カジノロワイヤルの手帖

banの映画感想&小説漫画音楽路上日常雑感。

最近読んだ本のメモ(2023年12月 その2)

引き続きちまちま読んでますが、年末年始はあまり読めなかった…

 

 

「世界怪談名作集(上)」岡本綺堂編・訳(河出文庫

 

世界怪談名作集〈上〉 (河出文庫)

 

むかーし買ってたのを忘れてて本の山から発掘したのを初読。しかし(上)とあるのに下巻がうちにはないぞ。買うか。本書は綺堂自身が訳出した、欧米の文豪による怪談の傑作集。傾向として、ホラー味よりはスーパーナチュラルやダークファンタジー風味がまさるのが向こうの怪談ですが、ここに収録されているディケンズの「信号手」という短編は一風異なり、鉄道の信号係を襲う怪異について何ら合理的な説明を加えず、そこに不気味な暗合があった事実のみを淡々と書いて不可解さや不条理さをそのまま提示しており、それがために恐ろしさが増しています。この感覚は日本の実話怪談やホラー映画の感覚に非常に近い。自分としてはこの一編が際立って恐ろしかったです。何度も読んじゃった。

 

 

 

ビブリア古書堂の事件手帖5 〜栞子さんと繋がりの時〜」三上延メディアワークス文庫

 

ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)

 

初読。古書店を舞台に、古書にまつわる人間模様と心の機微を描き出すミステリー連作。というおなじみのシリーズですが前作でついに心のうちを吐露してしてしまった大輔くん(バイト)と栞子さん(店長)のその後は!というどうにも続きが気になってしまう一冊。しかし二人の仲の進展はジリジリともどかしいばかりに示され著者入魂の焦らしテクが冴え渡ります。文庫一冊分焦らされた挙げ句の二人の運命は…というのは実際に読んで確かめて頂きたいですがそこからの展開がまた絶妙の焦らしでまあヤらしい。こんなんもう次買って読むしかないだろう。例によって古書にまつわる挿話やディレッタントがもりもりなのは本好きにはたまりません。知ってる書名が出てくるだけで少しテンションが上がるなど。

 

 

 

「危険な童話」土屋隆夫(角川文庫)

 

危険な童話 (光文社文庫)

 

34年ぶりくらい二読目。昭和36年の作で、当時すでに本邦のミステリは社会派一色であり、本作もその一派とみなすことも出来ますが、実際は社会派の姿を借りたトリッキーな本格ミステリでした。かなり時を置いての再読でしたがトリックはバッチリ覚えていたのでやはりインパクトの強い仕掛けだったのでしょう。警察が犯人の仕掛けたトリックを打ち破る過程が、ロジックではなく地道な捜査であるあたりに時代を感じますが、犯人が心のうちに秘めた知られざる悲劇と、職務に忠実でありながらも真相に心を痛める刑事の荒涼とした胸の内が味わい深い。社会派という冷たいジャンルの中にあって、犯罪に走る者とそれを追う者の心の機微を描いた名作と言えます。

 

旧版の角川文庫版はカバーが怖すぎなんですよ

 

「枯草の根」陳舜臣講談社文庫)

 

枯草の根 (講談社文庫 ち 1-6)

 

初読。神戸の華僑社会で起きた殺人事件の謎を、自身も華僑であり、中華料理屋のオーナーで漢方医で拳法家の陶展文が解く!という著者のデビュー作にして乱歩賞受賞作。社会派推理全盛時代なので犯罪そのものや仕掛けは地味ですが、犯人の絞り方がロジカルで、その材料が作中にさり気なくばらまかれており、意外性やトリックよりも、なぜ陶展文は犯人を特定するに至ったか、という興味で読ませる本格推理です。ミステリとしての骨格がしっかりしているほか、描かれる華僑社会のエキゾチシズム、中国の文化や教養の風格ある描写、大人(たいじん)の貫禄がある陶展文の懐の広い人柄がよろしい。デビュー作でこの老成した格の大きさはすごいな。他のも読んでみたいぞ陳舜臣