分に味わえる居心地の悪いメロドラマとなっています。「不倫旅行の途中で知り合いにバッタリ」「旅程の延長を妻に電話で言い訳」といった不倫ヒヤリハット事例に肝を冷やしながら、確実に近づいてくる破滅への階段。「妊娠」の一言でその階段に乗っている自分に気づいた中尾の心境の変化と、それを察する岩下の演技の斬り合いがこの映画のキモです。

 

宿でひとしきり揉めたあと、ひとりスンスン泣きながらご飯を食べる岩下のいじけた後ろ姿にコクがあり、いじらしさや愚かしさや愛の深さを背中で表現している名演技です。しかし翌朝姿を消した中尾を追って近くの山林を半狂乱で探し回り、勢い余って崖をよじ登り始めるのはどうなのか。『影の車』で見せた熱いオロオロ演技を超える取り乱し演技はさすがの迫力ですが、松林のそばを走り回るシーンからカットがピッと変わったらもう崖に張り付いているというモンタージュエイゼンシュテインも予測不能の効果です。飲んでいたお茶が霧状になります。

 

というようなどうかしてる感はありつつも、主演二人のぶつかり合いで最後まで魅せるサスペンスでした。あなたもアイラインが涙で融けて墨流しみたいになってる岩下志麻の眼光で射すくめられるとよいでしょう。この迫力にはさすがの中尾彬も食われ気味でしたよ。

 

 

 

博士の異常な愛情』(1964)監督:スタンリー・キューブリック

 

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32年ぶりくらい二回目。冷戦真っ只中の米軍ではとある将校が陰謀論に染まった結果共産主義者の抹殺を決意。指揮系統をガン無視してソ連付近を哨戒しているB-52に核攻撃を命令します。それを知った米国首脳部がいかにして事態を収拾するかを皮肉たっぷりに描いたブラックコメディです。

 

いや面白いんですよ。アメリカ大統領が困ってソ連首相に電話するんですが、今にも世界が破滅しそうなのに初めて文通相手に電話するみたいなぎこちなさだったりして、こういうセリフのおかしさが際立ってるんですが、やはり言葉のギャグだけあって、真価は英語ネイティブの人じゃないと味わい尽くせないのでは…という気もします。

 

それより、事件の原因が陰謀論大好きな目覚めちゃったお方、というあたりが2024年の今日的にアツく、こういうひとが政府や軍の中枢にいることが割とあり得る話となってきたのもあって、おかしさを通り越して薄ら寒い。かつてギャグとして描かれた狂った状況が今は現実に近いというこの恐ろしさ。冒頭の「こんなことはぜったいないのであんしんしてください 米軍」という意味のテロップがもはや虚しいという体たらく。そういう意味で今観るべき映画なのではと思います。急に放送したNHK-BS、ナイスです。以前から思ってましたが編成にやっぱりメッセージを込めてるのでしょうかね?いいぞ!

 

 

 

『ARGYLLE/アーガイル』(2024)監督:マシュー・ヴォーン

 

 

現在公開中。エリーはスパイ小説「アーガイル」が大人気のベストセラー作家。ある日列車に乗っていたところ突然襲撃を受け、自称スパイの男エイダンに救われます。どうやら自作のスパイ小説が何の加減か現実になりつつあり、著者であるエリー自身が狙われているらしい。えっどういうこと?と思う間もなく次々と送られてくる刺客。エイダンは見た目はパッとしないおじさんですが、腕は立つのでエリーを守ります。しかし彼自身もなにかを隠しているらしい。そしてアッと驚く真相が…。

 

X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『キングスマン』でスパイ映画への深い愛を示し「こいつは信頼できるぜ!」と一部好事家からの支持をガッチリ得ていたマシュー・ヴォーンの新作はまたまたスパイ映画。予告編を見るかぎり、なんかハーレクイン・ロマンみたいな話だな〜、女流作家とスパイってなに?『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』かな?と勝手に想像していました。

 

しかし…始まってみると、どうも話がハッキリしない。架空であるはずのスパイ小説が現実になっていくという話ですが、いったい何故そうなっているのか、一体いま映画の中で何が起こっているのか、観ていていまひとつピンとこない。そうでなくても「ヒロインとスパイとの逃避行」みたいなコテコテのラブロマンスなのでは、と思われ、これは…マシューやっちまったか?もしかしたらいま自分はものすごい地雷を踏んでいるのか…?と鑑賞しながら顔が真顔になってしまうわけです。

 

ただし、中盤までは。

 

ここから先は重大なネタバレになるので語りませんが、ちょうど映画も後半に入る辺りで話の真相が語られ、なるほど、そういうことだったか!と膝を打ってから映画は俄然持ち直しました。話としては以後が本番でエンジンもフル回転なのですが、ちょっとでも見せるとネタバレになってしまう以上予告編でも触れられないので宣伝の人は頭を抱えたんじゃないか。こっから先が見せ場たっぷりなのにねえ…。

 

キングスマン』でキレキレのアクションを見せたマシュー・ヴォーンの手腕は健在で、後半の「煙幕ダンス」「原油ス◯◯ト」とかもうさいこう!ギャハハ!と大笑いですし、エリー役のブライス・ダラス・ハワードも大変チャーミングなんですが、しかしこれやっぱり予告編には出せないよねえ…。むずかしいよねえ…。興行もあちらじゃパッとしなかったみたいですし、続編の話が立ち消えになっちゃわないか心配です。

 

というわけで、鑑賞後は大変満足したわけですが、前半の語り口の未整理さ、何が起こっているのか観客を置き去りにしがちなところが惜しかったですね。ところどころ作りが荒っぽいのも勿体ない。なお、予告編では猫があちこちに出てきて、しかも扱いが雑なのでご心配の向きもあろうかと思いますが、猫は死なないので安心して御覧ください。

 

 

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