面白くても読んでると眠くなるのはなぜですか。歳ですか。
「ザ・キンクス」(1)榎本俊二(ワイドKC)
初読。超絶のエログロ「えの素」、底なしの深淵「ムーたち」に続く榎本俊二の家族ギャグマンガ。人は死なないし脱がないし分身もしない、という日常の範疇にギリギリ踏みとどまりながら、しかしどこかワンダーな世界に読者を連れて行きます。話の面白さに加えて、シンプルかつ繊細な描線が生み出す愛しい世界、躍動感ある構図とポーズと書き文字で描かれる一コマ一コマがすごい。漫画なのに音が聞こえ動きが見えてきます。かと思えばときおり見せる狂気をはらんだ何か。コマ運びのテンポも痛快。そして一見ぐーたらに見えてやるときはやるパンクなお母さんがちょう素敵。傑作なのでこれはヒットしてほしい。売れろ〜!そしてはやく2巻を!
「死の接吻」アイラ・レヴィン(ハヤカワ・ミステリ文庫)
34年ぶり2回目。久しぶりすぎてすっかり細部を忘れてました。(以下ネタバレしてませんよ)。どうせなら何もかもすっかり忘れて読みたかった…。意外な展開に思わずうわっと叫んでしまうミステリの名作。財産目当てに富豪の娘三姉妹に接近していくモラルの欠落した男の倒叙ミステリですが、第一部では男を「彼」とすることにより、視点の変わる第二部では「彼」の正体が誰かを探す犯人当てになる贅沢な構成がすごい。そこからサスペンスフルな第三部に流れ込んで劇的なクライマックスに至る描写も力が入っており、当時23歳の若者が書いたとは思えない完成度。…というような前知識以外は一切仕入れずに読んでギャッとなってほしい一冊。
「ドグラ・マグラ」夢野久作(角川文庫)
このギョッとする装丁もすっかりおなじみ
5〜6年ぶり、通読は7〜8回目かな。書かれた当時の日本語文章の形式を網羅し尽くそうとしているかのような、多種多彩な文章。独白、会話、阿呆陀羅経、随筆、談話、演説、論文、活弁、シナリオ、調査書類、インタビュー、古文、新聞記事、短歌、書き置き…。特に文語で書かれた部分が読み進める上でのハードルとなってますが、それ以外の部分は流れ出る呪文のような久作調でリーダビリティそのものは実は高いのです。問題は、一体今自分は何を読まされているのか、この文章はこの物語の中でいったいどのような役割を担っているのか、ということを把握して読むのが難しいこと(特に初読時)。なので理解のためには再読三読を要求されますが、それだけの魅力が詰まった小説です。
「長いお別れ」レイモンド・チャンドラー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
ちょっと訳あって10年ぶりくらい3回目の通読。ハードボイルドの真髄は筋を通すことだと教えてくれる一冊。